わたしの一皿 鹿児島のうつわ

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はじめまして。みんげい おくむらの奥村忍です。webで手仕事の生活道具を販売しています。食べるのが大好きだという話がどこからか伝わり、こちらで毎月食と工芸の話をさせていただきます。どうぞよろしくおねがいします。

「家にもどったらなにを食べようかなぁ」。 買付けの旅からもどると、体がやさしい味をほしがる。仕事柄、旅、また旅。僕は手仕事の生活道具を国内外各地で買付け、webで販売しています。1泊の国内旅もあれば2週間を超える海外の旅も。旅がつづくとすなわち外食つづき。さらに酒も好きで、仕事が終われば毎夜あちこち飲み歩くもんだから、胃腸はぐったりおつかれさま。そんなわけで、帰ったらなるべく家でおだやかなごはんを。

旅からのもどりに、ぼんやり献立を考える。根っから食いしん坊なのでこれがたまらなくたのしい。ぐったりの胃腸がよろこんでまた踊りだすようなごはんは何だろう。僕は肉よりも魚。洋食より和食派。魚をさばいて料理するのが好きなので、家で魚料理は僕の役割。魚で和食なら、お刺身・煮付け・焼きもの・蒸しもの・揚げもの…。さてどうするか。

昔から住む千葉の船橋には手ごろな大きさの市場があって、プロの料理人たちがあらかた買いものを終えた朝遅めには、僕らもゆっくり買いものができる。場内には仲卸業者が数十軒ひしめき合っていて、それぞれ個性がある。通っていると素人ながらに、あの魚はここ、貝はここ、迷ったらここで旬のものと食べ方を教えてもらって、なんて使い方がわかってきて、生意気気分がここちよい。

よし、今日は煮魚でいこう。冬は湯気が立ちのぼるごはんがうれしい。炊きたての米とみそ汁、そしておつけものでもあれば立派なごはん。今日の魚は房総産の小ぶりな金目鯛。金目鯛は分厚い切り身もよいが、こんなサイズのものを丸一匹食べるのもなかなかぜいたくだ。

煮魚は煮すぎないように、ほどほど味をまとった身に煮汁をひたして食べるぐらいで。魚にどっしり色と味がしみるほど煮てしまうとせっかくの身がガチガチボソボソで台無しです。ちなみに今日の煮汁はこってり目。煮ているそばから思わず日本酒一杯やりたくなる。シメシメ、胃腸も回復のきざし。

そうそう、大切なこと。合わせるうつわをきめなくちゃ。おいしさは見た目にもあるからここは大事。魚の大きさや色、仕上がりをイメージしながら。各地のうつわを売ってるもんで、この辺はお手の物といえばお手の物だけど、思い通りにバチっとハマるとやっぱりうれしいもんです。

今日えらんだうつわは南国鹿児島から。沖縄に学び、ふるさとでうつわづくりをする女性陶工、佐々木かおりさんのもの。地元の粘土や、天然素材を使った釉薬でつくられる「鹿児島のうつわ」。どっしりしながらやわらかい、そして少し男前なたたずまい。窯と工房は集落からちょっとの里山の中で、そこは彼女のお父さんの牛小屋の牛たちと、背の高い木々にかこまれたおだやかな空間(牛は鳴くけれど)。食べざかりのわんぱく二児の母も、この工房にいる時だけはひとりの陶工。「黒薩摩」とよばれてきた鹿児島のうつわの伝統を想いながらも、自分たちの暮らしに添ううつわづくり。釉薬をかけなければ、鉄分が多いこの土地の粘土は焼き上がりが黒い。皿といえば白?いや、黒の効いた皿もおもしろい。やわらかく、あたたかみがある佐々木さんの黒にここのところワクワクさせられっぱなしなんです。

さて、寒い時期だから、お湯で一度あたためたこのうつわに魚を盛りつけたら、湯気が立ちのぼっているうちに食べ始めたい。しかし、昨今商売柄もあって、Instagram用に写真を撮るのだ。なんて殺生。食べたい気持ちと撮りたい気持ちのせめぎ合い。それにしても、このうつわはやっぱりこの魚にバッチリじゃないか。せめて2、3枚ほどでささっと写真が撮れたら、ほら急げ。ひと呼吸して心をしずめて。いただきまーす!

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奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文:奥村 忍
写真:山根 衣理

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