【ハレの日の食卓】奈良のお茶農家・嘉兵衛本舗さんの「番茶ぜんざい」

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季節の行事や家族の誕生日、人生の節目になるようなタイミング。
ハレの日は、食卓もいつもより少し特別です。

この記事はそんなハレの日の過ごし方が気になって企画した、この時期だけの短期連載。
暮らしを楽しむ作り手さんに、どんな料理でハレの日の食卓を囲んでいるのか教えていただきました。

今回は、奈良県吉野郡にて、江戸時代から伝わる天日干しのかへえ番茶を中心に製造販売する、嘉兵衛本舗さんの「ハレの日の食卓」を訪ねます。

今回の取材先:

嘉兵衛本舗
長女・上野知佳さん(左)、次女・堤有佳さん(中央)、三女・井川恵里佳さん(右)

奈良県吉野郡大淀町にて、江戸時代から伝わる天日干しのかへえ番茶を中心に製造販売する他、中川政七商店の番茶シリーズでは「天日干し番茶」や季節限定の「ゆず番茶」を手がける。



有佳さん:

嘉兵衛本舗は江戸時代からお茶にまつわる商いをしており、厳密な記録は残っていないのですが、私たちで恐らく14~15代目になると思います。加工場に隣接しているこの場所は、私たちの実家であり、今は両親と三女が同居している家。三人とも結婚しているので、長女の知佳と次女の私は、それぞれ自宅から出勤してるんです。普段は畑や加工場に出勤してお昼休憩にここ(自宅)に来てお茶を飲み、また畑や加工場に出るというスケジュールが多いですね。

知佳さん:

うちをご紹介いただくときによく「老舗」って言っていただくんですけど、もともとのルーツは兼業農家なんですよ。お茶の他には野菜も作っていれば林業もやっていたし、おばあちゃんは養鶏もしていたし。2代前までは基本的に兼業で、そのうちの一つとしてお茶を作っていた歴史があります。その後、父の代からお茶だけに取り組むようになり、私たちもそれを受け継いで六次産業としてお茶の生産から加工、販売までしています。

有佳さん:

看板商品である「かへえ番茶」は、昔ながらの天日干しで製造しています。昔は三姉妹ともお茶業を継ぐつもりはなかったので、それぞれ会社員になったり専業主婦になったりとまったく違う道を歩んでいたのですが、大人になり仕事休みのタイミングなどで事業を手伝ううちに、うちのお茶の特殊性や良さがわかるようになって。

天日干しは外に干すので、雨が降っていたら作業が出来なくて、仕事は天気に左右されるんです。そういった大変さもあるし、手作業なので手間もかかる。子どもの頃は「どうして天日干しなんて面倒なことをするんやろ?機械でやればいいのに」って思っていましたが、手作業で天日干しをするのとしないのとでは、味はまったく違う。携わるほど父の代で嘉兵衛本舗を終わらせたくないと思うようになり、姉と妹を誘って、自分たちが継ぐことの覚悟を決めました。

知佳さん:

私も「うちのお茶をなくしたくない」とはずっと思っていたんですけど、最初は(自分たちで続けることが)出来ると思ってなかったんです。やりたくても私一人では難しいし、妹2人はそれぞれ家庭を持っていて子育てもしているので、誘えずにいました。だから、妹が「一緒に継ごう」って声をかけてくれたときは嬉しかったですね。

恵里佳さん:

普段は畑に出たり加工や出荷作業をしたりしているほかに、手づくり市とか番茶フェアとか、それぞれが気になるイベントを見つけてきては、出展することもあります。父も昔、お客さんと対話をしながらお茶を提案したい気持ちから、そごう百貨店さんのイベントでお茶の販売をしていたことがあったんです。その気持ちは、私たちも大事にしていますね。

有佳さん:

うちではもちろん煎茶なども作っているんですけど、人気なのはやっぱり番茶。父の代では煎茶を強い柱にしようと頑張ったみたいなんですけど、それでも番茶の人気は根強かったみたいです。その理由、つまり天日干しならではの良さを紐解いたのが、私たちという感じですね。色んな方とのご縁も番茶(の製造や販売)から生まれることが多いですし、嘉兵衛本舗にとっては本当に欠かせない、大切なお茶です。

