47都道府県から1名ずつ職人募集。木桶・木樽の存続をかけた挑戦
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「47都道府県から1名ずつ、桶と樽の職人になりたい人を募集します」
そう宣言した若き職人が徳島県にいます。
原田啓司 (はらだ けいじ) さん、35歳。
桶樽職人 原田 啓司
1984年 徳島県生まれ。
22歳の時、徳島県で桶樽を製造する会社の求人広告を目にし、直感的に見学を申し出た。それがきっかけとなり桶樽職人の道に。2012年、6年間の修行を経て独立。「司製樽 (つかさせいたる) 」を立ち上げた。
職人の世界では若手と言われる世代の彼がなぜ、自ら弟子を募ることにしたのでしょうか。
味噌も、醤油も、日本酒も作れなくなる?
お話を伺いに原田さんのもとへ。
普段はご自身の工房で木桶や木樽の制作をしている原田さんですが、この日はお客さんのところにいらっしゃるとのこと。
訪ねたのは、創業140余年の「井上味噌醤油」。明治時代から徳島県で木樽を使った天然酵母の味噌を作り続けている老舗味噌蔵です。
新しいものを作ることに加え、桶職人にとって大事な仕事に、桶や樽の「修繕」があります。
井上さんの蔵で代々使い続けられてきた大樽の修繕を原田さんが引き受け、埼玉県から弟子入りした伊藤翠 (いとう みどり) さんと一緒に朝から蔵にこもって作業をされていました。
「今日、修繕してもらっているのは100年以上使ってきた樽なんです。古くなり液漏れするようになったので、しばらく休ませていたんですが、こうして直してもらえるとまた新しい味噌を仕込むことができます」
そう話すのは、井上味噌醤油7代目の井上雅史 (いのうえ まさふみ) さん。原田さんの取り組みを応援している方のお一人です。
「うちの蔵では、創業からずっと木樽で味噌を作り続けてきました。長い年月使い続けてきた木樽には、味噌を発酵させる微生物が住み着き、その土地ならではの個性が表れる美味しい味噌ができあがります。
味噌や醤油、日本酒などを天然酵母でつくるには、微生物にとって住み心地の良い木の道具が必要不可欠なのですが、最近では職人さんが減ってしまい、木樽での製造が危うい状況です」
「また、発酵の過程を完璧にコントロールすることは難しく、道具をひとつ変えるだけで、それが仕上がりを大きく変えてしまう可能性があります」
「道具にも寿命があり、修繕しながら大切に使っていたとしても、いつか使えなくなる時がやってきます。そうなってしまったら、もう同じ味は作れません。
だから、昔の道具をずっと大事に使い続けながら、次の世代の道具を育てていく必要がありました」
「僕、やります!」
「そんな風に今後のことを考えている時に、原田くんに出会ったんです。『僕、やります!』と、大きな木樽づくりへの挑戦を申し出てくれました。
戦後、味噌蔵が木樽を新調することは、本当に稀なことです。技術情報も乏しい状況でしたから不安もありましたが、それでも挑もうとする原田くんに任せてみようと思ったんです」
地域の他の職人さんも交えて、いろんな知恵を出し合いながら手探りで製作が進められ、新しい木樽がひとつ生まれました。