パラレルキャリアで伝統工芸に挑む。異色ユニット「仕立屋と職人」に密着
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自らを「金髪女とひげロン毛」と称して伝統工芸の世界に挑む、ちょっと変わったユニットがあります。
ユニット名は「仕立屋と職人」。
「金髪女」ことワタナベユカリさんは縫製のプロ。
「ひげロン毛」こと石井挙之さんはグラフィックデザイナー。
「僕らみたいなコンビニの明かりが似合いそうな人間が、伝統工芸の世界を『こんな面白いんだよ』って近い人たちに伝えられたら、すごく強いと思うんです」
関東出身の二人が現在住むのは滋賀県長浜市木之本町。「ある目的」を持って2017年から活動拠点をこの町に移しました。ローカルやナチュラルといった形容詞の真逆を行くようなファッションも、あえて貫いているといいます。
ユニット名を染め抜いた事務所の暖簾をくぐって、そのユニークな取り組みの一端を覗かせてもらいました。
パラレルキャリア×伝統工芸
「仕立屋と職人」は4人のメンバーで構成されています。
工芸産地に住まい、時に職人に弟子入りしてものづくりを担当するユカリさんと、情報整理やデザインを手がける石井さん。
そして東京に拠点を置き、二人の体感知やアイディアを事業に組み立てる古澤さん、出来上がったアイテムの販路を開拓する堀出さん。
実はメンバーの4人とも、フリーランスや会社勤めなど別の仕事を持っています。いわばパラレルキャリアとして「仕立屋と職人」を立ち上げ、伝統工芸の世界に携わっているのです。
お互いが役割分担をしながら今年10月には、取り組み第一弾である福島県郡山市の伝統工芸、三春張子のジュエリーブランド「harico」をリリース。
このharicoをともに制作する「デコ屋敷本家 大黒屋」さんとの出会いこそ、「仕立屋と職人」立ち上げのきっかけでした。
はじまりは福島県郡山市。職人への「弟子入り」
2016年10月。都内のデザイン会社に勤めたあと各地の地域おこしプロジェクトや留学など、自身の活動のあり方を模索してきた石井さんは、福島県郡山市にいました。
目的は、クリエイターが地域に滞在しながら地域の問題解決に取り組むというイベントへの参加。そのホームステイ先が「デコ屋敷本家 大黒屋」 (以下、大黒屋) さんでした。
「デコ屋敷」は、和紙を使った張子のデコ(=人形)を300年以上作り続けてきた集落。中でも21代続く「大黒屋」で1ヶ月、石井さんは職人一家と寝食を共にします。
そこに、石井さんの滞在中の制作を手伝うため旧友のユカリさんが合流。
大黒屋21代目の橋本さんと交流を深めていく中で、「職人として胸を張れるような作業着が欲しかったが、頼み先がわからない」との悩みを耳にします。二人はすぐに「僕たちが作ります」と手をあげました。
「私はもともと縫製の技術は持っていましたが、職人の作業着を作るのは初めてです。
自分の仕事に誇りを持てるような、かっこよく機能的な作業着にしたい。
だから職人の仕事を理解するために、弟子入りさせてもらったんです」
これこそが、現在の活動にも生きる「仕立屋と職人」の特徴のひとつ。職人と至近距離でものづくりを理解すること。
イベント終了後も再び大黒屋に戻り、約4ヶ月間本当に弟子入りして、職人さんたちと一緒に働きました。
夢中になったのは、ネット検索で絶対に引っかからないもの
「一緒に働くほど、聞けば聞くほど、職人さんの話って本当に面白いんですよ。その人まるごと作っているものを好きになるんです」
「そういう『実際のところ』って、ネット検索では絶対に出てこない。これをうまく世の中に伝えていけたら、衰退産業と言われている伝統工芸の世界にもきっとファンが増えます。僕らが好きになったように。
今回は作業着を作るという形での恩返しだったけれど、それでおしまいにしていいんだろうか?
僕らよそ者の視点と、縫製やデザインの技術で、もっともっとできることがあるんじゃないか。作業着を試作しながら、そんな話をするようになりました」
職人の生き様を仕立てる!
この頃から東京で二人の相談に乗っていたのが、石井さんの留学時代の友人、古澤さん。
自身は東京のデザイン会社でサービスデザインの仕事をする傍ら、福島で伝統工芸の世界にのめり込んでいく二人と長い長い議論を何度も重ね、ついに自分たちのやりたいことをピタリと言い当てる言葉を掘り当てました。
「私たちのやりたいことは、職人の生き様を仕立てること」
「仕立屋と職人」というユニット名は、ここから来ています。
「ものを作ることがゴールじゃない。自分たちがものづくりの現場で面白い!と思った職人の生き様を、世の中の人に伝わるカタチに仕立てて届けることが私たちのミッションなんだ」
こうして、作業着を完成させたあとも大黒屋と取り組みを続けていくうちに、商品の販路開拓を得意とする掘出さんも活動に合流。
4人になった「仕立屋と職人」が1年半をかけて完成させたのが、300年以上続く張子に「身につける」というコンセプトを与えた、軽くて立体感のある和紙のジュエリーブランドでした。
「福島×張子」の次は、「滋賀×シルク産業」へ
彼らの活動のもうひとつの特徴が、拠点を移動しながら活動すること。
「伝統工芸の伝道師」を掲げ、haricoの開発を続けながら2017年夏、次なる職人の生き様を仕立てるために新天地に拠点を移します。
取り組み第二弾の場所に選んだのが、滋賀県長浜市。250年続くシルク産業の一大産地です。
郡山での取り組みは偶然の出会いから始まりましたが、第二弾はゼロからのスタート。
縁もゆかりもない土地に、どうやって根付き、どのように地域のものづくりと関わっていくのか。
「ではこれから、僕たちも取材させてもらった織物工場に行ってみましょう」
拠点を移してからちょうど1年ほど経った2018年夏、彼らが今まさに向き合っている長浜のフィールドに、私もお邪魔してきました。
わざわざ二足のわらじをはいて、なぜ、どうやって伝統工芸の世界に取り組むのか。
その答えはメンバーそれぞれにどうやら違うようです。
作り手でも売り手でも行政でもコンサルでもない「仕立屋と職人」の現在の活動と、その先に4人それぞれが描く展望のお話は、次回に続きます。
<掲載商品>
harico (仕立屋と職人xデコ屋敷本家大黒屋)
<取材協力>
仕立屋と職人
http://shitateya-to-shokunin.jp/
文:尾島可奈子