この暮らしの道具、ちょっと変わってるんです。どこが違うかわかりますか?
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これからお見せする商品、普段よく目にするものと何かが違います。さて、どこが違っているでしょうか?
握ったところを想像してみてください。
これは‥‥、かなり難易度が高そうです。
一般的な急須に見えますが、パーツの位置が違う?
メモリの数字の向きにご注目!
さて、何か気づきましたか?
実はこれ、すべて「左利き用」に作られた道具なのです。
8月13日は「国際左利きの日」
きょう8月13日は、国際左利きの日。左利きの生活環境の向上に向けた記念日です。世界人口の約10%が左利きと言われています。
1992年8月13日、イギリスにある「Left-Handers Club」により、右利き用だけでない誰もが安全に使える道具を各種メーカーに対して呼びかけることを目的に提唱・制定されました。
今日は、左利きの道具について紹介します。
全国から左利き客が訪れる「駆け込み寺」
左利き用アイテムに詳しい方がいると聞き、お話を伺うことに。
訪れたのは、神奈川県相模原市にある文具雑貨店「菊屋浦上商事」。同店には「左利き用グッズコーナー」があり、その品揃えは約100種類!
「日本で一番左利きグッズが揃っている」と、全国からお客さんが訪ねてくる駆け込み寺のようなお店なのだそう。
社長の浦上裕生 (ひろお) さんは、左利きに関するデータを収集したり、海外に赴いて文具の買い付けや調査を行うなど、左利き事情に精通している方。
元SMAPメンバーで左利きの稲垣吾郎さんとラジオ番組で対談したり、人気バラエティ番組「アメトーーク!」で「左利きを幸せにするお店」として紹介されるなどを皮切りに、メディアからの取材依頼や企業からの相談も舞い込んでいます。国内だけでなく、海外メディアからの取材を受けることもあるのだとか。左利きへの注目の高さが伺えます。
かつては左利き文具は在庫しつつも店頭には並べず、注文があれば出す程度だったという同店。ではなぜ、これほどに「左利き用グッズ」をたくさん揃えるようになったのでしょう。
左利きの弟が右手用の道具で大怪我
「25年以上前、左利きの弟が右利き用カッターを使って大怪我をしました。右手用に設計された道具を使うと刃が手に刺さりやすかったり、危険なことも多いんです」
「弟の怪我を機に、当時店を経営していた両親が左利きのためのコーナーを設置しました。1998年に私が店を継ぎ、品揃えを充実させて今に至ります。
『左利きグッズがなんでもある』とネット上で話題になり、日本の方だけでなく、海外からのお客さんも来てくださるようになりました。調べてみると海外では日本より左利き用の道具が作られていないんです」
無理なく安全に使える向きに整える
それでは左利き用の道具について、浦上さんに詳しく解説していただきましょう。
「例えば、急須は左手で持って注ぎやすいように、取っ手が左側、注ぎ口が右側についています」
左利きの方が一般的な急須を使う場合、取っ手が右にあるため右手で持つか、左手で持って手をひねって注ぐ必要があるのだとか。それは使いにくそう。
「ハサミは刃の合わせに工夫があります。紙に刃を入れた時に、切っている部分が見えるように刃を合わせます」
「こんなものもあります。扇子は右手で開いて使うようになっているので、左手で仰いでいるとだんだん閉じてきてしまうことがあるんです。だから、開く方向が反対になったものを作ってもらいました」
ロゴの向きが自分に合っていると嬉しい
ところで冒頭で紹介した鉛筆はどこが左利き用だったのでしょうか。
「この鉛筆は、ロゴの向きが一般的なものと反対なんです。左手で持った時にロゴが正位置になるように作られています。なんてことないのですが、自分のための道具と思えて嬉しいという声を聞きます。
他にもマグカップの柄は右手で持った時に正面を向くように作られていたり、自動販売機の投入口は体の右側に設置することが一般的だったり。世の中には右手で扱うことを想定して作られているものが多いですから」
ロゴの向きだけで喜びを感じるなんて。左利きの方は道具に苦労されることが本当にたくさんあるんだろうなぁと改めて実感しました。
浦上さんに解説していただきながら、たくさんの左利き用アイテムを試しました。私は右利きなので、左利き用の道具を使ってみるとその使いにくさに驚きます。つまり、左利きの人たちは日常的にこの使いづらさに向き合っているということ。知らなかった‥‥。
少数派にも使いやすい道具を
「昔に比べて矯正されなくなったこともあり、今、左利き人口は増えていると言われています。とはいえ全体の割合から考えると少数のため、まだまだ左利き用の道具は少ないのです。
道具の存在を知らない左利きの人もいますし、少量生産になるので在庫終了とともに廃番となってしまう商品も少なくありません。
でも、少数派だから不便なままで良いってことはないですよね。クラウドファンディングを活用して左利きグッズを作ることも企画中です」
「必要としている人がいること、使いやすい道具があることをもっと発信して、広めていきたいと思っています」
そう熱く語る浦上さん。昨年2017年2月に新たな取り組みをスタートしました。
2020年東京五輪・パラリンピックを世界中の左利きの人が集まる機会ととらえ、メーカーと協業し、左利きグッズを充実させていこうという「レフティ21プロジェクト」。
浦上さんの呼びかけに応じて、文具メーカーのゼブラ、プラス、ライフ、調理器具メーカーのレーベン販売、ペンタブレットを手がけるワコム、輸入文具を扱うドイツ系のエトランジェ・ディ・コスタリカが参加を決め商品開発が進んでいるそうです。
自分にぴったりの道具があると、使うのが楽しくなったり、道具に愛着も湧きます。使いやすい道具の拡充、楽しみですね。
<取材協力>
菊屋浦上商事株式会社
神奈川県相模原市中央区相模原6-26-7
042-754-9211
http://www.kikuya-net.co.jp/
文・写真:小俣荘子