津軽三味線ってどうしたら音が出るの? 実際に教室で習ってみた
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冬ですねえ。厳しい寒さが続きますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
冬といったら雪国。雪国といったら津軽。津軽といったら津軽三味線。
津軽三味線の音色ってかっこいいですよね。どういう構造になっていて、どうやったらああいう音色を鳴らすことができるのでしょうか。気になったので、まずは体験からと、実際に習ってみました。
教えていただいたのは澤田勝紀さん。
津軽三味線の演奏家として高い評価を受け、現在は全国組織となった澤田流の家元・澤田勝秋氏に師事を受け、腕を磨きました。演歌歌手である細川たかしさん専属奏者を10年務め、紅白歌合戦にも出演しました。民謡や和太鼓、洋楽器などとも共演し、各地でのライブ活動など、幅広く活動しています。
また、澤田さんは都内近郊5か所で津軽三味線教室を開講。入会金は1万円、1か月9千円の受講費で月3回ほど、各教室で1対1の対面指導を行っています。見学と体験教室はなんと無料‥‥ということで、早速参加させていただきました。
ところで、三味線ってどうやって音を出すの?
津軽三味線の音色って身体の芯まで響いてくるんですよ。ダイナミックな重低音から高音の速弾きなど幅広い音域で、私たちの感情を揺さぶってきます。なぜ、こんな音が出るんでしょうね。
長唄用の三味線や「沖縄三味線」と呼ばれる三線など、三味線はいくつかの種類に分かれますが、いずれも弦は3本。バチで弾き、弦の振動が太鼓のような構造にもなっている胴に共鳴して、迫力のある音が生まれるのです。胴皮の素材によって、音も変わってきます。
津軽三味線に限らず、多くの三味線では、胴部分には動物の革を用い、イチョウ型のバチで弦を弾きます。三線は蛇皮を胴に張り、人差し指に義甲をはめて弦を弾きます。
バチで弦を押さえると、胴に当たった振動によって音が生まれます。この音が重低音になるわけなんですね。
弾く音は繊細な高音。叩く音は強さを感じる低音。叩いた直後に弦をすくうこともあります。弾いて、叩いて、すくう。さまざまな技法を組み合わせることで、津軽三味線の魅力が浮かび上がってくるのです。
持ち運びも簡単! 津軽三味線は分解できる
生徒さんと先生との1対1の講習の見学が終わりました。生徒さんは自前の三味線を片付け始めます。
そういえば、三味線ってどうやって持って帰るんだろう。
三味線って実は分解ができるのです。竿に2か所ほど継ぎ目があり、トントンと軽く振動を与えるとスポッと分割することができます。
接合部分はホゾとなっています。そのため、縦の力にも横の力にも耐えうる構造となっているのです。部品一つ一つに職人さんの技が光っていますね。
バチの握り方にも理由がある
さて、今度は私が習う番です。まずはバチの持ち方から。津軽三味線の場合はべっ甲バチが主流です。硬めのバチは厚みのある音、弾力性のあるものは柔らかい音が出ます。多種多様なバチがありますので、自分に合うものを選びます。
さあ、バチを握りましょう。右手の小指を真っすぐに立てて、小指と薬指の間にバチを挟みます。人差し指、中指、薬指で輪っかを作るようにしながら、親指の半分だけを使ってバチを押さえます。
気を付けなければならないのは、小指を立たせること。弦と皮をつなぐ、「駒」という部分があるのですが、この部分をわざと押さえて、ボリュームや音色をコントロールすることもできるからです。こんなところにも津軽三味線の幅広い表現を可能にするテクニックがあるんですね。
駒を押さえるのは、もちろん小指。演奏中、バチを持つ右手は親指と小指を使います。左手はギターやベースと同じように、弦を押さえて音程を変えていきます。
さあ、音を出してみよう‥‥思ったように手が動かない!
姿勢を正して、三味線の胴の角を太腿の上に置きます。これでやっと、演奏する体勢が整いました。バチを持つ右手前腕部を三味線の胴に掛けて、手首を90度に曲げます。
バチは弦に対して平行に。あとは真っすぐ振り下ろして弦を叩きます。一番上の弦を弾きながら真ん中と下の弦を叩く。真ん中の弦を弾きながら下の弦を叩く。下の弦だけを叩く。これだけでも3種類の音を引き出すことができます。
文字ではいくらでも説明できますが、これがなかなかうまくいかないのです。自分の身体ってうまく動かないものなんですね。思ったように、バチを操作できない。狙った通りにうまく弦を叩くことができません。
澤田さんはバチを見ることなく、貫禄ある見事な演奏を披露。メロディからは雪国の人々のしなやかさや力強さのようなものを感じることができました。その美しい音色が空間を支配すると、教室内は荘厳の銀世界になったよう。ただただ聞きほれてしまいます。
本日の授業はここまで。曲を演奏するところまでは進めませんでしたが、充実した時間を過ごすことができました。終わった後も右手の親指が3時間くらい痺れてました。いてててて。
自在に弾くまではかなりの年月が必要であることがわかりました。でも、演奏できたらカッコいいだろうなあ。津軽三味線、奥深い‥‥。
<取材協力>
澤田勝紀津軽三味線教室
文 : 梶原誠司
写真 : 長谷川賢人
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