なぜ「お正月には凧あげて独楽をまわして」遊ぶのか?
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街中を歩くと、あちこちで独楽モチーフのものが目に入ってくる佐世保。前回は、そんな独楽づくしの街を歩きながら、巨大モニュメントやお菓子、街灯など、いろんな姿になった佐世保独楽を見てきました。
今回は、その佐世保独楽を唯一作り続けている佐世保独楽本舗さんを訪ねます。
佐世保独楽本舗さんにお邪魔すると…
独楽がずらり!
街中で見かけたものと同じ形です。
「関東や関西から来たお客さんに普通の独楽ないですかって聞かれるんだけど、うちらにとってはこれが普通なんですよ」と迎えてくれたのは、佐世保独楽本舗3代目の山本 貞右衛門さん。
佐世保独楽は遊び方もユニーク
やっぱり気になるのは、別名「喧嘩独楽」とも呼ばれる佐世保独楽の遊び方。早速、山本さんに遊び方を教えてもらいました。
基本的なルールは簡単。最後までまわり続けている独楽が勝ちです。独楽をぶつけて“喧嘩”させるのは、相手の独楽の回転を弱めて止めるためだそう。
まずは、紐を独楽の下部に巻き付けます。ここまでは想像通り。
でも、佐世保独楽は形だけでなく、投げ方もユニークでした。
紐を巻き付けた方をそのまま上にして独楽を投げるのです。
そして、次の掛け声をみんなで唱えて独楽をいっせいに放ちます。
「息長勝問勝競べ(いきながしょうもんしょうくらべ)!」
音だけ聞いたら、まるで何かの呪文のようですが、この掛け声には「どれだけ長く独楽をまわせるか勝負しよう」という意味と、「勝問」=「証文」から「証文を入れるくらい、本気で勝負しよう」という意味が込められているのだとか。
お正月に独楽をまわすのには理由があった
独楽を何度か投げているうちに体がポカポカに。体を動かして温まることから、独楽まわしは冬の遊びなんだそう。
「昔からある遊びって季節もの。独楽まわしを夏にしたら汗をかいて暑くてできない。夏におしくらまんじゅうしているのと一緒ですよ。だから、独楽は冬にしか遊ばないんです」と山本さん。
何気なく歌っていた唱歌『お正月』の一節、「お正月には凧あげて独楽をまわして遊びましょう」は、まさに冬の情景をそのまま歌詞にしたものだったんですね。
遊びが子どもの社会性を育む
「僕らの時代は、幼稚園の子から中学生まで、みんなで独楽で遊んでましたね。佐世保で55歳以上の人はみんな、子どものころ独楽をまわして遊んでいたはず。そこで色んな経験をして勉強するんですよ」と山本さんは懐かしそうに話してくれました。
小さいころは勝てなくて悔しい思いもするけれども、遊ぶ中でルールを守ることを覚え、社会性を身につけていくことができたのだそう。
「だから、大人になっても仲良しで、地域の色んな活動を一緒にできるんですよね」
独楽をまわす文化を残すために
ところが、20年ほど前から子どもたちが独楽を買いに来ることがなくなってしまったといいます。
「『これは何とかせんといかんね』と思って、お正月に独楽まわし大会を開くことにしたんです。やっぱりこの地方の文化として残したくて」と山本さん。
独楽まわし大会は、なんと今年で14回目。はじめこそ50人程度だった参加者も、今では150人を超える大きな大会になっているとのことです。
独楽が架け橋となる異文化交流
この独楽の番付表が物語るように、佐世保独楽本舗を訪れるお客さんは国籍もさまざま。日本人のお客さんは半分ほどだそうです。取材中もひっきりなしにお店にやってきては、店内で英語が飛び交っていました。
基地で働いている方が帰郷の記念品やお土産として購入することが多いといいます。オーナメントとして飾るものという認識が強いのか、独楽のまわし方を教えてあげると、まわせることに驚きつつも楽しんでくれるそう。
店内には絵付け体験ができるスペースもあり、朝から晩まで夢中になって絵付けをする外国のお客さんもいたんだとか。
外国の人をも虜にする佐世保独楽。いよいよ次回は、佐世保独楽が生まれる現場に足を踏み入れます。
<取材協力>
佐世保独楽本舗
長崎県佐世保市島地町9-13
0956-22-7934
http://sasebokoma.jp/
文:岩本恵美
写真:尾島可奈子、藤本幸一郎