ぽってりとした厚手のうつわ、益子焼
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特集「産地のうつわはじめ」
「来る者は拒まず」という気風に吸い寄せられる、益子の地
今回ご紹介するのは、飾り気のない素朴な土の味わいを持つ益子焼の豆皿です。産地である栃木県益子町には、昔から「来る者は拒まず」という気風に吸い寄せられるように、陶芸家志望の若手が数多く集います。
新旧の風が入り交じるこの地で、歴史ある益子焼の窯元「えのきだ窯」でつくられた豆皿は、肉厚であたたかみのある風情と、伝統釉を用いたモダンな掛け釉が特徴です。
野菜の煮付けや漬け物に、土の風合いがどんな食卓にも馴染みやすく、手に取るとほっと落ち着く一皿です。
飾り気のない素朴な土の味わい
・日用品として欠かせない益子の土
砂気が多く肌理が粗く、粘りも少ない益子の土。この地の豊富な陶土は、精巧なうつわには向かなかったため、江戸時代後期から明治時代にかけて、水がめや火鉢、壺などの日用品の産地として知られていくことになりました。
どこまでも生活に寄りそった益子の焼き物は、磁器に比べて肉厚につくられ、素朴で温かみのある風合いが感じられます。
・民藝ゆかりの益子焼
のちに人間国宝となる陶芸家・濱田庄司は、英国への留学時代、さまざまな工芸家が豊かな田舎生活を営みながら製作する様子を目の当たりにしました。そして帰国後の1923年、健康的な田舎暮らしが残っていた益子町に拠点を置くことに決めました。
その後、日本民藝館の創設者・柳宗悦、河井寬次郎らとともに「各地の風土から生まれ、生活に根ざした民藝には、用に則した『健康な美』が宿っている」と、「雑記の美」の価値を見つめ直し、民藝運動の提唱を盛んに行いました。
つくるだけでなく、職住一体の暮らしかた・働きかたを実践した濱田庄司。彼の生き方に憧れて益子で作陶を志す若手も多く、現在では民藝ゆかりの地として、全国に知られる産地となりました。
創業80年の伝統とともに、現代の暮らしに寄り添う「えのきだ窯」
5代目の榎田若葉さんは、夫の榎田智さんと共に陶芸作家として活躍されています。伝統ある窯元で育った若葉さんですが、彼女自身もイギリスへの語学留学やイスラエルでの農業ボランティアへの参加経験など、国際色豊かな経歴の持ち主。
使いやすさのなかにモダンな感性をとりこみながら、濱田が昇華させた流し掛けの技法を用い、のびやかで安心感のあるふだん使いのうつわを生み出します。
参照:『没後40年 濱田庄司展 –山本爲三郎コレクション』
「民藝とは何か」(日本民藝協会HP)
掲載商品
益子焼の豆皿
各900円(税抜)
豆皿の写真は、お料理上手のTammyさんが撮ってくださいました。他にも普段の食卓のコーディネイトの参考になるような写真がたくさんあります。Instagramも、ぜひ覗いてみてください。
文:中條美咲