すぐに売り切れる「サンドイッチかご」。創作竹芸とみながの竹かごが長持ちする理由

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とみながのサンドイッチかご

各地の取材で出会う暮らしの道具。作っている人や生まれる現場を知ると、自分も使ってみたくなります。

先日、取材で訪ねた鹿児島の竹細工専門店「創作竹芸とみなが」で、「サンドイッチかご」なる道具に出会いました。

ふたを開けた様子

竹林面積日本一の鹿児島県内で昔から作られてきた、ご当地かごのひとつです。

「中でも、サンドイッチかごは作るのが難しくてね。人気なんだけれど数が限られるから、すぐ売り切れちゃう」

教えてくれたのは、「創作竹芸とみなが」のご主人、富永容史 (とみなが・たかし) さん。

一体どんな風にこの愛らしいかごは生まれているのか。富永さんのご案内で、サンドイッチかごが生まれる現場を訪ねます。

ご当地かごがいっぱいの、富永さんのお店の様子はこちら:「まるで宝探し。好きなかごに出会える鹿児島の『創作竹芸とみなが』」

鹿児島で山を見たら竹林と思え?

富永さんの車で職人さんの工房に向かっていると、

「あれ、竹林ね」

高速道路わきの竹林

「ほらここも」

私にとってはただの景色だった高速道路わきの山から、富永さんは次々に竹林を見分けていきます。

さすが、竹林面積日本一の県。「山を見たら竹林と思え」と言っても過言ではないくらい、小一時間の道中に見かける山々には、竹が生えています。

目が慣れてくると、生えているのが竹であるのが段々わかってきます
目が慣れてくると、生えているのが竹であるのが段々わかってきます

ドライブの合間に、富永さんが竹の基礎知識を教えてくれました。

竹の「切り旬」

「生えて1年目の竹は絶対に使わないの。若いとすぐにしなびて製品にした後にもたないから。3〜5年経った竹が切り旬。6年以上経っても古すぎてだめだね」

ちなみに、もうすぐ旬を迎えるタケノコになる竹と、竹細工に使う竹は別もの。タケノコを栽培している山は土に肥料を与えているため、竹が育っても養分が多すぎて細工に使えないそうです。

「他にも、キロクタケハチという言葉が昔からあってね。『木は6月に、竹は8月に切りなさい』という先人の知恵なんです。旧暦だから今でいうと8月は10月あたりだね」

そんな竹の豆知識をあれこれと教わっているうちに、職人さんの工房に到着。一見すると普通のお家にしか見えません。

セカンドキャリアは竹かご職人

「竹かご作りは手間も時間もかかります。それだけを生業にしてる人は今はいないね。みんな定年後に作り方を覚えて、自宅でやっている人がほとんどです」

今日伺う島田洋司さんも、定年退職後に竹細工職人となったひとり。

1日の大半を過ごすという工房内。テレビが見やすい位置に作業台がセットされています
1日の大半を過ごすという工房内。テレビが見やすい位置に作業台がセットされています

富永さんが旗揚げに携わった鹿児島市の技術学校で竹細工の技術を習得し、職人デビューして11年を数えます。

「竹はまっすぐに生えるから、その繊維をきれいな直角に曲げて作る四角いかごは作るのが難しいのね。

特に蓋のあるものは、身と蓋がピタッと合わないといけないからサンドイッチかごはなかなかきれいに作れる人がいない。島田さんはそんな難しい角ものをきちっと作れる人です」

島田さん。富永さんが信頼を置く職人さんのひとりです
島田さん。富永さんが信頼を置く職人さんのひとりです

ご自宅の離れを活用しているという工房で、その手わざを見せていただきました。

軽くて丈夫で何より可愛い。サンドイッチかごができるまで

竹材の幅を揃える道具
竹材の幅を揃える道具
厚みを整えて‥‥
厚みを整えて‥‥
専用の台にセット。ろくろのように土台が回転します
専用の台にセット。ろくろのように土台が回転します
かごのサイズに合わせて角度を付けた竹ひごを、編んでいきます
かごのサイズに合わせて角度を付けた竹ひごを、編んでいきます
おもて、うらと流れるように編まれていきます
おもて、うらと流れるように編まれていきます

道具はどれも、島田さんが自分でカスタマイズしたものばかり。回転する作業台も、島田さんオリジナルだそうです。

「設計図は特にありません。材料の厚みなど基本的なことを教わったら、あとは自分でやりながら覚えていくだけですね」

作業の手を休めず何気なく答える島田さんに一番難しい工程を伺うと、

「節の出方を考えなきゃいけないところかな。編み目の内側に竹の節が当たるとぽきっと折れてしまうから、節が大体どの辺りに来るのか、編み始める前に考えておかなきゃなりません」

表面をよく見ると、節がおもて側に、揃って現れています
表面をよく見ると、節がおもて側に、揃って現れています

節をうまく避けて編むための秘密兵器も、島田さんは手作りしています。

島田さんオリジナルの定規。タテヨコの編み目が色で示されています。竹の節がここに当たらなければOK
島田さんオリジナルの定規。タテヨコの編み目が色で示されています。竹の節がここに当たらなければOK

何気なく編んでいるようで、こんな工夫がされていたとは。

かごの上部に、先ほどの定規と同じものがセットされています
かごの上部に、先ほどの定規と同じものがセットされています

「節がなければ随分楽だろうと思いますが、その分できたものに特徴がなくなってしまいますからね」

作業を見ていた富永さんが、帰りの車の中で語ります。

「竹細工は材料の段取りが8割。特にサンドイッチかごは竹の皮部分しか使わないの。身は全部捨てちゃうのね。

油抜き (ゆぬき。竹の余分な油を火や熱湯で抜く作業) をして、材料の幅や厚みを揃えたり、節の出具合を計算したり。

もうひとつ、私から職人さんにお願いしているのは、材料を切ったままの角ばった状態で使わず、必ず面取りをすること。それだけで手触り良く、表情が柔らかくなるからね」

鹿児島の竹細工を専門に商う立場として、富永さんは職人さんへのアドバイザー的役割も担っています。

「作業の様子を見ていると、うちの竹かごが長持ちする理由もよくわかる。長持ちすぎて売れないのが困りものなんだけどね。あ、あそこも竹山」

可愛らしいサンドイッチかごを生み出していたのは、オーバー60世代コンビのたっぷりの愛情と細やかな創意工夫。

手に乗せるととても軽いのですが、ちょっとやそっとのことではへこたれない丈夫さを感じます。鹿児島から持ち帰って、早速使ってみようと思います。

<取材協力>
創作竹芸とみなが
鹿児島県鹿児島市鷹師1-6-16
099-257-6652

文・写真:尾島可奈子
※こちらは、2018年3月6日の記事を再編集して公開しました。

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