夫婦で、親子で違う益子焼。益子「えのきだ窯 本店」
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こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
工房を訪ねて、気に入った器を作り手さんから直接買い求める。そんな「窯元めぐり」に憧れを持っていました。
一方で「どこに訪ねていったらいいのかな?」「いきなり行っていいのだろうか‥‥」と勝手がわからず尻込みし続けてはや幾年月。はじめの一歩を、この記事で踏み出していきたいと思います。
今回訪れているのは、栃木県・益子町。「陶芸家が打つお蕎麦」をいただける、えのきだ窯さんの支店を後に、10分ほど歩いてきました。
*前編「窯元の名物は打ちたて蕎麦?えのきだ窯 支店」はこちらからどうぞ。
県外にもその名を知られる「starnet」や人気の公共宿「フォレストイン益子」にも近い県道230号線沿いに、えのきだ窯さんの本店があります。
器が並ぶ空間を楽しむ
「もともとここは細工場 (さいくば) だったんです。それを僕と若葉さんで3、4年前に店舗に改装しました」
出迎えてくれたのはえのきだ窯5代目の若葉さん、智(とも)さんご夫妻。
先ほど支店でお蕎麦を振舞ってくれた、お父様で4代目の勝彦さんとともに、普段は2階の工房でそれぞれに器を作られています。
お客さんが来たら降りてきて接客するスタイル。勝彦さんは支店から注文の電話があるごとに、「出張蕎麦打ち」に出かけて行きます。
お店に入ってすぐの広いスペースは、智さんいわく「益子の定番の並べ方」。同じ種類の品物が集まり、スタッキングされて並んでいます。
一方、お話を伺ったのはお店に入って右手の囲炉裏を囲んだスペース。ここが仕事場だった頃には勝彦さんご夫妻の休憩室だったそうです。くつろいでもらう場所だからと、作品も1点1点余白を持って置かれています。
「はじめて来たお客さんは、こっちの部屋に入るのはちょっと勇気がいるみたいなんですが、近所の友達なんかは本当にお茶だけ飲みに来たりするんですよ (笑) 」
立派な囲炉裏は宇都宮で採れる大谷石で作られたものだそうです。ちょっと勇気を出してお邪魔してみると、空間によって同じ造り手さんの作品もまた違って見えるから不思議です。
三者三様の器を手に取る
店内には5代目である若葉さんの作品を中心に、智さん、勝彦さんの3人の器が並びます。
益子は作家文化の根付く焼き物産地と聞いていましたが、確かにご家族でも、それぞれに作品の色かたち、持つ雰囲気が違っています。
どんな器を作るかは本人次第。急須も、伝統的な物と最近の物ではスタイルが変わっています。
智さんが大切にされているのは「えのきだ窯らしさ」。結婚を機に益子へ移り、支店でお蕎麦を手伝ううちに「自分の作った器で料理を食べてもらうってええなぁ」と、器作りをスタートされたそうです。
若葉さんはここ数年、水玉など柄を取り入れたシリーズが人気。
「色の組合せをはじめに思いついて、そこに水玉部分だけロウを塗って釉薬を弾いたらどうだろう、とやってみたら、柄としてうまくいったんですね」
釉薬を弾かせる手法も、実は窯元によって違うのだそうです。このロウを塗る方法(ロウびき)は、えのきだ窯伝統。そういえば支店でいただいたお蕎麦の器も、ロウびきがされていました。
自分の好きな「益子焼」に出会う
同じ窯元さんでも、家族でも作風が変わる。ある意味それが益子「らしさ」なのかもしれません。最後に「作品作りで益子焼らしさを意識することはありますか」と伺うと、お二人とも「ある」との答えが返ってきました。
「以前、薄くて軽い器を作ろうとしたこともあったのですが、益子の土はやはり、薄いものよりもぽってりと厚手のものに向いているみたいなんですね。
何より自分が使ってみて、益子に昔からあるような厚手の器の方が、私には使い心地がよかったんです。
炊きたてのご飯をよそっても手に熱くない。丈夫で、子どもも安心して使えます。だから、益子の土や伝統釉の良さを活かしながら、デザインは現代に沿う、そういうことを大事にしています」
同じ益子の土や釉薬を使いながら、こんなにも違う、こんなにも同じ。それはえのきだ窯さんに限らず、この町のあちこちで出会える光景かもしれません。
「自分好みの器」は人の数だけありますが、それに応えてくれるだけの多様な作り手さんが、この町には存在します。
無数の出会いの可能性の中から、自分の「これだ!」と思う器とめぐりあうきっかけを、お蕎麦やあたたかな囲炉裏のまわりで提供してくれる。そんな距離の近さが嬉しいえのきだ窯さんでした。
<取材協力>
えのきだ窯 本店
栃木県芳賀郡益子町益子4240
0285-72-2528
文・写真:尾島可奈子