軽くて丈夫な「壁紙バッグ」。京都 小嶋織物が継ぐ「日本一目の粗い織物」産地の底力

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最近では生活雑貨メーカーの中川政七商店と壁紙で作ったバッグを開発しました

もう咲いた?いやこっちはまだ。と桜の話題が出はじめると、気持ちはすっかり春。

服が薄着になって、バッグは何を合わせようかとこの時期いつも迷います。

丈夫で毎日使える布製のもの、軽くて見た目にも春夏らしいカゴバッグ。

実は今年、その両方の良さをハイブリッドにしたような「第三のバッグ」が登場しました。

軽くて丈夫で春夏らしい、その正体は「壁紙バッグ」です。

この生地が、壁紙‥‥?
この生地が、壁紙‥‥?

中川政七商店が京都の壁紙屋さんと作ったバッグ、とは?

「京都の壁紙屋さんと作ったバッグ」というストレートな名前のバッグを企画したのは、日本の工芸をベースにした生活雑貨を展開する、中川政七商店。

一緒に作った「京都の壁紙屋さん」は、京都府木津川市にあります。実はこの一帯、「日本一目の粗い」織物産地なのだとか。

どれほどの「粗さ」かというと、同じ幅の服用生地と比べて、だいたい経 (たて) 糸が1/3ほどしか入っていません。

向こうが透けて見えるほど
向こうが透けて見えるほど
90センチ幅の生地に入る経糸は930本。対して服用生地には大体3000本の経糸が必要とのことなので、その「粗さ」が良くわかります
90センチ幅の生地に入る経糸は930本。対して服用生地には大体3000本の経糸が必要とのことなので、その「粗さ」が良くわかります

この目の粗い織物こそが、軽くて丈夫で春夏らしい「第三のバッグ」の生みの親です。

「もともとは寒冷紗 (かんれいしゃ) といって、畑の作物を風雨や虫から守る覆い生地を一帯で作っていたんです。

作物を育てるには風通しが良くないといけませんよね。だからわざと目の粗い生地を織る技術が発展してきました」

教えてくれたのは商品名にある「京都の壁紙屋さん」こと、小嶋織物の小嶋一社長。

小嶋一社長
小嶋一社長

現在この目の粗さを生かして木津川一帯で作られている「織物壁紙」のトップメーカーです。

工場外観

全国シェア7割、木津川の特産「織物壁紙」とは?

「織った生地を、紙と貼り合わせて作るから織物壁紙です。使う糸は綿、麻、パルプなど」

小嶋織物
こちらは紙の糸で織っている生地
こちらは紙の糸で織っている生地

「素材自体も植物由来の繊維なので呼吸しますし、生地も目が粗いので吸放湿性に優れて、内装材にうってつけなんです」

生地と紙を貼り合わせる工程。わずかなシワや浮きも許されない
生地と紙を貼り合わせる工程。わずかなシワや浮きも許されない

木津川一帯の織物は、和室の時代には襖紙用に、洋室が増えてきた1970年代からは壁紙にと、日本の住宅事情に適応しながら発展を遂げ、ついには全国の織物壁紙の約7割を木津川産が占めるほどに。

その木津川産壁紙のおよそ3割を担うのが、小嶋織物さんです。

小嶋さんのご自宅で見せていただいた、伝統的な「襖」の姿
小嶋さんのご自宅で見せていただいた、伝統的な「襖」の姿
見せていただいた襖のサンプル。こういうデザイン、家の居間や旅館などで見たことがあるかも?
見せていただいた襖のサンプル。こういうデザイン、家の居間や旅館などで見たことがあるかも?
小嶋織物
時代の変化とともに襖紙から織物壁紙へ
時代の変化とともに襖紙から織物壁紙へ
オフィスの壁がそのまま織物壁紙の見本になっていました。ホテルや会議室など様々な施設に活用されてます
オフィスの壁がそのまま織物壁紙の見本になっていました。ホテルや会議室など様々な施設に活用されてます

しかし、日本で年間7億平米といわれる壁紙全体のシェアからみれば、織物壁紙の割合は現在わずかに1%ほど。世の中の大半の住宅壁紙は塩化ビニール製なのだそうです。

かといって和室需要が減る中、もう一つの柱である襖紙も、生産量が伸びる可能性は低い。

「このままではものづくりが途絶えてしまう」

危機感を覚えた小嶋織物さんは、受注の仕事に限らず、生地の糸から自分たちで考案し、自社オリジナルの質感やデザインの開発に挑戦。新しい壁紙の可能性を探ってきました。

小嶋織物
小嶋織物
小嶋織物
小幅にカットした生地同士を重ねて表情に変化をつけた壁紙
小幅にカットした生地同士を重ねて表情に変化をつけた壁紙

「同じ織物なのだから、きっとアパレルの世界でも生かす道があるはず」

そう考えたのは小嶋社長の娘さんで商品の企画開発を担う小嶋恵理香さん。

小嶋恵理香さん
小嶋恵理香さん

構想を温めること5年、春夏向けの新しいテキスタイル素材を探していた中川政七商店との出会いが、「バッグに使える壁紙」開発につながりました。

ベースになった生地見本。しかし、このままでは一つ課題がありました
ベースになった生地見本。しかし、このままでは一つ課題がありました

第三のバッグはこうして生まれた

「この生地は織物としても、壁紙としてもかなり特殊です」

小嶋恵理香さん

もともとの壁紙織物はもちろん壁に貼るものなので、バッグのように「重さに耐える」強さの必要がありません。

そこで重たい荷物にもしっかり耐えられるよう、生地の芯に通常の壁紙では使わないウレタンを使用。

生地の裏側

これ、何気ないようで業界としては初ではないかという珍しい加工方法だそう。小嶋さん自らあちこち問い合わせて、ウレタン張りという新しい手法にたどり着きました。

小嶋恵理香さん

一方で表側の生地には、吸放湿に優れた麻と紙糸で織った生地を採用。

紙糸は字のごとく、本当に紙でできています
紙糸は字のごとく、本当に紙でできています

素材として軽いだけでなく、ざっくりと織られることでカゴバッグのような軽やかな表情が生まれました。

壁紙バッグ

「織物は、糸のテンションを全体で揃えないとうまく織り進めません。

異素材同士だと糸の強度も違うのでそこが難しいのですが、これまで色々な自社オリジナル製品にチャレンジしてきた経験を生かせました」

小嶋織物
生地を愛おしそうに眺める小嶋さん
生地を愛おしそうに眺める小嶋さん

カゴバッグのように涼しげで、目のつまった生地のように丈夫。それでいて軽い。

壁紙バッグ

春夏にぴったりの「第三のバッグ」は、日本一目の粗い織物の特徴を、誰より「細かく」熟知する壁紙屋さんのアイデアと想いから、生まれていました。

<掲載商品>
「京都の壁紙屋さんと作ったバッグ」シリーズ (中川政七商店)

<取材協力>
小嶋織物株式会社
京都府木津川市山城町上狛北野田芝1-3
http://www.kojima-orimono.com

文:尾島可奈子
写真:木村正史

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