無病息災を祈って飾る「黄ぶな」。宇都宮で愛される郷土玩具ができるまで
エリア
こんにちは。ライターの小俣荘子です。
日本人は古くから、ふだんの生活を「ケ」、おまつりや伝統行事をおこなう特別な日を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台‥‥清々しくておめでたい節目が「ハレ」なのです。
こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどを紹介します。
「無病息災」の祈りを込めた郷土玩具
江戸時代から伝わる、栃木県宇都宮市の郷土玩具「黄ぶな」。ふっくらとして可愛らしい黄色い鮒 (ふな) の張り子人形です。
黄ぶなには、こんな言い伝えがあります。
「昔むかし、宇都宮地内に、天然痘が流行して多くの病人が出ました。そこで村人は神に祈り、病気の平癒を願います。ある日、信心深い一人の村人が、病人に与えるために郷土を流れる田川へ魚を釣りに出かけ、鯛のように大きくて変わった黄色い鮒を釣り上げました。これを病人に与えたところ、病気がたちどころに治ったのです。村人たちはこれを神に感謝し、また病気除けとして、この黄鮒を型取り、毎年新年に神に備えるようになりました」
今では、その愛らしい姿から宇都宮土産としても展開されている黄鮒ですが、無病息災を願って玄関先に飾る風習が残っています。
黄ぶなの顔はなぜ赤い?
かつては、秋の採り入れ時期が終わってからお正月までの農家の副業として、多くの人が黄ぶな制作をしていました。徐々に作る人が減り、一時は途絶えてしまいましたが、現在は宇都宮の伝統工芸士である小川昌信 (おがわ・まさのぶ) さんが復活させ、技術を継承しています。
小川さんの工房を訪れてお話を伺いました。
「黄ぶなの顔は真っ赤ですが、なぜ赤いのでしょう?酔っ払っているわけでないのですよ (笑) 。
郷土玩具の世界では、『赤もの』と呼びますが、かつて中国から入ってきた思想で、赤には厄除けや病気除けなどの意味合いがあります。だるまや福島の赤べこなど、各地に赤い縁起物がありますね」と小川さん。
制作に加え、小学校の伝統工芸の授業のゲスト講師として、小学校やご自身の工房、修学旅行生のために日光での体験教室でレクチャーも行う小川さん。この日も、県内の壬生 (みぶ) 町立稲葉小学校の子どもたちが黄ぶな作り体験にやってきました。
カラフルな黄ぶなができるまで
「この黄ぶな、何でできていると思う?」と張り子の解説から始まる体験教室。
子どもたちは「木?」「土?」と声をあげます。
「答えは紙でした。木型に紙を張りつけて1日半ほど乾燥させます。黄ぶなの腹部を切って木型を取り出して切り口に紙を張る。ほら、こんな風に出来上がるよ」小川さんのレクチャーは進みます。
「出来上がったものにひれをつけて形を整えたら、膠 (にかわ。動物の皮を煮出してつくられる天然の接着剤) と胡粉 (ごふん。貝殻などをすりつぶした白色の顔料) を塗って白い下地を作ります。乾いたら、この上から色付けをしていきます。今日は、絵の具でみんなで色を付けましょう。まずは黄色から!」と、色付けが始まります。
※実際に販売される黄ぶなは、膠と染料を混ぜて、硬さを熱でコントロールをしながら着色し、艶のある仕上がりにします。
子どもたちは真剣な面持ちで黄色、赤、緑、黒、金と順番に色をつけていきます。
鮮やかな色を重ねていくとなんだか美味しそうに見えてきたりも。「オムライスみたい!」なんて声が上がり、盛り上がりました。先ほど小川さんから教えていただいた「赤もの」の意味や、家での飾り方も習います。
1年間、玄関に飾ることで徐々に色が褪せていく黄ぶな。初詣の際に神社で購入した黄ぶなは、年末にお焚き上げをして、新年にまた新しいものを飾り、改めて1年間の無病息災を願います。
ちょっとおとぼけ顔の愛らしい姿が玄関で見守っていてくれたら、心が和んで、毎日元気付けられそうですね。
<取材協力>
ふくべ洞
宇都宮市大通り2-4-8
028-634-7583
文・写真:小俣荘子
*こちらは、2017年11月12日の記事を再編集して公開しました