襲名ってなんだろう?
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こんにちは、さんち編集長の中川淳です。
編集長として記事を書くのは初めてなので、はじめましてですね。
私事ではありますが、昨年11月4日に十三代「中川政七(なかがわまさしち)」の名跡(みょうせき)を襲名しました。襲名というと歌舞伎や落語の世界を思い浮かべますが、近年工芸界でも襲名話をちらほらと耳にします。有名どころでいきますと、2014年に十五代 酒井田柿右衛門(さかいだかきえもん)さんが襲名されましたし(お父さまの十四代 酒井田柿右衛門さんは人間国宝)、仲間うちでも昨年遠州七窯(えんしゅうしちよう)のひとつ朝日焼で十六世 松林豊斎を松林佑典さんが襲名されました。
もしかして工芸界は今、襲名ブームなのかも!?
みなさん、襲名ってどういう意味かご存じでしょうか?
大辞林によると、「襲名とは先代の名跡を継ぐこと」とあります。また、「名跡とは跡を継ぐべき家名」ともあります。うーん、なんだかわかったようなそのままのような。
漢字を見ると、襲う?となんだか物騒な感じがしますが、ここでの「襲」は「受け継ぐ」という意味で使われています。また「襲」には「かさね」と読み「重ねて着る」という意味もあります。字の成り立ちにおいても「襲う」という意味は後に加わったようです。
歌舞伎など興行界における襲名にはプロモーション的な意味合いもあり、営業不振を打開するために襲名し、襲名披露公演を大々的に行います。そのためか襲名すべき名跡も数多くあり出世魚のように一人の方が何度もより重い名跡を襲名していくことになります。名は体を表すと言いますが、重い名跡を襲名することで意識も高まり、芸もより磨かれるのかもしれませんね。
一方で、長く続く家であっても必ずしも襲名するわけではありません。ちょうど今京都国立近代美術館で「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」という展覧会が開かれていますが、樂家は現当主で十五代ですが皆それぞれ名前が違います。また襲名をする家であっても襲名のタイミングはいろいろです。先代が亡くなったタイミングで襲名する家もあれば、先代の引退をもって襲名する家もあります。
中川家では実は先代、先々代と襲名していませんでした。なので中川政七の名跡は60年ぶり、襲名という意味では100年ぶりでした。故に襲名式のやり方も分からずいろいろな方にお知恵をいただきながら作っていきました。当日は300名近い方々に見守られながら、片山正通さん・水野学さんに後見人を務めていただき口上を述べ無事に襲名させていただきました。
実際に襲名してみて感じることは「名前」というのは大きなものだなということです。名前が変わるだけで人から持たれるイメージも自分自身の意識も変わった気がします。十代政七さんと会ったことはもちろんありませんが、十代が奈良晒の存続に尽力したことと私のやっている工芸の再生事業とは重なるところもあり、それももしかしたら偶然ではないのかもしれません。
「さんち」というメディアはまだ立ち上がって3ヶ月のよちよち歩きではありますが、時を重ね、代を重ね、漆のように強度を増していきたいなと思います。
文 : 中川淳
写真 : 井原悠一