首里城の屋根が赤い理由は?沖縄「赤瓦」のヒストリー
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「沖縄の屋根」と聞いてどんなものを想像しますか?
私は、赤い瓦屋根の家が真っ先に思い浮かびました。
青い空と風情ある赤い屋根の組み合わせは南国沖縄のイメージそのもの。現在は様々な建築技術が取り入れられ、赤瓦の住宅ばかりではなくなりましたが、それでも街を歩いているとこうした建築を見つけられて嬉しくなります。
それにしても、沖縄の瓦はどうして赤いのでしょう。
沖縄県内の瓦工場で唯一、伝統的な赤瓦の製造技術を保持し、現代建築から文化財の修繕まで幅広く手がける「八幡瓦工場」を訪ねてお話を伺いました。
沖縄の赤瓦を支える八幡瓦工場へ
沖縄ならではの土から生まれる「赤瓦」
「赤瓦は、17世紀後半から作られ、今日まで使われてきた沖縄の伝統的な屋根瓦です。沖縄南部一帯で取れる地域特有の『クチャ』という泥岩を使って作っています。柔らかくて扱いやすいクチャは、泥パックなどの化粧品としても使われるほど、沖縄の人には馴染みのある土です」
「クチャは鉄分を多く含んでいます。鉄分は酸化すると赤くなります。酸化焼成という方法で焼き上げることで、鮮やかな赤い瓦が生まれるのです」
沖縄の気候に適した機能性
「赤瓦は美しいだけではありません。機能の面でも沖縄での暮らしを支えてきました。
赤瓦には適度な吸水性があり、スコールなど急な雨が降った際にその水分を吸い、晴れて気温が上がると水分を蒸発させます。水分を蒸発させる時、熱を逃がし涼しくしてくれるので屋根裏の温度が下がり、室内を涼しくすると言われています。
『瓦が呼吸している』とも言われていますが、日差しが弱まる冬は暖かく、夏を涼しく過ごせる屋根を作れるのです。
また、強い日差しを浴びても瓦がカラカラに乾燥することがないので割れにくく、耐久性も高くなっています。漆喰でしっかりと止められて吹き飛ばないようにすることで、強力な台風にも耐えるようになっています」
素材の吸水性や頑丈さに加え、さらには、瓦の形にも温度調整の機能があるそうです。
沖縄の赤瓦屋根をよく見ると、凹凸がはっきりしています。丸く山型になっているものを男瓦、平らなものを女瓦と呼び、主にこの2つを漆喰でとめて屋根を葺きます。
丸く飛び出した男瓦は太陽の光が当たりやすく高温になる一方で、平らな女瓦は日差しを避けることができて温度が上がりにくくなっています。これもまた、強い日差しによる屋根裏の温度上昇をやわらげる工夫なのだとか。
庶民が憧れた赤い屋根
17世紀後半から使われるようになった赤瓦。首里城が火災で消失した際、当時貴重だった赤瓦を使って城を再建しました。赤は「高貴な色」とされていました。また、当時の最先端技術で作られた赤瓦は高価なものであったといいます。そのため琉球王府のみが使用し、庶民が赤瓦を使うことは許されていませんでした。
一般人に赤瓦の使用が解禁されたのは、明治時代に入ってからのこと。美しく機能的な赤瓦は庶民の憧れでした。ただし禁止令が解かれたとはいえ、瓦屋根はまだ高価であったためほとんどの住宅は茅葺き屋根のまま。
「いつかは自分も赤瓦のマイホームを」
そんな思いを募らせ、念願叶って使うものだったようです。こうして少しずつ赤瓦屋根の街並みが作られていったのですね。
広く一般に普及した赤瓦。現在では一般住宅のほか、文化財などの修復はもちろんのこと、学校や役所などの公共施設、ホテルリゾートなどの商業施設にいたるまで、幅広く使われています。
「近年は、現代の建築技術と融合した形で赤瓦を使うことも増えています。昔ながらの建物は減りましたが、沖縄らしい景観は残していきたいものです。私たち赤瓦の作り手は、時代に合わせたものを作れるよう新たな技術を生み出しながら、伝統の素材と技術を守り伝えていきたいと思っています」
そう力強く語る八幡さんの言葉には、赤瓦への愛があふれていました。
<取材協力>
有限会社八幡瓦工場
http://80000.okinawa.jp/
沖縄県与那原町字上与那原291番地1
098-945-2301
文:小俣荘子
写真:武安弘毅
*こちらは、2018年6月11日公開の記事を再編集して掲載しました。