「熊野筆」の選び方をプロに習う。最初の1本にはチークブラシがおすすめ

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化粧筆といえば熊野筆。1本は持ってみたい憧れの化粧道具のひとつです。

熊野は地名ですが、どこにあるかはみなさんご存知ですか?

正解は広島県。

人口24000人ほどのこの町には、約100社の熊野筆メーカーがあります。なぜそんなにたくさん?どうやって選んだらいいの?今回は熊野筆の秘密と魅力に迫ります。

熊野筆のルーツをさぐる旅。山あいの村が全国一の産地に

熊野筆 広島

熊野筆は広島県・熊野町で作られる筆の総称です。名乗るためには以下の条件をクリアしなければなりません。

①穂首を熊野で製造すること。
②使用する原毛は、獣毛、化繊毛、植物繊維、羽毛、胎毛等。
③製造は熊野町内。但し、外注先は周辺地域も可。
①~③の条件を満たす、書筆、日本画筆、洋画筆、化粧筆、刷毛。

<熊野筆セレクトショップ公式サイトより引用>

中でも100年以上継承された技術や原材料により熊野町内で製作した書筆、日本画筆は、国の「伝統的工芸品」に指定されています。

今では全国で生産されている書道用の毛筆、画筆、化粧筆いずれも、その8割以上が熊野町産。しかし、もともと筆づくりに適した土地だったかというと、どうやらそうでもないようです。

熊野町は四方を山に囲まれた盆地の小さな村。平地が少なく農業だけでは生活が厳しかったために、農閑期を利用して、古くから奈良方面へ出稼ぎに行っていたそうです。

奈良は古くから墨や筆づくりが盛んな地域。村の人は出稼ぎ先で得たお金で墨、筆を仕入れ、帰りながらそれを売り歩くことで生計を立てていたのだとか。

江戸末期には、本格的に他の地域で筆づくりを学んでくる人も現れ、村の産業に発展しました。

ただ、筆づくりの原材料がもともと豊富だったわけでも、土地の条件が筆づくりに適していたわけでもありません。

次第に他の産地が近代的な工業へ生業を移し替えていく中でも、山あいの熊野町には新しい産業が入らず、筆づくりが受け継がれました。そうして一途に継承されてきた技術が、今の日本一の筆産地を生み出したと言えそうです。

初めての熊野筆を選ぶ。化粧道具のプロのおすすめは?

今も24000人の住民のうちおよそ1割の2500人が筆作りに携わり、地域内には約100社もの熊野筆メーカーが軒を連ねます。とはいえ、そんなにたくさん種類があったら、選ぶのに迷ってしまいそう。では、熊野筆はどう選んだら良いのでしょう?

実は、熊野町が運営する熊野筆のセレクトショップ「筆の里工房」が全国に4店舗あります。うち3店舗は広島県内、1店舗は東京銀座です。

数十あるメーカーさんから、銀座店では7社の熊野筆が置かれています。今では通販でも買える熊野筆ですが、せっかくならはじめの1本は、化粧道具のプロから説明を受けておすすめを選びたいところ。

早速伺ってみると、フェイスブラシ、リップブラシ、チーク用、アイブロウ用と様々な化粧筆がずらり。熊野筆ではじめの1本を買うなら、まず何を買ったらよいのでしょう?

店員さん:
「筆の質の良さを体感しやすいチークブラシがおすすめです。柔らかくチークを入れたい人は、繊細なリスの毛を使ったブラシがいいですよ」

試しにと手の甲に筆を滑らせてもらうと、もうずっと触れていたくなるような柔らかな肌ざわりです。

 

はっきりと色をのせたい人や固形のチークを使う人は、より固い毛質の、山羊の毛のブラシがおすすめだそう。同じチークブラシでも用途によって使う毛の種類が違うのですね!

「そうですね、筆を選ぶポイントは今言った毛質の他に毛量・穂先の形・軸(手に持つ部分)のデザインがあります。筆の作り方もメーカーさんによって微妙に違うんですよ」

なるほど。まずはどんなお化粧をしたいかを考えて、最後はデザインも含めて、自分の好みで選ぶ。筆選びに迷った時は今回のように相談したら良いのですね。

せっかくなので熊野筆をもうひとつ、より手軽に普段のお化粧にも取り入れやすそうなものを見つけました。リップブラシ。

熊野筆 リップブラシ

これはほとんどのメーカーさんがイタチの毛を使うのだとか。持ち運びもしやすいですし、いつでも良い化粧道具を携帯していると思うと、気持ちも豊かになりそうです。

手作業にこだわる熊野筆。機械化できないそのワケとは

毛筆の選毛工程
毛筆の選毛工程

お店に伺って実感したのが、今更ながら多くの筆が動物の毛でできているということ。そして用途に応じてベストな毛質のもので作られているということでした。

例えばイタチの毛はコシが強く毛先がよくまとまるため、リップブラシのように細い線をくっきり出すのに向いています。対して、山羊の毛は材料の含みが良く耐久性もあるので、はっきり色をのせたいお化粧や固形の素材にも相性が良いそうです。

熊野筆を作る工程のほとんどは今も手作業。その理由は、生き物の毛の質を見分け、同じ質のものを集め、揃えて、油分や汚れを取り、束ねてひとつの筆先(穂先)にまとめ上げるという一連の工程が、機械ではできないため。

自分の髪に置き換えてみると分かりやすいですね。1人の人間でも、箇所や年齢によって生え方のクセや色も様々に異なります。それを異なる材料から選り抜いて1本の筆の穂先としてまとめ上げるまでを想像すると‥‥その手間隙たるや。

実は町では以前、毛筆で「動物の毛の油分を抜き取る工程」の機械化を研究したのですが、結果として「機械化は難しい」との結論に至ったそうです。

はじめて選んだ熊野筆。ずっと触っていたくなる触りごこちに気の遠くなるような工程を重ねて、大事に使おう、と思い致すのでした。

<取材協力>
筆の里工房
http://fude.or.jp/jp/


文:尾島可奈子
*こちらは、2017年1月5日の記事を再編集して公開しました

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美しくありたい。クレオパトラや楊貴妃のエピソードが今に伝わるほど、いつの世も女性の関心を集めてやまない美容。

様々な道具のつまった化粧台は子供の頃の憧れでもありました。そんな女性の美を支えてきた化粧道具を七つ厳選。「キレイになるための七つ道具」としてその歴史や使い方などを紹介していきます。

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