唐津の名宿「洋々閣」が、夕食に隆太窯のうつわしか使わない理由。
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こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
今から40数年前。
「俺の生き様を知っている人に、自分のうつわを扱ってほしい」
そう言って一人の陶芸作家が全作品をあずけた旅館があります。
明治26年創業。海を臨む唐津城のほど近くにたつ、唐津を代表する宿「洋々閣」です。
あずけたのは国内外でその名を知られる、隆太窯の中里隆 (なかざと・たかし) さん。
「はじめての窯元めぐり」唐津・隆太窯編の締めくくりは、工房見学、晩酌に続いて、うつわが生きる宿のお話です。
うつわのギャラリーがある老舗旅館
風格ある大正建築や唐津の食材を生かした料理、行き届いたおもてなしが評判の洋々閣。唐津で宿泊、となれば必ず名前の挙がる老舗旅館です。
実は建物の中に、唐津を代表する窯元のひとつ、隆太窯の常設ギャラリーがあることでも知られます。
宿泊客以外も見学できるように、わざわざギャラリー用の入口も設けてあります。
隆太窯の常設ギャラリーができるまで
ギャラリーの始まりは1974年のこと。
唐津焼の名門、中里太郎右衛門十二代の五男である隆さんが独立して自身の窯を開くにあたり、「自分の生き様を知っている人に自分のうつわを扱って欲しい」と、かねてから親交のあった洋々閣4代目の大河内明彦さんに作品の取り扱いを依頼しました。
「僕は宿の経験はあるけども物品の販売の経験はありません。はじめは無理だと言ったのですが、そう言われたら引き受けないわけにいきませんよね」
戸惑いながらも、もともとビリヤード台を置いていた部屋に展示スペースを確保。そこから少しずつ改修や部屋の増設を重ねて、現在の三部屋にわたるギャラリーが完成しました。後年オープンした窯元直営のギャラリーにもならぶ品揃えです。
料理と調和するうつわの秘密
「中里ファミリーは食べることもお酒も大好きです。酒呑みの作るうつわは料理とよく調和するんですよ」と親しみを込めて語るのは、洋々閣5代目の大河内正康さん。
宿の一番のもてなしは、何と言っても玄界灘の魚を中心とした夜の会席料理。その一品一品を飾るのが、食と酒をこよなく愛する中里親子の、隆太窯のうつわです。
「同じ佐賀でも有田焼や伊万里焼は磁器、唐津は陶器です。料理人は、磁器とは扱い方が違うのではじめ戸惑うようですが、使うほどに経年変化が起きて味わいが増します。
ギャラリーを始めてからは、唐津焼は隆太窯さん一筋ですね」
親子2代の長い付き合い。立て込んでうつわの注文に出向けない時も、電話で伝えるとイメージ通りの品物を届けてくれるといいます。
ギャラリーには隆太窯の定番品のほか、洋々閣オリジナルで作られたうつわも並びます。食事の際に気に入ったうつわを、実際に買ってかえれるというのも、贅沢な体験です。
老舗旅館を支えるもの
隆太窯を訪ねた人が洋々閣に泊まり、洋々閣でうつわに触れた人がまた隆太窯を訪ねる。ギャラリーのオープン以来、そんな往還がいつしか生まれ、今では唐津を巡る旅の定番コースに。
「僕の頭の上には隆さんがいつもあって、旅館を経営するにあたってもこういうことすると彼に軽蔑されるんじゃないか、と考えたりするんです。だから今までの洋々閣をずっと支えてきたのは、中里隆の哲学です」
インタビューの最後に、4代目の明彦さんが語られた言葉が印象的でした。
洋々閣のホームページには、女将のこんな一言があります。
「唐津はやはり、お食べいただかないことには。」
焼き物の里であるとともに山海の幸にも恵まれた食とうつわの町、唐津。作るうつわの素晴らしさとともに親子で料理好き、お酒好きとして知られる隆太窯。
食を愛する作り手のうつわは、その人柄丸ごと、地元唐津で旬の一皿に、唐津にしかないおもてなしに、息づいているようでした。
<取材協力> *登場順
洋々閣
佐賀県唐津市東唐津2-4-40
0955-72-7181
http://www.yoyokaku.com/
隆太窯
佐賀県唐津市見借4333-1
0955-74-3503
http://www.ryutagama.com/
文:尾島可奈子
写真:尾島可奈子、菅井俊之、藤本幸一郎