へぎそばの「へぎ」って何?生みの親に聞く由来とおすすめの食べ方

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へぎそば

そば通を唸らせる新潟名物「へぎそば」

新潟県には、全国のそば通を唸らせる名物「へぎそば」があります。

へぎそばの特徴は、「フノリ」という海藻をつなぎに使うこと。それによるツルツルとしたのどごしと、弾力のある歯ごたえが魅力です。また、一口サイズに束ねて盛り付けられたそばには独特の美しさがあります。

その生まれには、新潟の地場産業である着物づくりとの密接な関わりがあるのだとか。

「へぎそば」の生みの親、十日町市の小嶋屋総本店でお話を伺いました。

小嶋屋総本店
へぎそばを生んだ小嶋屋総本店。その味は5回もの皇室献上を賜るほど
小嶋屋総本店3代目 小林重則さん
小嶋屋総本店3代目 小林重則さん

着物に無くてはならない「布の糊」

「十日町市は着物の一大産地として発展を遂げてきた街です。フノリは、着物づくりに欠かせない素材でした。

フノリは、『布海苔』とも『布糊』とも書きます。布の糊なんですね。煮溶かしたフノリから取れる粘り気のあるエキスが糊となります。糸を液状の糊にくぐらせることで保護したり、強い撚り (より) をかける際に役立ちました。多くの人が着物産業に携わっていたこの街では、フノリはとても身近な素材だったんです」

着物づくり使われたフノリ
着物づくり使われたフノリ (十日町市博物館 展示)
フノリを使って糊付けされた糸
フノリを使って糊付けされた糸 (十日町市博物館 展示)

「フノリは海藻ですから、食料にもなります。飢饉を救ったという歴史も残っています。乾燥させることで一年中保管できるので、保存食として暮らしを支えていたんですね。

この地域は小麦粉を栽培していなかったので、当時そばのつなぎには山ゴボウの葉や自然薯、鶏卵などが使われていました。そこで、もっと身近で手に入りやすいフノリが使えるのでは?と創業者である祖父の重太郎が思いつきます。

研究を重ね、出来上がったフノリつなぎのそばは、今までにない食感と味わい。たちまち評判を呼びました」

「へぎ」にはどんな意味が?

へぎそばは「うつわ」も独特です。

へぎそばの「へぎ」は「剥ぎ (はぎ) 」が訛ったものといわれています。木を剥いだ板を食台にしたものを指しています。この「へぎ」にそばを盛ったので「へぎそば」と呼ばれました。へぎは、養蚕の現場で使われていたものを活用したのだとか。

「へぎ」に3〜4人前のそばを盛り付けて、みんなで囲んで食べるのが一般的です。

器として使われた「へぎ」
器として使われた「へぎ」。3〜4人前のそばを盛りつけ、みんなで囲んで食べる

独自の盛り付け方の理由とおすすめの食べ方

さらには、この独自の盛り付けにも着物づくりとの関わりがありました。

一口サイズに束ねて盛り付けられています
一口サイズに束ねて並んでいます

この形、織物用の絹糸を束ねた「おかぜ (かせ繰り) 」とよく似た姿をしています。日常的に目にしていた姿形が食べやすさと結びついて、この盛り付けとなったようです。

手を振りながら、水から揚げたそばを束ね、八の字に盛り付けます。この様子は、まるで糸を手繰るような動作です
手を振りながら、水から揚げたそばを束ね、八の字にして盛り付けます。まさに糸を手繰るような動作ですね

「昔は米などの五穀は年貢として大半を納めねばならず、手元にはほとんど残りませんでした。そのため五穀に含まれない玄そば (そばの実) を栽培して自分たちの食料にしていたといいます。

普段はそばがきにして食べていたそうです。手間をかけて作る、そば切(麺にしたそば)は餅などと同様に、ハレの日のご馳走でした。

玄そばの実は三角形。『三角=みかど』に通じる縁起物とされました。今も、冠婚葬祭やお祭りなどの宴席でそばが振る舞われます。お酒を飲んだ後の締めにもなるので『そば肴』とも呼ばれ親しまれているんですよ」

へぎそば

薬味にはカラシを添えます。つゆには入れず、少量をそばに塗るようにつけるのがおすすめとのこと。この地域はワサビが採れなかったためカラシが用いられるようになったそうですが、そのさっぱりとした辛さは、へぎそばと相性抜群です

着物づくりがそばに与えた影響を紹介してきましたが、実は、そばも着物づくりに役立っている一面があります。糸を白く漂白するとき、そばの茎を燃やして作ったアク汁を使います。暮らしで身近な食材を着物づくりに生かしたのですね。

冬は雪に閉ざされる豪雪地帯。限りある資源を有効活用して使い切る知恵がそこここにあります。

持ちつ持たれつともいうべき着物産業とそばは、この地で生きる人々の工夫の結晶と言えそうです。どちらも、人々を魅了し続けています。

<取材協力>

小嶋屋総本店

新潟県十日町市中屋敷758-1

025-768-3311

http://www.kojimaya.co.jp/

文:小俣荘子

写真:廣田達也

※こちらは、2018年7月25日の記事を再編集して公開しました。

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