「タイタニック」にも出演?不思議な形の佐世保独楽が生まれる現場へ
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佐世保独楽は○○系
独楽と一口に言っても、実にたくさんの種類があるのをご存知でしょうか?
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日本の独楽の大半は、中国系や韓国系であるのに対し、佐世保独楽はインド系なのだそう。このユニークなまるい形は一般に「らっきょう型」と呼ばれ、台湾にも似たような独楽があるのだとか。
「映画『タイタニック』で少年が独楽をまわしている場面があるんですが、それを見た方から『佐世保独楽じゃないか?』って問い合わせがけっこうあったんです。確かに似ているんですが、あれはヨーロッパ系の独楽。おそらく、ヨーロッパからシルクロードを経て日本に伝わってきたから、似ているんでしょうね」と山本さん。
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賭け事の独楽から子どもの独楽へ
日本の独楽の中でも歴史が古いのが博多独楽。江戸時代に入ると、全国的な人気を博しました。
博多独楽は高価で庶民の手には届かないものだったため、日本各地で独自の独楽が作られるようになったのだとか。佐世保独楽もその一つで、江戸時代中期に誕生したといわれています。
当初、独楽に熱中したのは大人だったというから意外です。独楽の家紋があったり、独楽好きの殿様が独楽まわし師のような人を抱えていたりしたそう。
「賭け事として大人は熱中したみたいです。往来でやるものだから、交通の邪魔になって事故も多かったそうで。江戸幕府が何度も禁止令を出したと聞いています」と山本さん。
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そうした禁止令の影響もあってか、江戸時代後期には独楽は子どもの遊び道具へと変わっていったといいます。
“喧嘩”に勝つための素材
佐世保独楽は、上から思いきり投げて相手の独楽と戦わせて遊ぶもの。そのため、独楽をぶつけられても倒れないよう、堅くて重みのある素材が適しています。丈夫で、このあたりで手軽に入手できることから、佐世保独楽にはマテバシイという木が使われているとのこと。
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飾りとしての独楽へ転換
1949年 (昭和24年) に昭和天皇が佐世保を訪れた際、佐世保独楽を献上したことをきっかけに、おもちゃとして遊ぶ独楽から民芸品として飾る独楽へと移り変わっていきました。
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その後の民藝ブームも追い風となり、民芸品として見た目にも美しい独楽を作ることが増えていったそうです。
「昔は40軒くらい独楽を作っているところがあったけど、専業でやっているのは今はうちだけ。民芸品としての独楽も作ってきて、全国に取引先があったから続けてこれたんです」
「より強く」から「より美しく」。時代に合ったフォルムに変化
佐世保独楽の歴史について教えてもらった後は、いよいよ工房へ。佐世保独楽づくりの工程を覗かせてもらいました。
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ろくろを使って削りながら、形をつくっていきます。
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独楽上部の溝を削り終えたら、佐世保独楽特有の鮮やかな色をつけていきます。この色は中国の「陰陽五行説」に由来するもの。青(緑)、赤、黄、白(生地の色)、黒の5色は自然界や宇宙を意味しているといいます。
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ちなみに、削る際に真っすぐにろくろにセットしないと、こんな風に中心が曲がってしまうそう。
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玩具としての独楽は、いかに強くあるかが重要視されていたため、独楽上部の溝は深く彫られていたとのこと。溝を深くすることで、ぶつかりに強い独楽に仕上がるのだとか。
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一方、民芸品としての独楽に求められるのは、より美しい見た目。見比べてみると、溝部分の段々が玩具用の独楽よりもなめらかで丸みがあるのがよく分かります。
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受け継がれていく独楽づくりのバトン
山本さんは、以前は銀行に勤めていたのだそう。30年ほど前に先代である義理のお父さんが急逝し、3代目を継いだといいます。
「義父が亡くなって、一番苦労したのは道具づくり。職人は自分の道具は自分で作るものなんだけど、独楽づくりを本格的にし始めてから当時まだ3年ぐらいだったものだから、交流のあった各地の職人さんに助けてもらったね」と山本さんは振り返ります。
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佐世保独楽づくりのバトンを次に受け継ぐのが娘の優子さん。美術系の学校を卒業し、3年前に佐世保に戻られてきたそうです。今は3代目のお父さんの背中を追いかけながら、独楽の絵付けの仕事を手伝っています。最近では、ペットの写真を持ち込んでオリジナルの独楽を注文するお客さんもいるのだとか。
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遊ぶ玩具から、飾る民芸品へと、時代の変化に合わせながら生き続けてきた佐世保独楽。これから先も、時代は変われど、ずっと残っていってほしいものです。
<取材協力>
佐世保独楽本舗
長崎県佐世保市島地町9-13
0956-22-7934
文:岩本恵美
写真:尾島可奈子、藤本幸一郎