石川・山中温泉の観光は「東山ボヌール」のランチから。絶品ビーフシチューと楽しむ地元の工芸たち
エリア
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加賀・山中温泉の大聖寺川がある鶴仙渓の谷沿い。漆器(木地師)の神様を祀る、この地で大事な意味を持つ東山神社の鳥居の中という神聖な地。
松尾芭蕉が行脚した地であることを記した芭蕉堂の目の前に、一軒の木造の建物があります。
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苔やシダ植物に覆われた森の中にある「東山ボヌール」は、まるでおとぎの世界に迷い込んだような幻想的な佇まいです。
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店舗は旅館『かよう亭』の別邸として使われていた、築50年以上の木造2階建を改装。外観はほぼ元のまま風合いのある木壁を残し、中は木のテーブルを仄暗い明かりが照らす落ち着いた雰囲気の空間です。
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鬱蒼とした森の中に突如現れたこのカフェ、実は地元の山中温泉中央振興会が「黒谷地区に温泉中心部からわざわざ来たくなるような新たなスポットを作りたい」という想いのもと、中部経済産業局の補助事業を利用して作られたお店。
モダンな設計は、『我戸幹男商店』なども手掛ける金沢の堀岡康二建築設計事務所によるものです。
※業界で注目を集める山中の木工メーカー『我戸幹男商店』のお店を訪ねた様子はこちら:「こんなに軽やかで、薄い木の器があったなんて。山中温泉で触れる漆器の奥深い世界」
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メニューは生搾りレモンスカッシュやデンメアのオーガニックティーなどのドリンクほか、ナッツたっぷりの「森のケーキ」やガトーショコラといったスイーツが中心。
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数量限定のビーフシチューライスは必食
しかしここで絶対食べて欲しいのが、一番人気のビーフシチューライス。昼のみの数量限定で、平日でも売り切れてしまうことも。電話で予約を!
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ビーフシチューライスは、バターライスに温野菜がトッピングされ、スキレットで提供されます。ポットで別添えのビーフシチューはA5ランクの和牛がゴロッと入り、赤ワインがきいた味。香味野菜やトマト、タマネギなどをじっくり煮込み、濃厚なコクがあります。
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牛肉も赤ワインのソースに一晩漬け込んでおり、とにかく柔らかく、ホロホロととろけるのが自慢。「山中温泉は高齢のお客様も多いのですが、『あらっ、スプーンで押したら崩れたわ!』って驚かれることもあります」と語るのは店長の竹中さん。老若男女が来る温泉地だけに、客層に合わせて食べやすくするという配慮も欠かせません。
山中温泉で人やお店をつなぐハブのような存在に。
お話を聞いていると、このカフェは人と人、お店とお店のつながりをとても大切にしているのだと感じられます。
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例えば、ビーフシチューに使う牛肉を仕入れるお肉屋さん。
「『今週すごい良いお肉が入ったんですよ!』って持ってきてくださると、『じゃあ美味しく使います!』って張り切っちゃう。野菜もそう。信頼できる専門家にお任せして、その人達が自信を持って届けてくださるから、お客様に自信を持ってお出しできます」
それは食材だけではありません。店内の一角に並ぶのは、山中の作家が作った器や、オリジナルの手ぬぐい、旅館の自家製調味料など。ここは地元で活動する作家やお店のものづくりを知ってもらうため、出会いの場としての役割もあるのです。
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この日に並んでいた木の豆皿は木地屋の工房『mokume』が東山ボヌールのために作ったもの。ちなみに木地屋とは、山中漆器の工程に欠かせない、木を器の形に削る職人のこと。
こちらは東山ボヌールで料理に用いられ、お客さんに使い心地を確かめてもらうことで買ってもらうきっかけを作っています。
隣に並ぶのは『九谷焼窯元 きぬや』によるオリジナルの蕎麦猪口です。
竹中さんはお客さんから「山中でのおすすめの過ごし方」を聞かれると、『mokume』で開いている器づくり体験を勧めるなど、地元だからこそ伝えられる山中の楽しみ方を伝えます。
また、鶴仙渓沿いの植物を紹介する「モジャモジャマップ」の配布や、苔を見るための小さなルーペの販売など、森林をミクロに散策する提案も。
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「東山ボヌールに来ることで、予定と違うプランに出会ってくれるような、一歩踏み込んだ旅の発信ができるお店になりたいです。旅行雑誌には載っていない情報は、現地の人たちだからこそ発信できるのだと思います。ちょっと一休みに入るつもりやったんやけど、あ、こんなんあるんや!って知ってもらえると嬉しいですね」
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ノープランで山中温泉を訪れたとしても、まずは東山ボヌールへ行けばきっと大丈夫。どんなガイドブックよりも自分に合った旅の楽しみ方を発見できそうです。
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<取材協力>
東山ボヌール
石川県加賀市山中温泉東町1丁目ホ19-1芭蕉堂前
0761-78-3765
9時~17時
木曜休
https://higashiyama-bonheur.jimdo.com/
文:猫田しげる
写真:長谷川賢人、猫田しげる
*こちらは、2019年6月25日の記事を再編集して公開しました。