恵里佳さん:

今はうちの要である天日干し作業は三人でやっていますが、その他にそれぞれ役割分担をしていて。長女はブランディングや全体の統括、加工場での作業を担当していて、次女は社外対応や新規お取引の契約まわり、私は通信販売の出荷作業や経理を主に担当しています。

有佳さん:

そうですね、でも一番大事な三女の役割は、長女と次女の緩衝材になることかもしれません(笑)。

知佳さん:

姉妹でやっているとどうしても、ストレートな物言いになってしまいがちですからね(笑)。そうやって三人のバランスがとれて、うまくやれている。姉妹で事業をやってるってなかなか珍しいとは思うのですが、私は子育ても落ち着いて、これからの生きがいをお茶に注げるのがすごく嬉しいし、ありがたいし、何より楽しいんです。これも妹が誘ってくれたからですよね。小競り合いはありますが(笑)、それぞれの存在にすごく助けられています。

嘉兵衛本舗さんの、ハレの日の食卓

知佳さん:

父から言われた言葉に「農業は待ってくれない」というものがあって。どうしても天候で動き方が決まるので、雨の日が続くと天日干しが出来なくて、その後のスケジュールがすごくタイトになる、みたいなこともよくあるんです。だから私たちのハレはお正月だけ(笑)。番茶作りがずっと続くので、皆さんが長期休暇を取られるようなお盆も、ご先祖様を迎える数日だけ少し休むくらいです。

恵里佳さん:

お正月は元日に絶対、三姉妹の家族がみんなここに集まるんです。全員で20人くらいになりますね。

母もおせち料理を作ってくれるし、私たちも各家庭で作った料理を持ち寄って、和洋中すごくたくさんの料理が並んで、もう大パーティー。しかもそれぞれの夫がよく飲む人たちなので、朝からずっと宴会みたいな感じで(笑)。でも私たち姉妹はあまりお酒が飲めないので、代わりに空いた時間に甘いものを食べたりしています。

有佳さん:

嘉兵衛本舗の「天日干し番茶」を使ったおぜんざいは、そのときに食べている定番のおやつ。いつものぜんざいを番茶で炊くと香ばしさが出て、あっさりしているのにコクや風味が増すんですよ。

使った小餅は、懇意にしている近所のお餅屋さんのもの。嘉兵衛本舗さんの天日干し番茶を練り込んだ番茶餅(手前)も

有佳さん:

そんな風にワイワイしている様子を父が嬉しそうに見ていたりして。休みこそなかなかゆっくりはとれないんですけど、うちは昔から七夕には父が竹を切ってきて流しそうめんをしたり、クリスマスになったら裏山からモミの木を切ってきたりして、行事を全力で楽しんでいました。そうやって、ハレの日や食べることを楽しんでいた父の精神が、思えば私たちにも受け継がれているかもしれませんね。

嘉兵衛本舗さんの「番茶ぜんざい」

材料(作りやすい量 ※5人分程度):

・番茶…1L(濃さは好みで調整)
・餅…適量
・小豆…200g
・砂糖…120g~200g(好みで調整) ※今回は120gで甘さ控えめにしました
・塩…ひとつまみ

作り方:

1. 番茶はあらかじめ作り、冷ましておく。

2. 洗った小豆を鍋に入れ、たっぷりの水を加えて強火にかける。

3. 沸騰したら5分煮立たせる。火を止めて蓋をし、30分ほど置いてアク抜きをする。

4. 小豆をザルにあげて湯を切り、番茶と一緒に鍋に入れる。

5. 火にかけ、沸騰したらとろ火で1時間煮る。

 ※40分ほど煮たら一度かたさを確認し、好みのかたさに煮えていたら次の工程へ。

6. 5に砂糖を加えて混ぜ、最後に塩を入れる。

7. うつわによそい、焼いた餅を入れたら完成。

使った商品はこちら:

漆林堂 真塗り椀 赤
拭き漆のお箸 削り 茶 細め
菓子木型の福よせ箸置き 鶴赤

※その他は取材先私物

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

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