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津軽塗とは

塗り重ねが生む「多彩」の歴史と現在

津軽塗 (ハッピーりんご)

津軽塗の基本情報

  • 工芸のジャンル

    漆/漆器

  • 主な産地

    青森県弘前市

一度見たら忘れないような、独特の艶やかな塗りや模様が特徴の津軽塗。

津軽が生んだ独自の塗りもの、その歴史背景と今に迫ります。

津軽塗とは。

津軽塗のお椀
津軽塗のお椀

津軽塗とは、青森県北西部にある弘前市を中心に作られる漆器のことをいう。弘前市は広大な津軽平野の中心に位置し、津軽藩の城下町として知られたところだ。その津軽藩の庇護を受け、津軽塗は発展した。

主に素材となるのは、ヒバの木である。ヒバは青森県の県の木でもあり、弘前城などの歴史的な建物にも多く使われている。

そのヒバの木地に、何重にも漆を塗り重ね、その漆を研ぐことで模様を生み出すのが津軽塗りだ。色とりどりの複雑で美しい斑紋は、この重ね塗りの技術によって生まれている。

ここに注目。津軽塗といえばこの4技法

津軽塗の塗りの代表的な技法には、唐塗 (からぬり) ・七々子塗 (ななこぬり) ・紋紗塗 (もんしゃぬり) ・ 錦塗 (にしきぬり) の4つがある。

この4つの技法すべて、何十重にも塗った漆を研ぎ出して模様を出す「研ぎ出し変わり塗り」という技術だ。

他産地の漆器の多くは漆で塗装した上に模様を描くが、津軽塗では漆塗り・磨き・研ぎを幾重にも繰り返すことで模様を浮かび上がらせる。

「変わり塗り」の一種とされるこの技法は全国的にも珍しく、何重層と塗り重ねられた漆の表情は、独特の奥行きを感じさせる。

また、そのあまりにも丁寧な工法から、中でも津軽塗を代表する唐塗は「津軽のバカ塗り」との異名も持つ。以下、4つそれぞれの技法を具体的に見ていこう。

◯「津軽のバカ塗り」の異名を持つ「唐塗」

唐塗り
唐塗り

津軽塗の代表格とされるのが唐塗である。その特徴は、複数の色が浮き上がって見える鮮やかな斑点模様だ。

仕掛けベラという特殊なヘラで凹凸のある斑点模様を施した後に、色漆の塗り、磨きを繰り返すことで、漆の層が多様な色合いの模様となって現れる。工程は48にも及び、制作期間はおよそ2ヶ月以上を要する。その大変丁寧な技法から「津軽のバカ塗り」とも呼ばれている。

◯菜の花の種で模様を表現「七々子塗」

七々子塗
七々子塗

七々子塗は丸い点々のような小さな模様が特徴。菜の花の種を蒔き付けた跡が模様となって現れる。種が小さな輪紋となり、魚の卵を連想させることから「魚子」「菜々子」などとも呼ばれる。

◯他に例をみない独自模様「紋紗塗」

紋紗塗
紋紗塗

紗とは津軽地方の言葉でもみ殻のことで、黒漆で模様を描いた後、もみ殻の炭粉を蒔き付け研ぎ出して模様を浮かび上がらせる。研ぎ出し技法の中でも独特な、津軽塗ならではの塗りとされる。

◯もっとも新しく、もっとも希少な「錦塗」

錦塗
錦塗

七々子塗をベースに模様の筆描きなどを重ねた、華やかな印象の錦塗り。

4つの技法の中では最も新しい技法だが、高度な技術が必要で、塗り上げられる職人もわずかしかいないとされる。

津軽に独自の塗りを生み出した、ある父子

津軽に独自の塗りが生まれた背景には、ある父子の存在がある。

父は、若狭 (福井県) から招かれた塗師、池田源兵衛。呼び寄せたのは江戸時代中期、弘前藩第四代藩主を務めた津軽信政だ。

名君として知られる信政は、藩内の産業育成のために多くの技術者、職人を招いたという。当時は徳川幕府も安定し、参勤交代なども行われ、流通が発達した。ものの売買・流通が盛んになり、各藩が地域の産業を発展させるためこぞって保護奨励していた頃である。そんな中、塗師の源兵衛は藩命により江戸に留学し、青海太郎左衛門という塗師のもと新しい塗りの技術を学んだが道半ばで亡くなってしまう。

その遺志を継いだのが、息子の源太郎。源兵衛に代わり、蒔絵師山野井の門、ついで父と同じく青海太郎左衛門のもとでさまざまな技術を学んだという。

青海太郎左衛門の死後、津軽に戻った源太郎は師匠と父の名を取って青海源兵衛と名乗り、江戸で学んだ技術を生かして、独自の漆器づくりに励んだ。こうして父子2代に渡り、その後の津軽塗の発展の礎となる技術をもたらしたのだ。

津軽塗の歴史

◯江戸時代中期 津軽塗の起源

津軽塗の始まりは江戸時代中期、1600年代末~1700年代初頭といわれている。津軽藩4代藩主信公の時代だ。当時は徳川幕府も安定し、参勤交代なども行われ、流通が発達した。ものの売買・流通が盛んになり、それぞれの藩が地方の産業を保護・奨励するようになった時代でもある。

