夏に食べたい「うなぎのせいろ蒸し」。老舗に聞く、本当に美味しいうなぎの食べ方

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柳川 若松屋さんの鰻のせいろ蒸し

全国民に食べてほしい、うなぎのせいろ蒸し

うなぎと言えば、「うなぎのせいろ蒸し」。

長い間、それは日本全国共通の認識だと思ってました。

だけど、うな重やうな丼は見かけるのに「せいろ蒸し」は見当たらない。地元を出てから初めて、その認識はマイナーであることに気付きました。

こんなに美味しいうなぎのせいろ蒸しをみんなが知らないとはもったいない。と、土用丑の日、本当においしいうなぎの食べ方をお伝えしたく、記事を作ります。

柳川 うなぎのせいろ蒸し老舗 若松屋

うなぎのせいろ蒸しとは

「うなぎのせいろ蒸し」とは、福岡県の筑後地方で食べられてる郷土料理。私の地元 福岡ではうなぎを食べる、といえばこの食べ方がポピュラーでした。

簡単に説明すると、蒲焼のタレをまぶしたご飯に、うなぎの蒲焼と錦糸玉子を乗せて、せいろで蒸す料理。直火で蒲焼にして香ばしく焼き上がったうなぎをさらに蒸すことによって、うなぎはふっくらと柔らかに。そして、うなぎの旨味と燻香がしっかりと染み込んだほくほくのご飯がとてもおいしいのです。

そんな、うなぎのせいろ蒸しはどうやって作るのか。本場 福岡の柳川で美味しい作り方とその道具について教えてもらいました。

江戸時代から続く、郷土料理

柳川 川下り
お堀を巡る川下りの様子

どんこ舟でお堀をめぐる川下りや北原白秋の生誕の地としても知られる、観光地・柳川。かつてはうなぎがよく獲れ、柳川藩の財源として大切にされてきたそうです。その地でなんと江戸時代から親しまれているという食べ方が「うなぎのせいろ蒸し」。その食文化を受け継いで、柳川市内には今でも30軒ほどのうなぎ屋さんが軒を連ねます。

柳川 うなぎのせいろ蒸し老舗 若松屋

今回せいろ蒸しの作り方を教えてくださったのは、200年以上の歴史を持つ老舗うなぎ店、若松屋さん。川下りの船着き場前にある若松屋さんは、お昼には行列のできる地元の人気店。私自身、母方のお墓が近くにあり、小さい頃からよくお世話になってた大好きなお店です。お墓参りに行くと若松屋さんのうなぎが食べれる、とウキウキして出かけていたのを覚えています。

若松屋 店主の本吉伸佳さん
若松屋 店主の本吉伸佳さん。蒲焼のベテラン職人さんで、いつもは焼き場にいらっしゃいます

関東の捌き方、関西の焼き方。合わせ技で作られるせいろ蒸し

まずは開いたうなぎを白焼きにした後、タレをつけて焼いて蒲焼を作ります。

柳川 うなぎのせいろ蒸し老舗 若松屋
熱気ある焼き場。換気口から外にまで、蒲焼の香ばしい香りが漂います

興味深いのは、武士が多く暮らす城下町ならではのうなぎの捌き方。武士道の文化から、うなぎを捌くのは必ず背中から。なんでもお腹から開くのは「切腹」を意味するとして好まれなかったことから、背中から開く“背開き(背割り)”になった、という説が有力なのだそうです。武士の多い、江戸から伝わった文化だと言われています。背開きすることで脂が乗っているお腹が中央にくるため、余計な脂が落ちてさっぱりするのが特徴です。

一方、調理法は関東と関西のミックス。

白焼きにしたうなぎを一度蒸すのが関東風、そのままタレを付けて焼くのが関西風と言われていますが、柳川の焼き方は関西風。うなぎの旨味をタレに移しながら、じっくり焼いていきます。

柳川 うなぎのせいろ蒸し老舗 若松屋
うなぎの状態によって焼き加減が違うので、手で確認しながらタレの付け方や焼き加減を調整する

焼き上がったうなぎの蒲焼を切って、錦糸卵と一緒にご飯の上へ。そこからさらに「蒸し」の工程が入ります。蒸すことでうなぎはふっくらと柔らかくなり、うなぎの旨味、燻香がご飯へ染み込んでいくのです。工程が多さと手間ひまに驚きますが、こうやって美味しいうなぎのせいろ蒸しはできるのですね。

柳川 うなぎのせいろ蒸し老舗 若松屋

熱々に蒸しあげられ、木箱に詰まったせいろ。最後までずっと温かいまま食べることができるため、喜ばれたのだそう。この厚い木枠と、漆塗りの木箱のおかげでしょうか。

柳川 うなぎのせいろ蒸し老舗 若松屋
ごはんとうなぎを入れて蒸す容器を〈中子(なかご)〉、中子の底に敷くものを〈ハゼ〉と呼ぶ

せいろ蒸しの道具

せいろ蒸しと言えば、この容器。柳川から車で約20分ほど離れた、400余年続く家具産業の町 大川市で作られています。若松屋さんの別注品で、ひとつひとつが手作りなのだそうです。

作り手は株式会社船蔵の志岐(しき)さん。元々は家具の職人さんですが別注としてこのようなオリジナル商品づくりも受けているそうです。

毎日何度も使っても木が傷みにくく、長く使えているのは伝統的な技が秘訣。釘を使わずに木組みする建築技術が使われています。また木の素材はモミ系や杉など匂いの少ない白木を使用。地元 大川で採れる家具や建具に使う木材を活かして作られます。

外側の容器は、漆の塗り直しメンテナンスもやってるそうで、何年かに一度、塗り直しながら長年使い続けているのだそうです。

柳川 うなぎのせいろ蒸し老舗 若松屋

せいろ蒸しは、家でもできるのか

こんなに美味しいせいろ蒸し、家でも食べたい!と、若松屋の本吉さんに自宅での作り方を聞いてみたところ、「美味しさの秘訣は、代々受け継がれてきたタレと焼くときに使う炭(樫炭)、そしてうなぎの焼き方によるから同じように作るのは難しいかもしれない」とのこと。

やっぱり本場で食べるのが一番。だけど、せっかくの土用丑の日です。遠く離れた地でも故郷の味を楽しみたいなぁと、今夜は自宅のせいろでも挑戦してみたいと思います。

<取材協力>
若松屋
832-0065 福岡県柳川市沖端町26
0944-72-3163
http://wakamatuya.com/

※ せいろ蒸し、蒲焼は若松屋さんのHPでも注文できるそうです

株式会社船蔵
831-0041 福岡県大川市大字小保835番地1
0944-32-8506
http://funagura.co.jp/

文:西木戸弓佳
写真:藤本幸一郎

*こちらは、2018年7月20日の記事を再編集して公開しました

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