食卓の小さな道具が、豊かな暮らしと豊かな森をつくる。木の七味入れ「kodachi」【地産地匠アワード】
土地の風土や素材、産地や業界の課題に、真摯に向き合って生まれたプロダクト。
そこには、日本のものづくりの歴史を未来につなぐそれぞれの物語がつまっています。
「地産地匠アワード」は、地域に根ざすメーカーとデザイナーとともに、新たな「暮らしの道具」の可能性を考える試みです。
2026年の受賞プロダクトの中から、木の七味入れ「kodachi」をご紹介します。それぞれの背景にある物語をぜひお楽しみください。
見逃されていた広葉樹の価値を見直すプロダクト
愛らしいサイズ感の中に込められた職人の技。一つひとつ異なる木の表情が、食卓に森の風景を運んでくる。無垢の木の佇まいが印象的な七味入れ「kodachi」は、中央アルプスと南アルプスに挟まれた土地、長野県 南部の伊那谷で生まれました。

「僕たちの軸足は木のものづくり。それによって暮らしに変化をもたらして、そして森林課題を解決したいんです」
そう話すのは、長野県伊那市を拠点に活動する株式会社「やまとわ」の代表 中村博さん。

山の幸や木材を供給し、水質を浄化し、酸素を生み出し、洪水や土砂崩れを防ぐ。
普段意識することは少ないかもしれませんが、森林が持つ自然の仕組みは私たちに本当にたくさんの恩恵を与えてくれています。そんな山や森の機能が、放置林の増加や過度な伐採、樹種のバランスの偏りなど、知らず知らずのうちにさまざまな要因で低下してしまっている。
そこに危機感を抱いた中村さんは、志を同じくする仲間との出会いを経て2016年に「やまとわ」を創業。以来、国内の森の資源を活かしたプロダクト開発と製造、それを用いた暮らしの提案を通じて、森と私たちの暮らしの距離を近づける活動をおこなってきました。


「森の木の中で、やっぱり建築用途に使いやすい針葉樹ばかりがフォーカスされてしまっていて、広葉樹はなかなか利用されていないんです。
細くて曲がっていても、特徴がばらばらでも、その魅力を活かして、日常で使ってもらえるプロダクトにできる。そんなメッセージも込められればいいなと」
樹種が多くて仕分けが難しいことや、針葉樹と比べて成長に倍ほどの時間がかかることなどから、商業的な価値が低いとされてきた広葉樹。利用価値が見い出せないから放置される森が出て来たり、新たに植えられるのが針葉樹ばかりで生態系のバランスが崩れたりと、広葉樹の利活用は森林を巡る大きな課題のひとつです。
「まずは広葉樹を暮らしの中で楽しく使ってもらう。そうすれば、森の課題みたいな話にも、多少は興味を持ってもらえるんじゃないかという思いがありますね」

「私も、取り入れるのにハードルが低い小さなアイテムから使っていただいて、森に少しでも興味を持ってもらえたらと思いました」
同社の取締役で、木工と設計ディレクターを務める吉田さんもそんな風に振り返ります。

東京出身で、お子様の誕生を契機に長野に移住した吉田さん。自身が感動した森の魅力を広く届けるため、‟その道のプロ”と一緒にものづくりができないかと考えていました。
そこで声をかけたのが、東京を拠点としながらも長野の山と深いかかわりを持つ、料理家の蓮池陽子さんでした。
料理家の目線で追及した、使いやすく素敵な「木の七味入れ」

東京 池袋育ちながら、母方の実家である宮城岩出山の自然が大好きだったという蓮池さん。大学の友人の誘いでアウトドアに興味を持ち、その流れでアウトドアクッキングのワークショップ講師へ。その職場でなぜか里山ガイドに駆り出されるようになり、山の面白さに目覚めたのだとか。
「小中学生の子どもたちを案内することになって、カエルの種類を覚えたり、カブトムシを取ってみせたり。そうこうするうちに、食には興味があったので、山菜やキノコを採るようになって、それがツアーみたいになっていって。というのが原点ですかね。
だんだんと、微生物がいるからこそ山は循環してるんだな、とか。すごいシステムだな、面白い!みたいなことに気づいていきました」
こちらが採りすぎなければ、また翌年になると自然に生えてくる植物たち。その生命の力強さにもひかれたといいます。
「全国の山がどんどん荒廃していく中で、ひとりでは無理でも、自分の力が活かせるところがあればそこで一緒にやってみたいという思いはずっと持っていました。
『やまとわ』さんのことは元々注目していたんですが、イベントを見学しにいったりしてつながりができて、今回お声がけいただいて。飛び跳ねるほど嬉しかったですね」