そんな中、津軽藩に招かれたのが塗師・池田源兵衛。新しい技術を学ぶべく江戸の青海太郎左右衛門のもとへ行ったものの、翌年には江戸で病死してしまった。その跡を継いだ息子の源太郎は、青海一門に伝わる「青海波塗」を太郎左衛門より伝授され、その技術を津軽へと持ち帰った。

その後は武士が腰に差す鞘などにも塗りが用いられ、江戸時代の後期になると文庫、硯箱や重箱などが作られたようだ。津軽藩はこの塗り物を幕府や朝廷への贈り物とすることで、漆器としての価値を高めていった。

◯幕末あとの混乱、繁栄と衰退を繰り返す

明治時代に入り廃藩置県が行われると津軽藩もなくなり、津軽塗はその庇護を失ってしまった。そのため一時期、津軽塗は衰退することとなる。

新たな庇護者となったのが青森県だ。1873年のウィーン万国博覧会では県が「津軽塗」として漆器を出品し、初めて津軽塗という言葉が認知されるようになった。認知度が上がった津軽塗は、大正時代まで大衆向けに販路を拡大、売上を上げ、定着していった。

しかし1929年に起こった世界恐慌が、青森県にも波及。さらに第二次世界大戦時の経済統制により、津軽塗の制作は一時中断してしまった。

◯戦後から現代

戦争が終わると、「親方に左右されない自主的活動」を行う無名会が若手の津軽塗師たちを中心に作られた。。以後この組織が強化され、組合や協会などとして組織作られることで生産が拡大し、津軽塗は息を吹き返し、新たな一歩を踏み出した。

1955年、全国漆器展で津軽塗が優勝。青森県漆器連合会なども結成され、高度経済成長期になると贅沢に漆を使った津軽塗は人気を博し、需要に対し生産が追いつかないほどだった。

1975年、国の伝統的工芸品に指定される。これを機に、生産の効率性や法人化、生産数の把握なども進んだ。

以来、昔ながらの重箱や盆から、スマートフォンのケースまで幅広い塗りの製品が作られている。

郷土料理とともに味わう津軽塗

「HARENOVA」の蓋付き器 (ゴールド)
「HARENOVA」の蓋付き器 (ゴールド)

現在、弘前市内の店舗には、津軽塗を使った郷土料理のお店が多数ある。なめらかでどっしりとした津軽塗の手触りを楽しみながら、青森の郷土料理に舌鼓を打ってみたい。また、同じく市内にある「弘前市立観光館」では、唐塗48工程の展示が見学できるのでぜひ立ち寄ってみよう。

弘前市立観光館
青森県弘前市大字下白銀町2-1 追手門広場内
0172-37-5501

津軽塗の使い方、洗い方、保管方法

乾燥や直射日光、極端な温度変化などを嫌う漆器特有の特徴を踏まえていれば、使い方や保存方法はそれほど難しくない。日常から気軽に使って、使い続けるほど色合いが鮮やかに変わる様子を楽しめる。

◯洗い方

ガーゼなど柔らかい布をぬるま湯に浸し、よく絞ったら器全体を拭く。汚れがひどい時には食器用洗剤を布に垂らして使う。洗剤を使った場合には、乾いた布ですみずみまで拭くこと。その後、室内で自然乾燥させる。スチールたわし、磨き粉などを使うと表面が傷つくことがあるので使用しない。また、食器洗い、電子レンジなどの機器は使用不可。

◯保存方法

直射日光を避け、扉のついた棚などにしまう。年に数回、お正月などにしか使わない場合には、和紙などに包んで保管する。乾燥に弱く何年もしまっておくとヒビが入る可能性があるので、ときどき取り出して使ったり、外部の湿気に触れさせたりしておく。

<関連の読みもの>
漆器のお手入れ・洗い方・選び方。職人さんに聞きました
https://sunchi.jp/sunchilist/craft/112389

<関連の読みもの>
漆とは。漆器とは。歴史と現在の姿
https://sunchi.jp/sunchilist/craft/109680

津軽塗のおさらい

◯素材

天然漆、ヒバ、ホオ、カツラ、ケヤキ。ほか、同等の材質を有するもの

◯代表的な技法

・唐塗
・七々子塗
・紋紗塗
・錦塗

◯代表的な作り手

津軽塗十二人衆 : 津軽塗伝統工芸士会の中から選ばれた有志12名

◯数字で見る津軽塗

・誕生 : 646〜1719年ごろ
・青森県漆器協同組合連合会企業数 : 126社
・年間生産額 : 約3億9000万円 (推計)
・津軽塗伝統工芸士会会員 : 24名
・伝統的工芸品指定 : 1975年

<参考>
・小畑智恵 著 『津軽の手仕事 つがるぬり』青森県中南地域県民局地域連携部 (2018年)
・大嶋奈穂 編 『伝統工芸のきほん② ぬりもの』理論社 (2017年)
・東北経済産業局ホームページ 青森県 津軽塗
https://www.tohoku.meti.go.jp/s_cyusyo/densan-ver3/html/item/aomori_01.htm
(サイトアクセス日: 2020年7月16日)

<協力・画像提供>
青森県漆器協同組合連合会
http://www.tsugarunuri.org/

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