ロックの街「コザ」から。自家製ハム・ソーセージ専門店〈TESIO〉によるあたらしい食の提案。
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工芸産地を地元の友人に案内してもらう旅、さんち旅。
もともと東京で、ものづくりのディレクションに関わっていた村上純司さん。沖縄に移住したとは聞いていたものの、〈LIQUID(リキッド)〉という少し変わった、「飲む」という行為に焦点を当てた専門店を始めたというお知らせが、編集部に届きました。
というわけで、今回は沖縄を訪ね、村上さんのおすすめを巡る「さんち旅」をお送りします。
「僕も移住者で新参者なので、沖縄の新しい風みたいな、ニューウェーブのお店をおすすめします。ひとつ目は〈TESIO(テシオ)〉さん。沖縄市で、自家製のハムやソーセージを作っています。
ちょっと職人気質のソーセージ屋さんという感じで。オーナーが美術系もやっていたので、サインや内装などもちょうどいい感じなんですよね」
自家製ハム・ソーセージの専門店TESIO
そう聞いて、村上さんのお店・LIQUIDから南に車を走らせること約30分。確かに村上さんの言っていた通り、海外にありそうないい感じのファサード。
教えてもらったハムとソーセージのお店・TESIOは、沖縄市の「コザ」という街の一角に見つけることができました。
1974年、コザ市と美里村が合併して沖縄市に。「コザ」は俗称ですが、現在でも地元の人たちは、市の中心地のことを愛着を持ってその名前で呼びます。
もともと、宜野湾市のカフェレストランでお料理を作っていた嶺井大地(みねい だいち)さんは、夢であった創作料理が提供できる自分のお店を作るため、修行で沖縄を飛び出します。
そうした中訪れた京都で、一軒の“シャルキュトリー”(*)専門店に出会います。
(*シャルキュトリー:フランス語で食肉加工品全般を指す総称。ハムやソーセージを始め、パテやテリーヌ、リエットなどがある。フランスの伝統的な食文化のひとつ)
「お店のショーケースに、手作りのものが満載なんですよ。それがすごくキラキラして見えて、とても素敵で。これを学んでもし沖縄でやれたら、僕みたいにシャルキュトリーを見聞きしたことない人がおもしろがってくれるんじゃないかなと。しかも、豚は沖縄の特産だし」
嶺井さんは、肉の加工を学ばせてほしいという想いをオーナーに直談判し、無給で(!)その店で働き始めます。それから半年ほど経った頃、ひとつの転機が訪れます。
“知り合いのお店が、弟子が卒業したばかりで手薄になっているから”とオーナーに紹介され、京都から静岡へ。
静岡で働くことになったのは、幸運にも業界では超有名店である〈グロースヴァルトSANO〉。そこで今のベースとなるドイツ製法の肉加工を一からしっかりと学ばれたそう。
そうした静岡での修行も3年目を迎え、沖縄での立ち上げを具体的に考え始めていた頃、グロースヴァルトSANOと親しくしている精肉店が、ドイツ製法のソーセージ店を立ち上げる話が持ち上がりました。そこに参画することが、卒業の条件とも重なったこともあり、今度は岡山に。
「レシピを落とし込んで、商品のラインナップを決めて、売価も決めてと、全部やらせてもらって。こうやってお店が立ち上がるんだと。売上も当初予定していたところに上がってきて調子よくやっていたら、会社の社長と大喧嘩になって、クビになりました(苦笑い)」
ロックの街「コザ」に〈TESIO〉をオープン。
足掛け6年。嶺井さんは波瀾万丈な県外での修行の後、2017年6月、念願のシャルキュトリー店〈TESIO〉をコザの街に開業します。
「スタッフは僕含めて6名いて。皆、それぞれ生業や本業がある中で、順繰り、順繰り回しています。体育の臨時教師がいたりとか、女優業を頑張っている子がいたりとか。この前までタイ料理屋で働いていた料理人がいたりとか、いろいろ。学生もいるし。皆で楽しくやっています」
顔の見える距離感で作られていく美味しさ。
店のすぐ裏の路地にある〈ゴヤ市場〉には、沖縄県産の肉の仕入れ先である〈普久原精肉店〉も軒を連ねます。不透明な部分が感じられることも少なくない肉の加工品にとって、今のスタイルはとても良いとのこと。
「普通に肉屋のおじさんが肉を抱えて、そこに見える勝手口から入ってくるんですよ。その肉を僕たちは、ここでさばいて、加工して、ここで販売する。その流れがすべてお客さんに見えます。
肉の加工品って、どこで誰が、どう作ってるのか分からないことが多いので、ここでお客さんに説明しながら提案できるのはいいなと。
おいしいものを作って届けようと思うと、通信販売でもいいのですが。日々、お店として営んでいくことの楽しさを、自分でちゃんと営んでいけたらなと思っています」
辿り着いたのは、日本文化とのマッシュアップ。
そんな街の一員としての役目を果たして行く中、LIQUID・村上さんと、あるプロジェクトが立ち上がります。
「お肉の加工屋しかできないような、おでん屋をやろうと思いまして。僕らは肉の加工品を自家製で作っていますが、それをそのまま販売する以外に、どういう風に提供できるかということを随分考えました。そこにおでんがはまった。
ソーセージやベーコン、ロールキャベツなど、肉の加工品がいろいろ入ったおでんです。日本のおでんスタイルって『これくれ、これくれ』と言われたときに、『はい、はい!』と出せてテンポがいいし、しかも楽しい。
外国の方々が多いこの場所で、日本のこういう文化と、ドイツ製法のお肉の加工品というのがかけ合わさったときに、すごい良い提案ができるんじゃないかなと」
前々からあたためていた構想を村上さんに打ち明けたところ、村上さんも大のおでん好きであることが判明。逆に「魚で作るつみれとか、はんぺんとか、そういうものも肉で作ろう」という逆提案もあり、今年3月に第1回目のイベントを共同開催しました。
ユニット名は「TESIO×LIQUID」の「“適度”なおでん」ということで「TEQUID(テキド)」に。結果的にこの肉おでんの会は、2店の共同イベントとしてだけではなく、日本とドイツの食文化の有機的な魅力を再発見することに。
「ちゃんと、ドイツ製法の肉の加工技術を持って、沖縄の特産である豚肉を使いながら、ここからいろいろ自分たちの感性でもって、他が真似できないようなことをやれるというのは、随分やりがいがあるかなと。おもしろいなと」と次のイベントの企画や、イートインスペースの構想も生まれてきました。
そんな話題に尽きない活動の反面、街ではようやく2年を迎えたばかりの新顔のTESIO。その上の階には〈JET(ジェット)〉という老舗のライブハウスがあります。実はそこを切り盛りしてきたのは、嶺井さんの叔父さん。
「叔父がずっと続けて、ここで踏ん張ってやってきたということで、地域からリスペクトされているような様子も、こうやって自分が商売を始めるようになってから目の当たりにするから。すごく誇らしかったですね」
「おもしろいものを作って、発信できるんだぜということをおもしろがって、一緒にやろうよと気軽に言ってくれるような仲間たちが周りに増えていけば、お店を構えてこんなに楽しいことはないなと思います」
嶺井さんが始めたTESIOという場所は、関わる人々を増やしながら、この街のあたらしい魅力を奏で始めていました。
〈取材協力〉
TESIO
沖縄県沖縄市 中央1-10-3
098-953-1131
文:馬場 拓見
写真:清水 隆司