聞こえてくるのは、身体に染みついた「ろくろ」のリズム
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特集「産地のうつわはじめ」
ろくろのリズムから生まれた「飛び鉋」と「刷毛目」の技法
じーっと覗き込むほどに、職人さんとうつわが奏でるリズムが聞こえてくるような、端正であたたかみのある模様。それが、小石原焼の大きな魅力です。
これらの技法を、「飛び鉋(かんな)」「刷毛目(はけめ)」と呼びます。
化粧土のかかったうつわに鉋の先やハケをあてながら、ろくろを回転させていくことで、一定のリズムが生まれて、みるみると規則的な模様が刻まれていく。
旬の食材が映える、ワクワクと小気味のよい一皿です。
福岡県東峰村。里山生まれ、素朴で朗らかな日常雑器
福岡県朝倉郡東峰村(とうほうむら・旧小石原村)は、標高1000メートル級の山々に囲まれ、里山文化がいまに続く、のどかな場所です。
江戸時代中期、陶工・柳瀬三右衛門が現在の大分県日田市の小鹿田村に赴き技法を伝えたため、小石原焼は小鹿田焼(おんたやき)のルーツと言われています。
1931年、民藝運動の主導者・柳宗悦が小鹿田を訪ねた直後に記した「日田の皿山」に、こんな一節がありました。
--私たちは何が美を産むかを学びたいのである。‥‥日田の皿山はまさに現代の反律である。だがそれだけに学ぶ点が極めて多い。吾々に欠けている一面を豊富に有っているからである。そうしてかかる一面には時間に左右されない力がある。(『柳宗悦全集著作篇第十二卷』筑摩書房「日田の皿山」より)
「時間に左右されない力」
小石原では300年以上に渡り、里山の赤土と白色の化粧土を使い、「飛び鉋」「刷毛目」が目印の日常雑器をつくり続けています。
つくられる物、素材や製法、暮らしのリズムに到るまで、いずれも時代や技術の変化に大きく左右されることはありません。
時間を超えて親しまれる美しさの一端は、「時間に左右されない力」に秘められているのかなぁと。あれこれ問いかけながら、ゆっくりじっくり、時間をかけて付き合っていくのも楽しみのひとつです。
土秀窯、和田さんが手掛ける暮らしの道具
土秀窯(どしゅうがま)代表の和田隆男さんは、1953年に小石原で生まれます。22歳より小石原の窯元で修行をし、その後独立。
小さな豆皿に均一な模様を刻んでいくのは熟練の技。40数年に渡って身体に染みついたリズムに乗せて、遊び心や作陶の楽しさがスパイスに加わります。
2017年の九州北部豪雨では、同地区50軒のうち、半数近い窯元さんが土砂崩れなどの被害を受けました。
幾度もの雨にも風にも負けず、夫婦共に支えあいながら、和田さんは今日も素朴で朗らかな暮らしの道具を生みだします。
掲載商品
小石原焼の豆皿
各1,000円(税抜)
豆皿の写真は、お料理上手のTammyさんが撮ってくださいました。他にも普段の食卓のコーディネイトの参考になるような写真がたくさんあります。Instagramも、ぜひ覗いてみてください。
文:中條美咲