わたしの一皿 瀬戸焼の本業を知る
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育つうつわがある。
ものには使い始めが最もよいものと、使うごとによくなっていくものとがある。今回紹介したいのは後者のもの。基本的にうちではそういうものを扱っています。みんげい おくむらの奥村です。
愛知県の瀬戸。「せともの」の瀬戸は名古屋から1時間かからずに行くことができる町。
せとものという名前は誰もがわかるけれども、瀬戸の焼き物ってどんなもの、と言われると答えられない人が多いのではないだろうか。
これは瀬戸の焼き物の歴史のせいかもしれない。時代時代に求められるものを作って変化してきたから、これぞ瀬戸というものが見えにくい。
そんな中、瀬戸の「本業」をうたう窯がある。今回紹介する瀬戸本業窯(せとほんぎょうがま)だ。
300年続く本業の仕事は、現在の瀬戸の焼き物をさかのぼっていくとたどり着く、瀬戸のルーツとも言える。
瀬戸本業窯は七代目水野半次郎さんと八代目後継水野雄介さんが中心となって現在は営まれている。
うかがった日はちょうど雄介さんが迫る窯焚きに向けて釉掛けをしていた。ろくろ成形されたうつわに釉薬が掛けられる。釉薬が一定の厚さになるように、うつわ全体にすばやく、リズムよく。
ひと段落して、焼きあがっていた馬の目皿を見せてもらう。
ぐるぐると目が回りそうなこのうつわ。それだけを見ると日本のものなのか、はたまた世界のどこかのものなのか、よくわからないが不思議な魅力をもつ。
馬の目皿や石皿と呼ばれる瀬戸の古いものは今でも骨董の世界でとても愛されている。
瀬戸のうつわが使われてよくなっていくのは江戸時代から変わらないこと。この馬の目皿も瀬戸本業窯の代名詞と言えるものの一つだ。
本業の仕事は他にも、黄瀬戸・織部・三彩・麦藁手・染付・刷毛牡丹などとにかく幅が広い。
もともと瀬戸の中でも特徴が分かれていたが、それらを続ける窯がなくなったため、今は瀬戸本業窯が瀬戸の伝統の仕事をまるごと背負っているような状況とも言えるかもしれない。
紹介したい人がいる、と雄介さんに言われて名古屋市内で彼にあったのはいつだっただろうか。これからお店を始める人で、きっと僕と同い年くらいじゃないか、と。
それが今日訪ねたお店「米家(まいほーむ)」の米重(よねしげ)君との出会いだ。
米家は瀬戸本業窯のうつわをメインに使い、料理と日本酒を提案するお店。名古屋市の千種区というところにある。
素材、調味料、酒、うつわ、とバランスが取れた居酒屋というのはなかなか少ない。カウンター上に並ぶお惣菜はどれも瀬戸本業窯の大鉢に盛られ、その姿を見るだけでも心がはずむ。
酒は自ら蔵元に足を運び仕込みまで手伝う蔵もあるほどで、思い入れのある酒だけを揃える。酒に詳しくない人は料理に合わせておまかせしておけば、まず間違いないのでご安心を。
この日は脂の乗ったキンキの煮付けが馬の目皿に盛られて出てきた。馬の目皿と煮魚というこの組み合わせは本当に美しい。
あっさり炊かれた身をほぐして、煮汁に浸し、木の芽と共にいただく。春が駆け抜ける。
この日はホタルイカや、山菜など春を感じられるメニューが多く、ぬるめの燗酒がすすむすすむ。
厨房奥にずらりと並ぶ瀬戸本業窯の黄瀬戸のうつわ。のんびりとした黄色味はこれまた料理映えする。
工業製品でもないのにすっきりと重ねられる。これも瀬戸の土の質と、高いろくろ技術によるもので、瀬戸本業窯らしさがある。
何年か使い込んだ馬の目皿も、果たしてこれを汚いとみるか、あるいは店の時間が染み込んだ味、とみるか。みなさんはどうだろうか。
家なら、家族の時間がそこにどんどん積み重ねられていく。こんなすてきなことはないだろう。
育つうつわ、とってもいいものですよ。
<取材協力>
米家(まいほーむ)
〒464-0075 愛知県名古屋市千種区内山3-1-15 三ツ矢ビル
電話 052-741-7565
営業日 [月・火・木・金]18:00〜24:00 [土・日・祝]17:00~24:00
※ラストオーダー23:00
定休日 水曜、第3火曜
※遠方から来店の場合は座席数も多くないため事前予約が好ましい。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文・写真:奥村 忍
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