フィリップ・ワイズベッカーが旅する こけし作家が生み出すユニークな酉を求めて
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日本全国の郷土玩具のつくり手を、フランス人アーティスト、フィリップ・ワイズベッカーがめぐる連載「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」。
連載10回目は酉年にちなんで「挽物(ひきもの)玩具の酉」を求め、宮城県白石市にある「鎌田こけしや」を訪ねました。それでは早速、ワイズベッカーさんのエッセイを、どうぞ。
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仙台から車で1時間ほどの町にやってきた。木のろくろを使い酉の玩具をつくる木地職人、鎌田さんに会うためだ。
迎えてくれたのは、昔ながらの壁掛け時計。止まったままだ。
「これは良いサインだ。職人は時間を気にしてはいけないのだ」と思う。
木の良い匂いがする。こけし用に荒削りしてある円柱形の木。木片や削りくずが、あちこちに。
削りくずがランプにもぶら下がっている‥‥
工房の隅は、時間の経過から忘れられているようだ。
あまりにも特殊な刃を使っているので、今日でも、手で鍛えられている道具。
一瞬の不注意も許されない。驚きの眼差しで見つめる私の前で、あっという間に出来上がったのは、完璧な小さい独楽。
まだ着色の過程が残っている。それを私に任せてくれるというのだ!
この感動的な思い出の品は、ずっと私の旅行バッグに入って、パリまで来てくれるだろう。
鎌田さんは、主に伝統的なこけしをつくっている。しかし私は、彼の創作玩具のほうが好みだ。
少しずつ出して見せてくれる。非常に独創的で、繊細で、工夫にあふれている。
例えば、このおそろしい目つきの寅は畳の上に物憂げに寝そべっている。
そして、反対側にいて絶対に捕まえられない泥棒を追いかけ続ける岡っ引き。
おかしなちょび髭をつけた雄鶏。チビのひよこが周りをくるくる回る。
小さなスヌーピー。埃の中で最後の日を迎えている。
インスピレーションにあふれる工房訪問の最後に、変わったインスタレーションを見つけた。
何だろう。気になるが、この秘密を知ることはないだろう!
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文・デッサン:フィリップ・ワイズベッカー
写真:フィリップ・ワイズベッカー
翻訳:貴田奈津子
Philippe WEISBECKER (フィリップ・ワイズベッカー)
1942年生まれ。パリとバルセロナを拠点にするアーティスト。JR東日本、とらやなどの日本の広告や書籍の挿画も数多く手がける。2016年には、中川政七商店の「motta」コラボハンカチで奈良モチーフのデッサンを手がけた。作品集に『HAND TOOLS』ほか多数。