これがないと踊れない!よさこい祭りに欠かせないアイテムが高知にあった
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高知には、世にも不思議な手ぬぐいがあるのだとか。
その名は「土佐にわか手ぬぐい」。
小さな河童?相撲が大好きな妖怪「しばてん」
手ぬぐいに描かれているのは、土佐の妖怪「しばてん」。
しばてんは、カッパに似た男の子の妖怪といわれています。その多くは、たそがれ時や夜に現れるそう。
相撲をとるのが大好きで、人を見ると 「おんちゃん相撲とろう、とろうちや」と土佐言葉で挑んできます。これに応じると、いつの間にやら相手が藁や石に変わっており、朝まで独り相撲を取らされることになるのだとか。人に危害は加えませんが、いたずら好きの陽気な妖怪です。
高知のお酒好きの男性が飲みすぎて、ついつい午前様や朝帰りになってしまった時、家で待つしっかり者の女房に「しばてんに捕まって相撲取らされちょった」なんて言い訳したことで生まれた、そんな風に言われることもあります。お酒と結びつくところが、なんとも高知らしいですね。
よさこい祭りでも活躍。みんなが陽気になる不思議な手ぬぐい
さて、このしばてんが描かれた手ぬぐい、こんな風に頭に巻いて顔を覆って使います。
ひとたび手ぬぐいをかぶると、にわかに人相が変わる!そうしてみんな陽気になり、どんな人でもついつい踊りたくなってしまう、そんな不思議な手ぬぐいと言われています。
土佐の人々はこの出で立ちで、郷土民謡「しばてん音頭」を踊ります。
四国を代表する夏祭りのひとつで、約2万人の踊り子が乱舞するよさこい祭りでもこの手ぬぐいが使われます。恥ずかしがり屋さんも、目立ちたがりやさんも、誰かれ構わず踊り出し土佐の夜は更けていくのです。
「土佐にわか手ぬぐい」生みの親の元へ
地元の誰もが知る「土佐にわか手ぬぐい」。
生み出したのは、高知の老舗染工場の4代目・北村文和さんです。その誕生秘話を伺いに工房を訪れました。
着想は、旅先で見つけたお菓子のしおり
『よく遊べ』という方針の家で育ち、染めや日本画の技術だけでなく、音楽や踊りのお稽古、歌舞伎やオペラなどの舞台鑑賞やお祭りなど、好奇心や探究心が赴くままに出かけては、各地でさまざまなものを見つけて自身の作品へのヒントにしてきたという北村さん。
「染屋は様々なお仕事をいただきます。色んな世界のことを知っていたほうがより良いもの、喜ばれるものが作れるでしょう。見て感じて自分の中に貯まったものが、知らず知らずの内に繋がって作品作りに生きてくるんです」
土佐にわか手ぬぐいも、旅先で見つけたヒントから発想が広がっていきました。
「40数年前、妻と福岡の博多祇園山笠を見に行きました。そこで見つけたおせんべいに、お面型のしおりが入っていたんです。面白いなと印象に残りました」
その後、高知県の民謡や童歌の採譜をしていた作曲家の武政英策 (たけまさ えいさく) さんから「しばてん音頭というものを作るから協力してくれないか」という相談を持ちかけられました。
そこでヒントになったのが福岡の記憶。手ぬぐいをお面にしよう!と、ひらめきます。実際に手ぬぐいをかぶりながら考え出したのが、この手ぬぐいでした。
「みんなが楽しくなるようなものを」とデザインされたしばてんの顔。陽気な歌とその使い方が、高知の人々の心を掴みます。宴会でもお座敷でもまたたく間に広がり、すっかり定番に。現在ではお土産ものとしても人気の商品となりました。
すべて手作業で作られる手ぬぐい
たくさんの注文が入るようになった今もなお、全て手染めで作られている土佐にわか手ぬぐい。遊び心溢れる手ぬぐいですが、ものはしっかりと。美しく染め上げるのが老舗染屋のこだわりです。
「手染めは手間がかかるので、なかなか大変なんですが、みなさんに笑って使っていただけるのが嬉しいですね」と北村さん。
老舗染め屋の後継ぎとして、10代の頃から70余年にわたり染めに携わってきた北村さん。「よく遊べ」の家訓の元、積み上げてきた経験から生まれた北村さんならではの遊び心が詰まった不思議な手ぬぐいは、今日も人々を陽気な笑顔に導いています。
<取材協力>
北村染工場
高知県高知市はりまや町2丁目6−7
088-882-7216
高知よさこい情報交流館
http://www.honke-yosakoi.jp/
高知県高知市はりまや町1丁目10-1
088-880-4351
2018年4月22日公開の記事を再編集して掲載しています。全国各地で踊られるようになったよさこい。その本場高知で使われている、遊び心溢れる手ぬぐいをぜひチェックしてみてください
文・写真 : 小俣荘子