遊びに行けるクラフト発信基地、しょうぶ学園。「快を求める」ものづくり現場に密着
エリア
鹿児島市郊外にある障がい者支援施設「しょうぶ学園」。
施設内の工房で生み出される独創的な作品で、工芸やアート界でも注目の存在です。
福祉施設というと、一般の人は入りにくいイメージですが、しょうぶ学園は違います。
入り口には門もなく、「カフェ」や「手打ちそば」「工房」といった文字が記された、何やら美味しそうで楽しげな看板の数々。
そんなオープンな雰囲気に誘われて、園内へ。しょうぶ学園のものづくりの現場をはじめ、憩いの場としても楽しめる見どころを巡ってみました。
前編記事はこちら:「アート界注目の『しょうぶ学園』立役者 福森伸さんに聞く、才能の見つけ方」
開かれた場所を目指して
「ここは本当に福祉施設なの?」
そんなことを思いながら足を踏み入れてみると、そこはまるで公園のような場所。緑も豊かで、ロバや羊もいます。
そして、入り口にあった看板どおり、カフェや蕎麦屋もありました。
「一般的に福祉施設というと閉鎖的な感じがするかと思うんですけど、施設長の福森の考えで、誰でも気軽に来れるような空間づくりをしています。美味しいものが食べられたり、何かモノが買えたりしたら、人も集まりやすいかなということで始めたんです」
そう教えてくれたのは、しょうぶ学園スタッフの壽浦 (じゅうら) 翼さんです。
みんなで作り上げていく環境
こちらのカラフルな水玉模様が描かれた建物は、地域交流スペース Omni House(オムニハウス)。
このどんぐりのような柄は、施設利用者の方が描いた絵がモチーフなのだそう。木製のドアはスタッフが製作したものだといいます。
建物の1階にはクラフトショップがあり、ここには園内の工房で作られたものをはじめ、スタッフが見つけたという全国各地の民芸品が並んでいました。
「鉢植えの植物の一部は、施設利用者とスタッフを交えた園芸班が育てたものです」と壽浦さん。
園内のビニールハウスに案内してもらうと、鉢植え用の多肉植物や野菜の苗がずらり。園内には畑もあり、野菜を育ててはレストランで使ったり、そのまま販売したりしているそうです。
園内にあるさまざまなものが利用者とスタッフの手によって作られており、まさに学園全体が一つの作品のよう。
宝物を探すように、ものづくりのカケラを探して園内を巡ってみるのも楽しそうです。
日中はものづくり三昧
一般的に福祉施設での日中の活動として多いのは、ものづくりやアート、軽作業など。ものづくりやアートに力を入れているところは多いものの、しょうぶ学園はやっぱりちょっと違います。
たとえば、利用者の方が描いた絵をTシャツにプリントするにしても、外注はせずにシルクスクリーンでスタッフが一枚一枚刷るという、徹底したものづくりなのです。
ここからは壽浦さんの案内で、普段は入れない工房へと向かいます。
創意工夫にあふれた「木の工房」
まずやってきたのは「木の工房」。スタッフ3名、利用者15名前後で、定番商品の手彫りのお皿をはじめ、木像やボタンなどの木工作品を作っています。
「どこの工房も基本的には利用者さんの手作業ありきです。できることはやってもらい、それを商品化するためのアイデアをスタッフが出すというやり方をしています」
利用者の皆さんの独創的な作品にも目を奪われますが、道具類にも工夫が施されているのが面白いところ。
こちらの利用者の方が手でくるくると回している、これは何でしょう?
なんと、角ばった木のボタンを箱に入れてしばらく回すと、角がとれて丸みのある柔らかい形になる装置でした!
「これも利用者さんにできることをやってもらおうと、スタッフが工夫したものなんです」
静かに黙々と‥‥。集中力が研ぎ澄まされている「土の工房」
続いて、「土の工房」へ。「木の工房」と同じく、スタッフ3名、利用者15名前後で、陶のオブジェやお面、ブローチなどを作っています。
絵付け作業があるせいか、「木の工房」よりもアート性が強い印象です。
皆さん、黙々と作業に集中しています。
「指導や作業ノルマはありません。基本的にものづくりは自由にやってもらっています。
いま彼が作っているサイコロ状のものは四角いので焼くと爆発してしまうらしいんですけど、好きに作ってもらっています。
しょうぶ学園のものづくりは、利益よりも利用者の活動を紹介するという部分が大きいです」と壽浦さん。
仕上げを含め、利用者が作ったものをどう活用するのか考えるのはスタッフの仕事。
そして、それぞれにとって居心地がいい環境を整えるのもスタッフの役割だと言います。
個人作業が好きな利用者には個人のスペースも用意され、それぞれに居心地のよい環境で作業できるようになっていました。
縫い方にルールなし!多彩な表現が生まれる「布の工房」
次にやってきたのは「布」の工房です。利用者25名という、先の2つよりも大所帯の工房で行われるのは、主に刺繍と織りの作業。
織りは裂き織りがメイン。学園設立当初に大島紬の下請けをやっていたこともあり、本格的な織り機もあります。
刺繍は縫い方も自由自在で、こんな立体的な刺繍をしている人たちもいました。
こちらのシャツは、布の工房発のプロジェクト「ヌイ・プロジェクト」から生まれた一作。
シャツの面が見えないくらいに刺繍が施されています。製作には5年ほどかかったのだとか。
「利用者の方は自分の作品が大々的に展示されていても興味がなかったり、作品が売れてお金が入っても何とも思わなかったりするんですよ。潔いですよね。
だからこそ、同じものを何年も作っている方や、こうして『縫う』という一つの作業を継続できるのかもしれないとも思います」
ものづくりのひと時が楽しい。
そんなシンプルな気持ちを積み重ねていっているのかもしれません。
床や壁にも絵がいっぱい!にぎやかな雰囲気の「和紙 / 絵画造形の工房」
最後は、「和紙 / 絵画造形の工房」へ。こちらでは利用者の方々が、楮 (こうぞ) と雁皮 (がんぴ) の原材料から和紙を作ったり、絵を描いたり造形したりしています。
ここは他の工房とはまた雰囲気が違い、床や壁、机にも絵がいっぱい描き込まれていて、何だかにぎやかな様子。
ちょうどスタッフが利用者の方が描いたイラストを使ってTシャツを作る作業をしていました。
描線のみのイラストをシルクスクリーンでTシャツにプリント。
色は塗ったり塗らなかったり、イラストに合わせて判断し、最後の仕上げのお手伝いをしていると言います。
まさに作品がプロダクトとなるところです。
「利用者は『快』という中で何かを生む。
僕らスタッフは喜怒哀楽しながら『創意工夫』をしてプロダクトに仕上げる」
福森さんの言葉が目の前で現実となっていました。
「ものづくりは人間の根元にあるものだと思います。ものをつくることは、生きることなんですよ」と福森さんは言います。
私たちが「しょうぶ学園」のものづくりに惹かれる理由は、ここにあるのかもしれません。
ここにいる誰もが「ものづくり」=「生きること」にまっすぐに向かっているから。
彼らから生み出されるものは、喜びで満ち溢れている。
それに惹きつけられるのは、もはや人間の本能なのではないでしょうか。
<取材協力>
社会福祉法人太陽会 しょうぶ学園
鹿児島県鹿児島市吉野町5066
http://www.shobu.jp/index.html
※園内のお店の営業時間などは上の公式サイトからご確認ください。
※工房は通常非公開です。記事で雰囲気を感じていただけたら嬉しいです!
文:岩本恵美
写真:尾島可奈子