学校から職人デビュー。京都で出会った今どきのものづくり事情

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京都伝統工芸大学校

職人になるには、弟子入りして生活を共にしながら長い修行期間を経て‥‥以外にも、最近は道があるようです。

学生から伝統工芸の職人を目指せる「京都伝統工芸大学校」。

京都伝統工芸大学校でろくろをまわす学生
京都伝統工芸大学校で作品制作中の学生

キャンパスがあるのは、数多くのものづくりが今も息づく街、京都。

なんでもこの学校では、職人さんがこれまで10年かけて身に付けてきた技術を、より短期間で習得できるようカリキュラムを開発してきたのだとか。

これまで「東京都立工芸高等学校」「金沢職人大学校」を紹介してきたさんち編集部としては、紹介しないわけにはいきません。

一体どんな学校で、どんな人たちが学んでいるのか。キャンパスを訪ねてきました。

前編では学校について、後編では実習中の学生さんの様子をレポートします。

10年かかったものを最短2年で習得?

京都府南丹市。緑豊かな山間にある「京都伝統工芸大学校」。

「1995年の開校から、創立24年になります。伝統工芸技術の後継者育成を目的としてはじまりました」

そう話すのは開校前から学校づくりに携わってきた教務部長・陶芸専攻の工藤良健先生。

京都伝統工芸大学校 教務部長・陶芸専攻 工藤良健先生

それまで、伝統工芸の後継者育成には時間がかかることが課題になっていたと言います。

「一人前になるには10年はかかります。それでも、昔は10歳頃に弟子入りして、20歳そこそこで一人前になれました。

今は高校を出てから入門することが多いので、10年経つと30歳近くなる。そこから自由にしろといってもなかなかできない、後継者になりにくいという課題がありました」

そこで、国と京都府、伝統工芸産業界が設立した京都伝統工芸産業支援センターの支援により、最短2年間で技術を習得するための学校を設立。

しかし、開校当初は短期間でどれだけ習得できるのか、半信半疑だったそうです。

「はじめてみると、短期間で驚くほど技術が身に付いたんです」

京都伝統工芸大学校 作品

「ものを作るのに時間はかかりますが、完成したものはほとんどプロと変わらないものができあがる。教えている方もびっくりしました」

期待以上の成果があったんですね。逆にいうと、従来はなぜ10年かかっていたのでしょうか。

「工房は利益を追求する必要があるので、教えることだけしているわけにいきません。だから時間がかかるんだと思います。でも教育に特化した環境を整えれば、短期間で習得することができるんです」

学生数も初年度は20数名だったものの、翌年は40名、80名と増え、10年間で300名ほどに。

中には、弟子入り志願をしたところ「うちに来る前に京都伝統工芸大学校で勉強してこい」と言われて入学した学生さんもいるそうです。

京都伝統工芸大学校で作品制作中の学生

「毎年、卒業制作展を観に来られる方に“レベルが上がっていますね”と言われると、良かったなとほっとします。24年経って、学校のカリキュラムに間違いはなかったのだとの思いを強くしています」

一流の工芸士が講師という贅沢な環境

では、実際どんなことが学べるのでしょうか。

現在、コースは、工芸の基礎と技術を身に付ける「工芸コース」(2、3、4年制)と、工芸技術とデザインを学ぶ「工芸クリエイターコース」(4年制)の2つ。どちらも4年制は大学卒業資格を取得できます。

「3、4年制課程が7割近く、2年制課程は3割くらいと、3、4年制課程で入学する子が増えていますね。オープンキャンパスでも技術習得には時間がかかることを説明して、理解してもらった上で入学してもらっています」

専攻は、陶芸、木彫刻、仏像彫刻、木工芸、漆工芸、蒔絵、金属工芸、竹工芸、石彫刻、和紙工芸、京手描友禅の全11種。

京都伝統工芸大学校で制作中の学生

講師は、伝統工芸士をはじめ、現代の名工、京の名工など、各工芸界の一流の工芸士の方々ばかりです。

「最高の技術を持った方々に、直接、手とり足とり教えていただけるというのが、ここの学校の一番の魅力だと思います」

京都伝統工芸大学校での授業の様子

専攻の違う学生同士が交流できる

「環境もすごいんです。自然環境も設備も、世界一と自負しています」

と工藤さんがおっしゃる通り、総面積30万平方メートル、甲子園球場の約24倍という広大なキャンパスには、一人一台の電動ろくろを備えた「ろくろ実習室」をはじめとした各工芸の専用実習室。

