デザインとアートの間を行く福井「ataW (あたう) 」の審美眼

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ataWアタウ_鯖江

「さんち必訪の店」。産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。
必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

今回は福井県越前市にある「ataW (あたう) 」です。

福井の必訪店「ataW」とは

北陸自動車道・鯖江ICを降りて車で東に約10分。越前漆器の産地として有名な福井県鯖江市河和田地区の玄関口に位置するのが、2015年11月にオープンしたataWです。

田んぼが続く道に突如現れるataWの建物。何のお店だろうと通る人の目を引きます
(画像提供:ataW)
(画像提供:ataW)

木枠の引き戸を開けてなかに入ると、むき出しになった木の梁と白い壁。大きな窓からは陽の光が差し込みます。

福井でつくられたものはもちろん、国内外の作家による食器や洋服、日用品、家具、デザインプロダクトなど、さまざまな商品を扱うataW。

越前和紙で作られた小箱「moln (もるん) 」
地元福井の繊維技術を使ったkna plus (クナプラス) のエコバッグ「PLECO (プレコ) 」

普段使いできるものから、これはどんな使い方をするのだろうと考えてしまうようなものまで、一つひとつ商品を眺めながら店内をじっくり回っていると、あっという間に時間が経ってしまいそうです。

砂時計ならぬ泡時計「awaglass」 (左) は泡によってポコポコ刻まれる時間を楽しむためのもの。植物をとじ込めたリトアニアの万華鏡 (右) は光に透かすと四季折々の美しさを感じることができる
お花が並ぶアクリルの板。お花は1cm間隔で並び、定規にもなるのだとか (画像提供:ataW)

商品のセレクトを担当しているのは、関坂達弘 (せきさか・たつひろ) さん。1701年から続く漆器の老舗「株式会社関坂漆器」の12代目です。なぜこの場所にこんな素敵なお店を始めることになったのでしょうか。

老舗漆器メーカーの12代目が商うセレクトショップ

「もともと関坂漆器は学校や病院、機内食などで使われる『業務用漆器』を中心に企画・製造・卸を行っている会社です。この場所は漆器屋の小売店として、漆器を中心とした商品を販売するお店だったのですが、正直言うと、僕は当時の雑多な感じがあまり好きではなくて‥‥」

関坂達弘さん

大学で東京に行ったことを機にデザインに触れ、卒業後もオランダの学校でデザインを学んだ関坂さん。帰国後はしばらく東京で働いていましたが、2014年に地元福井県に戻ってくることになりました。戻ってみると、地元の様子が少し変わっていたことに気づきます。

「ものづくりに注目した若者がこのあたりに移住していることを知りました。彼らと話をすると、ものづくりに対するデザインの考え方などとても意気投合して、今まで僕が思っていた地元と変わりつつあるなと思ったんです。そんな彼らに刺激を受けたこともあり、ちょうどお店が10周年になるのを機に、リニューアルすることになりました」

以前の店名は、関坂漆器の先祖の名前である「与十郎 (よじゅうろう) 」。その「与」を訓読みした「与う (あたう) 」から名前を取り、店名を「ataW」にしました。ataWの末字を「u」ではなく大文字の「W」にしているのは、「内」と「外」をつなぐ地域にとっての窓 (window) のような存在でありたいという思いが込められています。

モノが溢れる時代だからこそ大切にしたいこと

冒頭にご紹介したように、ataWに並べられている商品のなかには、どうやって使おうか、と見るものの想像力をかき立てるものも。一体、どんな視点で商品をセレクトしているのでしょうか。

関坂漆器独自のプロダクトも。イギリスのデザイナーIndustrial Facility (インダストリアル・ファシリティ) と協働で作られた「STORE (ストア) 」は、業務用漆器の技術を活かした多目的容器。何を入れるかは使う人次第

「基本的に作家さんのものづくりの考え方や手法、ストーリーなどを重視していますが、そもそも機能とか便利さとかにはあんまり興味がなくて。それよりも、“もの自体の持つ力”に興味がありますね」
と言う関坂さん。

オランダで勉強をしていた時に、日本のように『これはデザイン、これはアート』といった境界がない自由な感覚で学んでいたことも影響しているのだそう。

「日本では機能がないものはアートに分類されがちですが、もっとふんわりとした中間の存在があってもいいんじゃないかなと思い、商品を選んでいます。お店を始めた当初は、一緒に運営している家族から『置いてある商品の意味がわからない』と言われたこともありましたけどね (笑)」

しかし、ataWが出来たことで、若者がこの店に集うようになったり、遠方からわざわざこの店目当てに訪れるようになったりと、まちの様子は確実に変わりつつあります。

「今の生活のなかでものは十分すぎるくらいにあって、今更必要なものなんてもうないのかもしれません。だからこそ、僕はどこか情感をゆさぶられたり、感覚をハッとさせられるものに惹かれるのだと思います。ちょっとした視点の違いや発想の転換で、違う景色を見せてくれる、そういう商品を通して、店に来てくれる人に少しでも新たな発見や気づきを見つけてもらえたら嬉しいですね」

“美術館とお店の間のような存在でありたい”と言う関坂さん。
私たちのまわりにあふれているものとは何なのか。普段なかなか考える機会はないかもしれませんが、ataWに訪れると、立ち止まって考えるきっかけを与えてくれるかもしれません。

ataW
福井県越前市赤坂町3-22-1
0778-43-0009
営業時間 11:00〜18:00
定休日 水曜日、木曜日、年末年始 (※定休日でも祝日は営業)

文:石原藍
写真:上田順子

*こちらは2017年9月3日の記事を再編集して公開しました。ここでしか出会えないものが手に入りそう。福井を訪れた際はぜひチェックしてみてください!

RENEW2019 開催決定!

ataWも参加する鯖江発・体験型マーケット「RENEW」が今年も開催されます!

RENEW 2019
普段出入りできないものづくりの工房を開放し、実際のものづくりの現場を見学・体験できる参加型マーケット
開催:2019年10月12日(土)~14(月)
会場:福井県鯖江市・越前市・越前町全域
https://renew-fukui.com/

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