ハロー、松葉ガニ & 永楽歌舞伎
エリア
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さて翌日は、地域限定販売の小説『城崎へかえる』を買いに、城崎文芸館に行こう。通称KINOBUNと呼ばれる文学記念館は2016年の10月にリニューアルオープンしたばかり。ここも僕たちBACHが改装計画のお手伝いをしている。
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この場所はもともと20年前にオープンした記念館なのだが、運営予算も乏しく常設展の内容がほとんど変わっていない場所だった。だから、町の人に聞くと「10年位前に一度行ったかなあ」というような場所になってしまっていたというわけだ。もちろん観光のお客さんにはそれでいいかもしれない。けれど、志賀直哉をはじめとする白樺派の文豪がかつて多く来湯し、文学の町を謳う城崎の文学記念館がその調子なのは、かなり寂しいことだと思えた。
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そこで、新しくなった城崎文芸館は半年に一度入れ替える企画展を開催。第1回目は「本と温泉」第2弾で『城崎裁判』を書き下ろしてもらった小説家の万城目学の仕事を紹介する展覧会を開催した。題して、「万城目学と城崎温泉」。この作品を書き下ろすために幾度か城崎を訪れた小説家が、この地で何を見て、何を食べ、何を感じたのか? を知ってもらえる町のガイドのような展示内容になっている。
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企画展では万城目学が歩んだ道のりを企画展で眺め、一方、過去に城崎を訪れた文人たちの本や書簡、書や絵を紹介する常設展もゆっくり堪能。最後にSHOPで「本と温泉」の本を購入した僕らは、カフェのコーヒーを片手に文芸館の前にある手足湯へ向かったのだった。
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足湯に浸かってコーヒーを飲む。綺麗な酸味が喉を通る。昨晩の酔いもやっと抜け、じわじわ足の方から温かさが体全体に循環してくる。そして、先ほど買った本の中からおもむろに志賀直哉の『城の崎にて』を取り出し読み始めてみた。文庫本でもわずか12ページの短い小説だから10分もかからず読みきってしまう。蜂と鼠とイモリの小さな死を書いたこの作品、初めて読んだ中学生の時はこのアンチクライマックスの小説のどこがよいのか全くわからなかったものだ。けれど、今日は少し違う。歌舞伎と蟹のめくるめく夜の後は、いつもの物語も少し違った染み込み方をするようだ。さて、外湯にでも浸かって非現実の旅をもう少し続けるとするか。
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《今回の本たち》
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幅允孝 はばよしたか
ブックディレクター。未知なる本を手にする機会をつくるため、本屋と異業種を結びつける売場やライブラリーの制作をしている。最近の仕事として「ワコールスタディホール京都」「ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur」書籍フロアなど。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』(晶文社)『幅書店の88冊』(マガジンハウス)、『つかう本』(ポプラ社)。
www.bach-inc.com
文:幅允孝
写真:菅井俊之(文中クレジット表記のあるもの除く)