京都伝統工芸大学校での授業の様子

竹工芸専攻で使う竹を取るための竹林まで、さまざまな環境と設備が充実しています。

竹工芸専攻で使う竹を採取する学生

「学生にはそれぞれ自分の机、スペースを与えられます。

何人かで使い分けるのではなく、一つの机には一人しか座れない。ものづくりだけでこれだけの設備、空間をとっているというのは、なかなか無い環境だと思います。

陶芸では、穴窯、薪で焚く窯を学生と一緒に作って焚いたりもするんですよ」

京都伝統工芸大学校で作品制作中の学生

ものづくりをやりたい人にとっては理想郷のような環境ですね。

「そうですね。もうひとつ、いいところは専攻の違う学生同士が友だちになれるんです。そうすると、お互いにいろんな情報を得られたり、“ここに金物が欲しいんだけど作ってくれるか”と頼むこともできる。

将来的にはグループ展を開いたり、一生付き合っていける仲間ができるのは、羨ましい環境です」

一つの課題で作品100個を提出

一人に一つ机が与えられることからもわかるように、京都伝統工芸大学校の講義は約80%が実習。

そこには、伝統工芸の技術を学ぶのに大切な「反復練習」の要素があります。

「技術は反復練習によって身に付きます。例えば、陶芸では一つの課題に対して作品を100個提出します」

え!100個!

京都伝統工芸大学校で作品制作中の学生

「1個できて終わりではなく、100個すべて揃っていなければなりません」

それが反復するということ。

「そうですね。50個くらいで一度見て、もう50個。とにかく100個を目標に」

もうひとつ大切なのが「言葉」。

「例えば、陶芸で窯の蓋を開けることを“窯をきる”と言うように、それぞれ専門用語や特殊な言葉があります。ゼロから弟子入りすると当然、道具の名前や言葉、工程、作業の内容、いろいろなものが通じません。

京都伝統工芸大学校  教務部長・陶芸専攻の工藤良健先生

でも、ここで勉強すれば、技術だけでなく日常的な会話の流れもある程度は理解できるので、職人としてすぐに役に立つんじゃないかと思います」

技術を学ぶというと、つい道具の使い方とかを考えてしまいますが、確かに言葉は重要ですね。

「以前、学生に手本を見せていた時に、道具が足りなくて、あれ?という仕草をしたら、学生が道具を出してくれたんです。この作業で必要なのはこの道具、そういうのがすっと出てくるのは、やっぱり勉強している成果だなと思いますね」

『ぎゅー』とか『んー』とか

自身も陶芸家である工藤さん。

「京都で勉強して職人をやっていました。一時期離れていたんですが、この近くで独立して、2年目くらいに学校ができるので誰か教えてくれないかと」

以来、学校づくりから携わり、開校時より陶芸を教えてきました。

「弟子をとったことがなく、教えるのも初めてで、最初は、やっぱり“言葉”に困りました。力を入れるとか、抜くという感覚をどう言葉で伝えればいいのか、苦労しました」

京都伝統工芸大学校 作品制作の様子

自分で作るときは何も考えずに作ることができる。でも、その技術を伝えるには言葉が必要となる。

「“力を入れて”と言っても、男の子と女の子では受け取る理解が違うんです。だから、「ぎゅー」とか「んー」とか、擬音を使いました」

技術を言葉に置き換える。学校とは、いかに理論をプラスして伝えるかだと工藤さんは言います。

京都伝統工芸大学校 作品制作の様子

「最初の頃、ここは職業訓練校みたいでした。理論なしに、できれば良い。一生懸命“できる”ように指導していました。

でも、理論がなければ学問ではない。技術を見様見真似で伝えるのではなく、そこには理論があって、方法や数値、いろんなものが付随されて学問になっていく。20数年経って、やっと学校らしくなってきました」

京都という恵まれた環境

「京都市内は博物館のような街並みですし、歩いているだけで国宝に出会えたり、お店でいろんなものが見られます。京都は伝統工芸を学ぶのに恵まれた環境にあるのも事実かもしれませんね」

講師も招きやすい土地柄だといいます。

「京都には、神社仏閣が多く、着物文化も残っているので、それにたずさわる伝統工芸の全てが京都にはある。現役の職人さんもいっぱいおられるので、声をかければ、講師としてすっと来ていただけるということもあります。

京都伝統工芸大学校での授業の様子

ほかの産地にも伝統工芸を学べる場はありますが、学べるものは限られています。ここは11専攻あって、11の業種の方に来ていただける。それはやはり、京都という土地柄だからこそだと思います」

学生のみなさんも、京都が大好きだそうです。

「地方から出てきて、卒業後も京都に残りたいという学生も多いですね。学校は京都から離れているので“悪いな、ここは京都じゃなくて”と言っているんですが(笑)」

ものづくりを学ぶのに素晴らしい環境が揃った京都伝統工芸大学校。

では、どんな人がどんな理由で学んでいるのでしょうか。

後編に続きます。

<取材協力>
京都伝統工芸大学校
京都府南丹市園部町二本松1-1
0771-63-1751(代)

文 : 坂田未希子
写真 : 木村正史

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