特徴が無いのが特徴? 神さまから武将まで魅了した焼きもの・赤膚焼の秘密
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こんにちは、さんち編集部員の尾島可奈子です。
毎日使うご飯茶碗から床の間や玄関の置き飾りまで、生活の中に必ずある焼きもの。その産地は全国各地に点在し、最近は自分の足で窯元を訪ねて、気に入った器を探す人も増えています。今回訪ねたのは日本最古の都・奈良が育んだ赤膚焼(あかはだやき)。あまり耳慣れない名前ですが、「全国的にさほど知名度が高くないのは、ずっと地元で使われてきたからかもしれません」と語るのはお話を伺った窯元「香柏窯」の尾西楽斎(おにしらくさい)さん。その「地元」の納め先というのが、古都らしいビッグネームぞろい。焼きもの好きも日本史好きも知っておきたい、赤膚焼の魅力に迫ります。
全国金魚すくい大会で有名な奈良・大和郡山市。窯元というと山奥にあるイメージですが、尾西さんの「香柏窯」まではJR郡山駅からなんと徒歩1分。
こんな駅近く、ギャラリーと併設された工房では、世界遺産・春日大社に納める品物づくりがまさに最盛期を迎えていました。
「今年春日大社さんは20年に一度の式年造替を迎えます。これはご造替にあたっての記念の品です。それとこちらは今解体修理中の薬師寺東塔の基壇から出た土で作った器。僕がこの土を使わせて欲しい、とお願いしまして・・・」
春日大社、薬師寺、東大寺。説明の中に、次々と著名な社寺の名前が飛び出します。実は世界遺産登録件数、全国第一位を誇る奈良県。先ほどの3つももちろんこの中に名を連ねます。尾西さんは春日大社から「春日御土器師(かすがおんどきし)」の称号を与えられた、赤膚焼を代表する陶工の一人です。
「奈良には日本で最も古い都がありました。朝廷や都があるところには、大きな寺社仏閣があり、そういうところには必ず陶(やきもの)が要るんです。祭器ですね。今も、うちでお東大寺のお水取り(毎年早春に行われる、人々の無病息災を祈る伝統行事)のお香水の器や、大仏さまのご飯茶碗を作ったりしています」
一般的に赤膚焼の歴史は天正年間に豊臣秀吉の弟、秀長が当時の郡山城主として土地を治めた際、陶工を呼んで茶道具を作らせたのが産業としての起源とされています。信長の時代に始まり、当時は武将への褒美の品として茶道具が重用されていました。しかし、それよりずっと以前、こうした神事とのかかわりの中に、そもそもの赤膚焼のルーツはあるようです。
重厚感のある歴史物語とは一転、工房に併設されたギャラリーには、どっしりとしたお茶道具だけでなく、鹿などの奈良の風物を描いた『奈良絵』の豆皿やかわいらしい香合も並びます。
見渡すと、その色形もさまざま。実は赤膚焼、使用する土や焼き方にこれといった定義がないそう。
「本来いろんなことをするのが赤膚焼なんです。今の赤膚焼の基礎を作ったのは江戸末期の奥田木白(おくだ・もくはく1799−1870)という人ですが、木白自身、各地の焼きものを精巧に写した器をたくさん作っていた。たとえば萩焼、備前焼にしか見えないものを。『諸国模物處(しょこくうつしものどころ)』の看板を掲げていました。そもそもこのあたりは土の層がうすい。ちょっと層がかわると、土の色も変わります。同じ釉薬をつかっても、土と窯が変わったら出来上がりが変わるんです。赤膚焼の特徴は、無いのが特徴なんですよ」
とはいえ何も無いというと語弊があるので、と見せていただいたのが、器の内側に赤富士が配された抹茶椀や椿柄の鉢。地のうっすらとしたグレー色は「赤膚釉」と呼ばれる藁灰を使った釉薬の色で、これも奥田木白が取り入れたもの。赤膚焼を代表する釉薬です。
「釉薬のかかっていないところは赤く染まります。赤膚焼の名前の由来は諸説ありますが、これが由来であるとの説も有力です」
赤々とした富士山の稜線や椿の花弁の色は、この「赤膚釉」の特徴を活かして生み出されたものでした。
時代の求めに応じて時に神さまに捧げる祭器となり、時に武将の手柄をたたえる茶道具となり、柔軟に進化してきた赤膚焼。「らしさ」や「あるべき」にとらわれず、変わることを常として育まれてきた焼きものでした。
「今も窯から出すときが一番不安で、一番楽しみです。私の師匠は祖父で、85歳くらいまではバリバリ現役でやっていましたが、現役の頃は窯を焚く毎に、新しくテストするものを入れていたんですよ」
尾西さんの言葉に、日本最古の都に根ざしながら変わりつづける、赤膚焼のこれまでとこれからを見たような気がします。
「香柏窯」
〒639-1132 奈良県大和郡山市高田町117
℡.0743-52-3323
http://akahadayaki.jp/
文:尾島可奈子
写真:木村正史
<掲載商品>
赤膚焼の豆皿
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