bowl店長・高塚裕子さんと行く有田。1日目はプロが頼る「井上酒店」、窯元御用達「むく庵」へ
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さんち旅は突然に。
「工芸産地を地元の友人に案内してもらう旅」をさんち旅といいます。昨年の春には編集長が、富山でその魅力を存分に堪能していました。
編集長の記事はこちら:編集長・中川淳がさんち旅を薦める4つの理由。富山をCHILLING STYLE・大澤寛さんと旅して改めて感じたこと
この春わたしのさんち旅が突然に始まったのは、日本磁器発祥の地、有田でのこと。
その日訪ねたのは1か月後にオープンを控えた「bowl (ボウル) 」というお店でした。有田の器も扱いながら全国から目利きした生活道具を揃える日用品店として、4月のオープンを目指して準備を進めている真っ最中です。
オープンの経緯やコンセプトを店長の高塚裕子さんに伺ううちに、インタビューは「有田らしさとは?」という話題に。
「高級ではなく『贅沢』が有田らしさなんです。八百屋や酒屋さんなど、地元の方が利用するお店にこそ有田の真の価値観があります。よかったらぜひ、私の思う有田らしさをアテンドさせてください」
こうして日が暮れてきた有田の町で、高塚さんによる「贅沢」ツアーが始まりました。
bowlの取材記事はこちら:世界で有田にしかない。仕掛け人に聞く「贅沢な日用品店」bowlができるまで
全国の飲食店が信頼を寄せるプロフェッショナル。井上酒店
「井上さんみたいなお店にしたい。私の憧れです」
そう案内してくれたのはbowlから車で5分ほどの距離にある一軒の酒屋さん。
お店に入ってまず目に飛び込んできたのは、あちこちに積み上げられたダンボールの箱、箱、箱。ほどなく集荷の車が来て、慣れた様子で20以上はある荷物を運んで行きました。
箱が旅立った先は、全国のレストランやホテル、旅館。
各地の良質なお酒を揃え、管理の難しい日本酒をベストコンディションで扱える井上さんに、全国の飲食店が目利きを頼んでいるのです。ちなみに先ほどの大量の出荷は本日2回目だそう。
「お酒はもちろん、何気なく置かれている仕入れの食品まで、井上さんの選んだものは何を買っても安心で美味しいんです」
もともと井上商店のファンだったという高塚さん。「自分が信じるいいものを背景からしっかり伝えていくことが大事」と井上さんが語ると、「道具も一緒です」と強くうなずきます。
「例えば一万円する箒が、なぜその値段になるのか。高い、で終わらせずに理由がわかれば、暮らしの中でものを選ぶ『選択肢』が広がっていきますよね」
井上さんに信頼を寄せるのは高塚さんだけではありません。インタビュー中も次々とお客さんがお酒を買いにやってきます。遠方から車でわざわざ「お酒を切らしちゃって」と来る人もいるそう。
その中の一人を認めて高塚さんが、
「あ!こんにちは」
と声をかけました。
聞けば近くにギャラリーを構える作家さんだそう。
「すごくかっこいい焼き物を作られるんですよ」と高塚さん、井上さんが口を揃えます。なんと焼き物の町らしい出会い。
最後にはわたしたちも常連さんにならって、
「こういうお酒が好きなんですが‥‥」
と、井上さんに1本お酒を見立ててもらうことに。思いがけないお土産を手に入れて、ほくほくとお店を後にしました。
窯元の社長さんも御用達。むく庵
「ああ、むく庵さんなら何でもうまいよ。いってらっしゃい」
と井上さんに背中を押されて向かった晩御飯のお店は、表通りから細い横道を入ったところにありました。
先頭の高塚さんがお店に入ると、「あ!」と声が。
中を覗くと、奥の座敷で窯元の社長さんたちがちょうど会合中でした。高塚さんとはもちろん顔見知りです。
「お店の準備はどう?」「もう1ヶ月切りました」と高塚さんが言葉を交わすうちのお一人は、まさに昼間、bowlで一目惚れした器を作られている窯元の社長さん。こんな形で作り手さんに出会えるなんて。
有田のこと、お店のこと、お酒を交わしながら尽きない話題に、明日もお昼ご飯をご一緒することを高塚さんと約束して、さんち旅の夜が更けていきます。
*2話目に続きます。お楽しみに。
<取材協力> *登場順
bowl
佐賀県西松浦郡有田町本町丙1054
0955-25-9170
https://aritasu.jp/
井上酒店
佐賀県西松浦郡有田町白川1-1-1
0955-42-3572
http://inoue-saketen.com/
むく庵
佐賀県西松浦郡有田町本町丙819-1
0955-42-5083
文:尾島可奈子
写真:菅井俊之、藤本幸一郎