木の七味入れというアイデアは、蓮池さんの一言から始まりました。
「木の食卓の道具って、お皿とかスプーン、お箸、木べらとか、素敵なものがすでにたくさんあるんです。でも、素敵な木の七味入れはあまり無いかも、と思って提案しました。
私はデザイナーではないので、最初はどこまで何を伝えればいいのか悩んだんですが、途中から『いいものを作りたいんだから、要望は全て言ってみよう!』と開き直って。サイズとか使い勝手とか、かなり細かくお伝えしましたね。
それを形にしてくれた職員さんは本当に大変だったと思います(笑)」



「特に、この穴の位置にはこだわりました。デザイン的にもそうなんですが、なによりも使い勝手が良いのを最優先に考えて。職人さんからすると、もう少し下に穴がある方が作りやすいと思うんですが、七味の粉を出す際には穴が極力上にある方が出しやすいはずだと思って、ご無理を承知でお願いしました。
使い勝手が悪いものは、後から使わないものになってしまうので、そうならないように心がけたつもりです。
でも最終的には私がオーダーしていない、細かなところも想像以上に仕上げていただいて。職人さんはすごいなと改めて思いました」
使い手を想いながらブラッシュアップを繰り返す
「kodachi」の設計・製造を担当しているのは、木工と設計 職人の関優一朗さん。長野県の出身で、工芸技術を学べる京都の大学を経て「やまとわ」に就職しました。

「蓮池さんからいただいた穴の位置のリクエストは結構難しかったですね。
ユーザーの手元に届いた後の使い勝手や強度、デザインとしてどうなのか、職人としてどう作ったらいいのかっていうことを並行して考えて、試行錯誤しました。作ってみてブラッシュアップしての繰り返しで。
4種類の樹種を使っていてそれぞれ堅さも違います。『さくら』や『かえで』は特に削りづらくて、難しかった。なんとか完成出来て良かったなと思っています」
とにかく夢中で試作を繰り返しながら、精度の高さと量産スピードを両立するポイントを探っていったそうです。

食卓に置きたくなる素敵な佇まいで、使い勝手もよい七味入れ。使い手目線で蓮池さんがリクエストしたポイントに、木を熟知した作り手として応える関さん。両者のやり取りを経て、手のひらに収まる小さな木の道具の完成度はどんどんと上がっていきました。



商品に応じて治具を開発したり、最適な機械を選んだり、時には改造を施したり。機械化が進んでも、人の手が入る余地はまだまだ無数に存在します。
「工作機械は使いますが、完全なコンピューター制御は難しく、どうしても職人仕事が6割ぐらいは残ります。そこにロマンがあると思うし、作っている人が楽しいかどうかみたいなことも、やっぱり大切かなと。
会社の中にも、職人もいればPCで仕事する人たちもいる。その多様な関係性みたいなのがものすごく大事なんじゃないのかなと思いますね」(中村さん)
食卓の小さな道具が、豊かな暮らしと豊かな森をつくる
「都会で生活をしている人たちが、森のことを完全に知らない状態になっている。それが末恐ろしいなって思っているんです」と蓮池さん。
この七味入れが、森を考えるきっかけになることに期待を込めています。
「山や森のことを考えるきっかけを作っていきたい。そこが『やまとわ』さんと私で合致している部分なので、これからも一緒に何かを作ったり、イベントなんかもやっていきたいなと思ってます。プロダクトの第2弾、第3弾もそうだし、中身の七味自体も検討しています。
やっぱり料理家としては『美味しい』ということは大前提にしつつ、そこにメッセージのあるものを届けられたらすごくいいなと思っています」

同じように、自然との関係性に課題を感じてきた中村さん。それでも、これまでの「やまとわ」の活動を通じて、少しずつ見える世界が変わってきたと、手ごたえを感じています。
「僕一人では何もできなかったと思うけど、会社としてみんなでやってきて、当時は想像もしてなかった大きな山の管理を任されたりもして。
続けていけば必ず、その山自体を変えていくことができる。そうすれば、たとえば下流域の水質とか、生き物の状態とかが変わっていくんだな、というのがリアルに見えてきて、解像度もどんどん上がってきています。
会社の人材もバラエティ豊かになってきて。それぞれ得技は違うけど、やりたいことが一緒になれば世の中は変わっていくんだなと。そんな希望が持てているので、すごくわくわくしています。
この七味入れはその典型というか。蓮池さんも含めて色々な人の特技と思いが重なって完成しているもので、今の僕たちを表現してくれていると思うんです」

食卓の上の小さな道具が、私たちの暮らしを少し豊かに、楽しくしてくれる。そして知らず知らずのうちに、その豊かさをもたらす森に思いを馳せる人が増えていく。「kodachi」が広がった先には、そんな素敵な未来が広がっています。
文:白石雄太
写真:阿部高之