47都道府県から1名ずつ職人募集。木桶・木樽の存続をかけた挑戦
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「直しながら使い続ける道具」には、身近な相談役が必要
木桶や木樽がまだまだ必要なものであること、職人さんが必要であること、少しずつわかってきました。それにしても、なぜ早急にお弟子さんを育てていくことを始めたのでしょうか。
「桶や樽は長持ちする道具で、3世代にわたって使えると言われています。ただし、木の特性から、気候変化や経年変化に合わせた調整がいります。長く使うためには、その時々の『直し』が必要不可欠なんです」と、原田さん。
「安心して使い続けてもらうためには、納品した後も不具合がある時に気軽に相談できる職人が必要です。
かつては、町に一軒は桶屋があったと言われています。せめて47都道府県に桶屋が一軒ずつあって、顔なじみの職人がいれば、色々と相談したり、直したりできますよね。安心して道具を使い続けられます。
今、現役の職人は全国で60人〜70人ほど。あと10年の内には激減してしまう可能性が高いんです。だからこそ、今こうした取り組みを始めました」
必要とされる仕事だから
「桶屋に限らず、無くなっていく昔ながらの仕事は沢山あると思います。仕事は、人の役に立ってこそ。そこを無視して、無理にこの仕事を残そうとは僕も思っていません。
僕は、桶や樽の仕事は、まだまだ人の役に立てると実感しています。
井上さんの蔵のように日本の各地に根ざした、味噌、醤油、お酒などをつくるのに使われる木桶。各家庭で使われているおひつ、寿司桶を新しく作ったり直したりしながら、人と深く関わることができるのが桶・樽職人の仕事です。
弟子入りして学んでもらうからには、技術を伝えるだけでなく、仕事先で人を紹介したり、業界やお客さんとの関係性も育んでいきたい。
人と深く関わりながら、ものづくりをする。そういう働き方を志す人と、一緒に業界を作っていけたらと思っています」
次世代が育つことでできること
原田さんが独立する時に苦労したことがありました。
それは、道具をそろえること。
「手元には、カンナ3本くらいしか自分の道具がありませんでした。桶職人が減っているので、道具を新たに作ってくれる職人も激減しているんです。
日本各地の職人さんに相談したり、古道具店で専門の道具や機械を探して譲ってもらったりしてやっと揃えました。
僕のところで修行して独立する時には、道具を一式進呈することにしています。そんなことで頭を悩ますのではなく、もっと未来のことを考えるのに時間を使って欲しいなと。
道具の作り手さんの話では、専門の職人であってもまだ作ったことのない道具がある人もいるのだそうです。めったに注文が入らないから作る機会がなかったんですね。
一式作ってもらうことで、そうした道具作りをしてもらえると、僕らが必要になった時にも助かります。持ちつ持たれつ、続けていけたらと思っています」
自らも挑戦し続け、業界全体を盛り上げようとする原田さん。原田さんの元で修行するのは6年間。原田さんが独立するまでに修行した年月と同じです。
業界には「5年の修行、1年のお礼奉公」という言葉も昔からあるのだそう。学ぶ5年と独り立ち前の実践期間の1年。技術のみならず、仕事に対する姿勢も学べる機会であるように感じました。
この募集を始めてから、すでに見学や数ヶ月の弟子入り体験を希望する問い合わせも入ってきているといいます。伊藤さんに続く、次のお弟子さんが修行を始める日もそう遠くないかもしれません。
<取材協力>
司製樽
徳島県阿南市福井町古毛48-3
※弟子入りについての問い合わせはこちらから。
井上味噌醤油株式会社
鳴門市撫養町岡崎字二等道路西113
088-686-3251
文:小俣荘子
写真:直江泰治