軽くて丈夫な「壁紙バッグ」。京都 小嶋織物が継ぐ「日本一目の粗い織物」産地の底力
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もう咲いた?いやこっちはまだ。と桜の話題が出はじめると、気持ちはすっかり春。
服が薄着になって、バッグは何を合わせようかとこの時期いつも迷います。
丈夫で毎日使える布製のもの、軽くて見た目にも春夏らしいカゴバッグ。
実は今年、その両方の良さをハイブリッドにしたような「第三のバッグ」が登場しました。
軽くて丈夫で春夏らしい、その正体は「壁紙バッグ」です。
中川政七商店が京都の壁紙屋さんと作ったバッグ、とは?
「京都の壁紙屋さんと作ったバッグ」というストレートな名前のバッグを企画したのは、日本の工芸をベースにした生活雑貨を展開する、中川政七商店。
一緒に作った「京都の壁紙屋さん」は、京都府木津川市にあります。実はこの一帯、「日本一目の粗い」織物産地なのだとか。
どれほどの「粗さ」かというと、同じ幅の服用生地と比べて、だいたい経 (たて) 糸が1/3ほどしか入っていません。
この目の粗い織物こそが、軽くて丈夫で春夏らしい「第三のバッグ」の生みの親です。
「もともとは寒冷紗 (かんれいしゃ) といって、畑の作物を風雨や虫から守る覆い生地を一帯で作っていたんです。
作物を育てるには風通しが良くないといけませんよね。だからわざと目の粗い生地を織る技術が発展してきました」
教えてくれたのは商品名にある「京都の壁紙屋さん」こと、小嶋織物の小嶋一社長。
現在この目の粗さを生かして木津川一帯で作られている「織物壁紙」のトップメーカーです。
全国シェア7割、木津川の特産「織物壁紙」とは?
「織った生地を、紙と貼り合わせて作るから織物壁紙です。使う糸は綿、麻、パルプなど」
「素材自体も植物由来の繊維なので呼吸しますし、生地も目が粗いので吸放湿性に優れて、内装材にうってつけなんです」
木津川一帯の織物は、和室の時代には襖紙用に、洋室が増えてきた1970年代からは壁紙にと、日本の住宅事情に適応しながら発展を遂げ、ついには全国の織物壁紙の約7割を木津川産が占めるほどに。
その木津川産壁紙のおよそ3割を担うのが、小嶋織物さんです。
しかし、日本で年間7億平米といわれる壁紙全体のシェアからみれば、織物壁紙の割合は現在わずかに1%ほど。世の中の大半の住宅壁紙は塩化ビニール製なのだそうです。
かといって和室需要が減る中、もう一つの柱である襖紙も、生産量が伸びる可能性は低い。
「このままではものづくりが途絶えてしまう」
危機感を覚えた小嶋織物さんは、受注の仕事に限らず、生地の糸から自分たちで考案し、自社オリジナルの質感やデザインの開発に挑戦。新しい壁紙の可能性を探ってきました。
「同じ織物なのだから、きっとアパレルの世界でも生かす道があるはず」
そう考えたのは小嶋社長の娘さんで商品の企画開発を担う小嶋恵理香さん。
構想を温めること5年、春夏向けの新しいテキスタイル素材を探していた中川政七商店との出会いが、「バッグに使える壁紙」開発につながりました。
第三のバッグはこうして生まれた
「この生地は織物としても、壁紙としてもかなり特殊です」
もともとの壁紙織物はもちろん壁に貼るものなので、バッグのように「重さに耐える」強さの必要がありません。
そこで重たい荷物にもしっかり耐えられるよう、生地の芯に通常の壁紙では使わないウレタンを使用。
これ、何気ないようで業界としては初ではないかという珍しい加工方法だそう。小嶋さん自らあちこち問い合わせて、ウレタン張りという新しい手法にたどり着きました。
一方で表側の生地には、吸放湿に優れた麻と紙糸で織った生地を採用。
素材として軽いだけでなく、ざっくりと織られることでカゴバッグのような軽やかな表情が生まれました。
「織物は、糸のテンションを全体で揃えないとうまく織り進めません。
異素材同士だと糸の強度も違うのでそこが難しいのですが、これまで色々な自社オリジナル製品にチャレンジしてきた経験を生かせました」
カゴバッグのように涼しげで、目のつまった生地のように丈夫。それでいて軽い。
春夏にぴったりの「第三のバッグ」は、日本一目の粗い織物の特徴を、誰より「細かく」熟知する壁紙屋さんのアイデアと想いから、生まれていました。
<掲載商品>
「京都の壁紙屋さんと作ったバッグ」シリーズ (中川政七商店)
<取材協力>
小嶋織物株式会社
京都府木津川市山城町上狛北野田芝1-3
http://www.kojima-orimono.com
文:尾島可奈子
写真:木村正史
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