金沢のいろどりあふれるお針子道具 「加賀ゆびぬき」のこと、教えてください
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親子3代にわたり受け継がれてきた糸仕事
——ところで、由紀子さんは小さい頃から「加賀ゆびぬき」を習われてたんですか?
実は、はじめてつくったのは大学生のとき。教えてもらったのは母からです。母は祖母から教わったそうです。祖母も母も「てまり」や「ゆびぬき」をつくっていたので、小さい頃から見てはいたのですがそれまで手芸には特に興味がなかったんです。
——何をきっかけにはじめることに?
高校生までは金沢で暮らしていたんですが、大学のときに金沢を離れ北海道の札幌に移り住みました。
気候も景色も違う土地で、金沢が少し恋しくなって。金沢のものを何か手元に置いておきたくなったときに、祖母がいつも楽しそうにつくっていた綺麗なゆびぬきのことを思い出しました。そして、帰省したときに母に教えてもらったんです。
夜遅くに、はじめてのピンク色のゆびぬきができあがったときには、もう次の色や柄を考えてわくわくしていました。
——すごい!やっぱり細かい作業がお好きなんですね。
「細かくて難しそう」と思われがちなんですが、実際につくってみると見た目ほど複雑ではないんです。大きな道具もスペースも要らないので、電車やバスの中でつくる人もいますよ。私にとってはずっと同じ姿勢でパソコン作業をする方がよっぽど大変です(笑)
——「ゆびぬき」って、いろんな地方でもつくられていたんでしょうか?
各地にそれぞれ色々な実用のゆびぬきがあったとは思うんですけど、既製品がでてからは、つくる文化はほとんどなくなってしまったみたいですね。
金沢市内の旧家では、明治や大正のころにつくられた古いゆびぬきが残っていて、実用のほかに、お雛さまの飾りとしても大事にされていたようです。いくつか、日本の古いゆびぬきの写真がありますよ。
——今、由紀子さんがつくってらっしゃるものはとても繊細ですね。柄もたくさんあるし色鮮やかで、なんだかずっと眺めていたいです。
祖母が書きためて残してくれた製図は数百枚もあるんです。このゆびぬきには先人の知恵がつまっていて、とても使いやすいのだと祖母はいつも話していました。私も自分でいろいろな柄を考えて、「加賀ゆびぬき」をもっと広めていきたいなと思って本を出したのですが、遠くの地域に住む方がこの本を見て、加賀のゆびぬきをつくってくださるというのが、とても不思議で面白いなと思います。
さて私の手元はというと、糸をかがってジグザグをなんとか3週したところ。まだまだ隙間だらけですが、この続きはお家で。「ここまでは順調ですよ」と、優しい先生でほんとうに良かったです。がんばります!
後日、由紀子さんに写真を見ていただいたところ、「とても上手に仕上がりましたね。配色もポップでとても可愛く仕上がったと思います。のこりの材料でぜひ2個目にも挑戦してみてください」と嬉しいコメントをいただきました。私、褒められて伸びるタイプですので2個目もがんばります!
由紀子さんがおっしゃっていたとおり、糸をかがるのは思っていたよりもシンプルな作業で、どんどん進めることができました。反省点は多々あるけれど、ひとつめにしては上出来ということにします。
由紀子さん、どうもありがとうございました。
今回伺った金沢の「加賀てまり 毬屋」は、加賀ゆびぬき作家の由紀子さんと、由紀子さんのお母さまである加賀てまり作家の小出孝子さんのお店。
「ゆびぬき」や「てまり」の教室もされていて、東京や神戸などの遠方から生徒さんが通われるほどの人気なのだとか。
こんな風に、古き良き加賀の文化がどんどん広まっていくならば、それはとても素敵なこと。今では着物を着るということも少なくなってしまいましたが、繊細な絹糸を使った細やかでていねいな針仕事が、また後の世代へもつながっていくようにと願います。
大西 由紀子(おおにし ゆきこ)
加賀ゆびぬき作家。金沢生まれ、金沢育ち。祖母・小出つやこ、母・小出孝子から金沢につたわるゆびぬきの伝統技術を学び、2004年第1回の個展を開催。加賀ゆびぬき教室「加賀ゆびぬきの会」を立ち上げ、金沢・京都・大阪にて教室を開催し、加賀ゆびぬきの普及につとめる。著書に「絹糸でかがる加賀のゆびぬき(NHK出版)」「はじめての加賀ゆびぬき(誠文堂新光社)」。
「加賀てまり 毬屋」
石川県金沢市南町5−7
076-231-7660
http://kagatemari.com
文・写真:杉浦葉子
この記事は、2017年2月19日公開の記事を再編集して掲載しました。