細萱久美が選ぶ、生活と工芸を知る本棚『堀井和子 和のアルファベットスタイル 日本の器と北欧のデザイン』

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こんにちは。中川政七商店バイヤーの細萱です。

生活と工芸にまつわる本を紹介する連載の五冊目です。今回は、個人的にかなり想い入れのある本をご紹介します。

堀井和子さんの『和のアルファベットスタイル』というエッセイで、器やインテリアの綺麗な写真が添えられています。本の紹介をする前に、まずは堀井さんのことを。

堀井さんの肩書きは一言に表せないのですが、料理スタイリストに始まり、食や料理の本を多数出版されたり、「粉料理研究家」という時期もありました。

以降もインテリア、雑貨、暮らし、国内外の旅などにまつわる本も数多く執筆。現在は、ご主人と「1丁目ほりい事務所」を構え、食器やテキスタイルをデザインしたり、アートやイラストなどの企画展をされたりと、幅広い活躍をされています。

精力的に堀井さんが出版されていたのはかれこれ30年前くらいなので、現在40~50代の雑貨好き女性はご存知のことでしょう。熱烈なファンも多く、私もまさにその一人。著書は全て持っていて、今後も手放すことは無さそうです。

なぜそこまで堀井さんに惹かれるのだろう?

わたしを離さない理由はいくつかありますが、センスやスタイルが誰とも違っていて、オリジナルを貫いていること。そしてそのスタイルが流行などに左右されず、ブレのないことが大きいのです。

その大きな特徴は、本のデザインやイラスト、写真まで全てご自身で手掛け、パーソナルブランディングがしっかりしていることです。そこまでトータルに手掛ける方は、今でも少ないと思います。

初めて読んだのはパンやお菓子の本ですが、単なるレシピ本ではなく、そのアートな感じに「なんだこのおしゃれな本は!」と、大学生の私にはものすごい衝撃でした。旅の本に書かれていたアメリカのバークレーに憧れて、卒業旅行で訪ねるほどでした。

それまで、料理にも暮らしのことにもさほど興味のなかった私ですが、食や身の回りのものに一気に興味が沸いたのも堀井さんの影響が何よりも大きく、今の仕事にもつながっている気がします。

16年前の本なのに新鮮に読める、「好き」を磨くヒントがいっぱい

『和のアルファベットスタイル』には、堀井さんの持ち物である、和と北欧の食器やインテリアに加え、缶や紙ナプキンのコレクション、それらに関する本も紹介されています。発行は2001年と16年も前ですが、今でも新鮮な感覚で見られるのが凄いところ。

そういえば、北欧ブームが起きたのも、映画の「かもめ食堂」の公開や、イケアの日本進出の2006年前後でしょうか。北欧と日本のモノに親和性があることを知ったのも堀井さんからかもしれません。

本では東北地方を紹介したページもあり、中川政七商店でもお取引のある「釜定」さんも取り上げられています。釜定の鉄瓶や鉄のフライパンはモダンで、北欧やフランスの鋳物にも通じるデザインを感じます。

他にも工芸の店の「光原社」や、ざるやかごの「ござく森久商店」の存在もこの本で知り、美しい手しごとに一気に興味を抱きました。その後、東北を旅したのは言うまでもなく、盛岡には何度か足を運んでいます。

紹介されているコレクションや本は、デザインがどれも素敵です。料理、アート、デザイン、建築、工芸、絵本などのジャンルにおいて、装丁やレイアウトの美しい、楽しい本がお好きとのこと。私も「見せるため為の本」を飾っていますが、それも堀井さんに本の美しさ、楽しさを教わったからなのだと思います。

堀井さんからもらった影響のせいでしょうか、いまでも缶が欲しくてお菓子を買うことも少なくないですし、風合いの良い紙は捨てられずに取ってあります。お金や希少性ではない自分だけの宝物ってあるなと共感しています。

たとえば、「骨董屋や、美術館の展示を前に、どれか一品を買えるとしたらと想像して、いつも最後に『これにする!』」と決めるのだとか。そうすると、「すごいと思うもの」と「好きだと感じるもの」が一致するわけではないことに気付けるのだとか。なにも国宝や重要文化財だから自分の気持ちが動くのではありませんからね。

そう言えば、自然とそのような見方をしている自分にふと気付き、ようやく「好き」にブレが無くなってきたように思え、少し嬉しくなりました。

<今回ご紹介した書籍>
『和のアルファベットスタイル 日本の器と北欧のデザイン』
堀井和子/ 文化出版局

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。


文:細萱久美
写真:杉浦葉子

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