日本にしかないスリップウェアの豆皿。中川政七商店とバーナード・リーチ直伝の「丹窓窯」が提案
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おかきが、なんだか格好よく見える。
そう感心したのは、白地に格子柄のスリップウェアに、こんもりと盛られた姿を見た時でした。
地元で美味しいと評判のおかきを勧めてくれたのは、うつわの作者であり、丹波立杭 (たちくい) 焼の窯元「丹窓窯 (たんそうがま) 」の8代目、市野茂子さん。
日本を代表する焼き物産地・丹波で唯一のスリップウェアのつくり手で、そのうつわは暮らしに取り入れやすいと人気です。
中川政七商店とつくった新作の「スリップウェアの豆皿」を取材中、どうぞ一息ついて、と勧めてくれたのが先ほどのおかきでした。
バーナードリーチ直伝、丹窓窯のスリップウェア。
スリップウェアは、生乾きの素地にスリップ (化粧土) をかけ、上から櫛目や格子などの模様を描くうつわ。発祥はイギリスです。
母国で途絶えていたこのうつわを日本の丹窓窯にもたらしたのは、柳宗悦らと共に日本の民藝運動をけん引したイギリスの陶芸家、バーナード・リーチ。
昭和42年、運動に賛同し民藝協会に加盟していた丹窓窯をリーチが訪問したことで、窯に転機が訪れます。
「セントアイヴィス (リーチ窯のあるイギリスの地名) に来ないか」とのリーチの誘いで、茂子さんのご主人で7代目の市野茂良さんが渡英。リーチが復刻に力を入れていたスリップウェアを、直々に学びました。
「帰国後は主人のスリップをわたしも手伝っていたので、これならできるかなと」
茂良さんが亡くなり跡を継ぐと決めた時、色々な技法のうつわを幅広くやるよりも「これで行こう」と茂子さんが決めたのが、スリップウェアでした。
「もともと丹波には『墨流し』という技法があって、スリップウェアに似ているんです。そういう馴染みの良さもあって」
茂子さんが8代目を継ぐと、お茶碗や小皿など、それまでの丹窓窯になかった日用の食器のスリップウェアが登場するように。
「イギリスではもともとオーブンに入れるようなお皿とか、大きなものが多いんですね。水差しやピッチャーとか。
だから古いうつわを見ると、ダダッと模様が入って、どちらかというと男性的な力強い印象というかね」
「でも私は細かいものの方が性に合っているみたいでね。お茶碗とか小皿とか、小さいもののスリップをつくることが多いですね」
「描く面積が小さいから、線の加減なんかはちょっと難しいんですけど、うち独特のスリップができているんやないかなと、最近は思っているんですよ」
実際の様子を見せていただきました。
小さな小さなスリップウェアができるまで
「生がけと言ってね。かけているときに指のあととか、そういうのが残るんでね。
そのままで乾かして焼いて、指のあとが入ったりしているものも多いんですが、私は、そういうのはあまり好きじゃないから」
「ちょっと、こうやって修正するんですよ」
「豆皿というのは、日本の文化ですからね。イギリスにはこういう小さなサイズのスリップはなかったですね。
これはうちでも一番小さいサイズ。色と模様は、はじめての組み合わせです」
「丹波は白や黒、灰釉 (はいぐすり) とか落ち着いた色味の釉薬が多いんですが、スリップにするとそこに模様が入って、パッと華やかになるというかね。そういうところが好きですね」
丹波の系譜を受け継ぎながら、本場イギリス仕込みの、日本にしかない小さな小さなスリップウェア。
箸置きや、調味料受けやお菓子皿に。もちろんおせんべいを取り分けてもいいな。
スリップウェア入門に、はじめての丹波焼の一枚に、友だちに勧めたくなりました。
<掲載商品>
丹波焼の豆皿 (丹窓窯)
<取材協力>
丹窓窯
兵庫県篠山市今田町上立杭327
079-597-2057
文・写真:尾島可奈子
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