三十の手習い「茶道編」一、今日から変わる、きれいなお辞儀の仕方
こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
着物の着方も、お茶の作法も、知っておきたいと思いつつ、過去に1、2度行った体験教室で習ったことは、すっかり忘却の彼方。そんなひ弱な志を改めるべく、様々な習い事の体験を綴る記事、題して「三十の手習い」を企画しました。第1弾は茶道編。30歳にして初めて知る、改めて知る日本文化の面白さを、習いたての感動そのままにお届けします。今回は初日のお稽古レポート、その後編です。
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◇今日から変わる、きれいなお辞儀の仕方
今日は好きなように飲んでみてください、とお茶を一服いただき、一同少しくつろいだところで、「礼」の稽古が始まりました。
「礼の始まりは、きれいに座ること、きれいに立つことです。
立礼でも座礼でもルールは全部一緒です。背筋を伸ばしてきちんとお辞儀をする。その、頭がボトムラインに達した時に、一拍止めるときれいなお辞儀になります。
この時、互いの頭を上げ下げするタイミングが揃っている方が気持ちいい。揃えたかったら、お辞儀をする前に相手の顔を一瞬パッとみることです。そうすれば、必ず揃います」
では、やってみましょう、とまず座礼の基本姿勢から習います。
「男性は正座したら、膝と膝の間に拳二つ分くらい空ける。女性は一つ分。丹田に力を入れて、顎を引いて、1度大きく息を吸って、静かに長く吐いてください。
気息(きそく)を整えて、ことにあたる、ということが大事なんですね。
大きな木を抱えるように体の前で手で丸を作って、そのまますっとおろしてきます。
手の甲を上に向けて、太ももの上に乗せる。
何をするにもこの動作からやっていきます」
「この状態で、礼。
たとえ深々としていなくても、背筋が伸びていて、ほどよい角度で一旦止めることが大切です」
次は、席を立つ時の所作。
「立ち上がる時はつま先立ちをして、かかとの上にお尻を載せる。その時背筋がまっすぐに伸びていること。
これができない時は、足がいうことを聞いていない時なので、絶対に立ってはダメです。逆にどんなにビリビリきていても、この姿勢になれるなら、足がいうことを聞いているので大丈夫。この状態で膝をすっと浮かせて、立ち上がります」
本当に、このやり方だと着物でも無理なく立ち上がれます。
「背筋は自分が思っているほどまっすぐに伸びていません。背中が弓なりになっているくらいのつもりで立ってみて、肩をグッと後ろに落として下げる。これでやっとまっすぐです」
一通り実践してみた後で宗慎さんの語られた言葉が、とても力強く、心に刻まれました。
「手に入れた知識、教養こそ財産です。これは他人が絶対に奪うことのできないものです。
1回聞いて知った話は、なかったことにはできない。後天的に訓練してきれいになるとわかったら、相手のお辞儀をチェックする人生が始まるんです。
だから、勉強しておかないと駄目なんです。口に出さないだけで、自分は知らないけれど相手が知っていることがたくさんあると思ったら、恐ろしいですよ」
これからはお辞儀はきれいでないといけない、というファクターの加わった人生になるんです、とニッコリ語られる宗慎さんの言葉に、座にはさぁどうしよう、という笑いが起こりました。
◇ものを選ぶこと、選ばれるものを作ること
「お茶って一つには、物を選ぶということだと思うんです」
話題は礼から、道具のお話へ。
「たいそうなものを選ぶのではなく、身の回りにある小さなものを、おざなりにせずに選んでいく、その作業が大事です。作り手にすれば、選んでもらえるものを作ろう、ということですね」
そうして、大切にされている扇子と黒文字楊枝を見せていただきました。
広げた姿に、すでに緊張感があるでしょう、と開いてくださった扇子は、艶やかな漆塗りの親骨に純銀の要。数年寝かせてから貼られたという和紙の扇面は、閉じるとパチンと小気味良い音がします。
一般的なものより長さのある黒文字楊枝は、なんと象牙製。ずっしりと重みがあります。
「これからものの美しさを習うというのに、初心者だからとお店の人が安いものを勧めるのは間違いです。自分のお小遣いで買える最高のものを買おうという気構えが、買う側も売る側も大事なんです」
◇気がある人になる
2服目をいただいて、そろそろお稽古も終盤。稽古中に繰り返し宗慎さんが語られたのが、「気がある」という言葉でした。
「世の中で一番大事なのは、気があることです。
気を持って『こういうものをわかるようになりたいな』と我勝ちに、自分の方から間合いを縮めようとさえ思えば、あっという間に縮まりますよ。
練習とは言わないということも大事なところです。練習でなく、稽古です。
古事記の冒頭に、なんでこういう歴史書を作るのか、が語られます。そこに出てくる言葉が、「稽古照今」。稽古の稽という字は、考えるとか、思い致すという意味です。つまり、古を考えて今を照らすということ。
人間のやることに大差はないのだ、だから、かつての人々のやってきた事に思いを致し、今の我々がやっていこうとしていることを照らす、ということです。
ですから、練習という言葉よりも稽古という言葉の方が僕は好きです」
言葉のひとつひとつにも、気を持って。
「大層だと思っていたことは実際そうでもなくて、逆に、そうでもないと思っていたことが、大したことだったと気づくことの方が多いんです。扇の1本、茶巾の1枚を選ぶことが、いかに難しいか。それに気づくことが大切です。
自分が正しいと思っていたら永遠に変わらないですよ。気がある人になっていきましょうということです。
―では、今宵はこれくらいにいたしましょう」
習いたての礼で第1回目のお稽古が終了。ゆっくりと上げた頭に、きれいに立つ、座るということを、やっておいてください、と宗慎さんの言葉が染み込んでいきました。
◇本日のおさらい
一、何事にも気息を整えてことにあたる
一、礼は頭を上げる前に一拍止める。相手と呼吸を合わせて
一、身の回りの道具一つひとつ、おざなりにせず自分で選んで大事にする
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文:尾島可奈子
写真:庄司賢吾
衣装・着付協力:大塚呉服店