日本三大薬湯と里山料理が待っている。松之山温泉「ひなの宿 ちとせ」
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3年に一度開催の「大地の芸術祭」がスタートした越後妻有。
せっかく訪れるなら、宿での時間も楽しみたいもの。今日は、とっておきの温泉旅館を紹介します。
1000万年前の化石温泉と郷土料理
新潟県十日町市に位置し、豊かな自然に囲まれた松之山温泉。有馬温泉、草津温泉と並ぶ「日本三大薬湯」の一つにも数えられます。
源泉は、地層の隙間などに閉じ込められた1000万年前の海水が噴き出す「化石海水」。
この濃厚な温泉に加えて、地元食材をふんだんに使った郷土料理が評判なのは、「ひなの宿 ちとせ」です。
広々としたお宿に着いてホッと一息。エントランスの足湯で少しゆっくりしたら、さっそく夕食をいただくことに。
「雪国だからこそ」の郷土料理と山菜
松之山のある十日町市は、日本有数の豪雪地帯。この地ならではの雪解け水がお米や山菜を美味しく育てるのだそう。テーブルにつくと、目の前には地元食材たっぷりのお料理がずらり!
手前のプレートには、料理の解説がついています。左から「あんぼ」、「醗酵豆腐」、「湯治豚」、「菜々煮」。どれも耳慣れない名前ばかりです。
実はこちらの4品、全て郷土料理を現代風にアレンジしたもの。
草餅のような姿の「あんぼ」は、大根菜などで作った餡を、くず米の皮で包んで焼いた伝統食。年配の男性陣にとって思い出深い料理なのだそう。
雪に閉ざされる冬に食料が限られる中、食べ盛りの男の子たちのお腹をいっぱいにさせようというお母さんたちが考えた料理でした。
お隣の「醗酵豆腐」は、豆腐を味噌にからめて熟成させ、ねっとりとしたチーズのように仕上げたもの。地酒との相性も抜群でした。
続いては、しっとりと柔らかく旨味たっぷりの「湯治豚」。地元のブランド豚「妻有ポーク」を温泉の熱だけで低温調理した、ネーミングセンスも光る一品です。
一番右は「菜々煮」。野菜を野菜の汁で煮たものを菜々煮と呼ぶそう。十日町の名産、甘みたっぷりの「雪下にんじん」を味わいました。
棚田の米と季節の具材でつくる「棚田鍋」
もう一つ、心に残ったのが十日町で採れた棚田米を使った「棚田鍋」。コシヒカリの重湯をベースにしたトロトロの鍋に、妻有ポークや新潟地鶏、地元で採れた季節食材を入れていただきます。大根おろしは、棚田に降り積る雪をイメージしているそうです。
鍋には、ご当地唐辛子の神楽南蛮と麹で作った薬味「塩の子」と、おこげを入れて楽しみます。神楽南蛮の辛味と、おこげの食感が絶妙なアクセントに。
「人様に出すものではないと思っていた」
訪れた土地ならではのものが存分にいただけるというのは贅沢なものですね。
郷土料理の前菜をはじめとした、地元食材を使ったお料理の数々。訪れた人々を魅了する評判のメニューですが、始めるのには勇気が必要だったそう。
「この土地の郷土料理や山菜は、主に冬を越すための保存食。私たちにとっては日常的なもので、わざわざ遠方から来てくださったお客様のおもてなしに、お出ししていいものだろうか?と、躊躇する部分がありました」
「それでも、ここでしか味わえないものを召し上がっていただきたいという思いから、松之山の旅館で集まって、現代風にアレンジした郷土料理メニューを一緒に考えたんです」
この土地ならではのものを。その思いから、見事なおもてなし料理が生まれたのですね。
松之山では、お料理の他にも地域をあげて地元の魅力を発信しています。旅館、飲食店、住民が共同出資し旅行会社を立ち上げ、松之山を楽しむオプショナルツアーや商品を企画。
星空の下でホタルが舞うブナ林でのディナーイベント、温泉ガストロミー体験、ハイキングなどお話を伺うだけでワクワクします。次はどの季節に遊びに来ようかな。
顔を癒す温泉?
さて、宿をあとにしたら、近くにもう一つ立ち寄るべきスポットがありました。
こちら「顔湯」なのです。顔湯?
高温の温泉を利用して作られています。薬湯の異名ある温泉のスチーム、しっとり美肌の予感。
松之山温泉を堪能して、すっかりリフレッシュ。今日も元気にアート作品を巡れそうです!
<取材協力>
ひなの宿 ちとせ
新潟県十日町市松之山湯本49-1
025-596-2525
https://chitose.tv/
松之山温泉合同会社まんま公式サイト
http://manma.be/
文:小俣荘子
写真:廣田達也