「究極のおろし金」は力いらずで洗いやすい。ミシュラン料理人が頼る「紀州新家」とは

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紀州新家の純銅手打ちおろし金

大根をすりおろすのって、けっこう大変です。すりおろすのに力が必要だし、おろし器に大根の繊維が目詰まりしてしまうこともあって洗うのが面倒くさい。

そんなこんなで敬遠してしまいがちな大根おろしですが、それでもやっぱり和え物や揚げ物、秋の焼きさんまや和風ハンバーグにだって欠かせません。そんな葛藤を抱えつつ、道具を見直してみれば何とかなるのかも‥‥と見つけたのが、「紀州新家」の純銅手打ちおろし金です。

紀州新家

すり下ろしに力は不要。使用後はサッと水洗いでOK

昔ながらの手打ちおろし金は、下に向かって広がっているちりとり型が主流ですが、紀州新家のおろし金は長方形。

幅がある持ち手部分はしっかりとホールディングでき、力を入れやすいようになっているので、余計な力をかけずにお年寄りや女性でも楽にすりおろすことができます。

紀州新家

嬉しいことに使用後のお手入れも簡単で、食材の繊維が刃に引っかかっていても、使用後は水で流せばするりと落ちていきます。

紀州新家のおろし金は、目立ての角度が違う

こうした使い勝手のよさの秘密は、鏨 (たがね) を使って刃を掘り起こす「目立て」の角度にありました。

これまでの手打ちおろし金は、製作時の打ちやすさから、斜め45度に目を入れるのが一般的。それに対して紀州新家のおろし金は、金板に対して真っ直ぐに目立てされています。それにより目詰まりしにくく、刃に残った繊維質も水の力だけで落ちていくのです。

紀州新家

もちろん、味にも違いが出てきます。

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「目の一つ一つが刃となってしっかりと食材に当たるので、食材をつぶさずに『切って擦る』という感覚。食材のよさを活かしたまますりおろせるんです」と、紀州新家の新家崇元 (しんけ たかゆき) さん。

紀州新家の新家崇元さん
紀州新家の新家崇元さん

使う食材や目指す仕上がりによって、目の大きさや角度の研究を重ねてきたといいます。

純銅おろし金の美しさに魅せられて

そんな特殊な目立ての技術を習得するには長年の鍛錬が必要だろうと思いきや、なんと新家さんが本格的におろし金作りを始めたのは2018年だというから驚きです。

「伝統工芸をやってみたいと考えていたんですよね。いろいろとリサーチする中で純銅おろし金に出会い、その美しさに魅せられました。しかも、江戸時代から現在まで受け継がれてきた300年もの歴史ある調理器具で、日本固有の文化。そんな素晴らしいものが高齢化や後継者不足で存続の危機だと知り、独学で作り始めたんです」

紀州新家
2018年度グッドデザイン賞も受賞。おろし金作りを始めてわずか半年のことでした

それまでは建築やガーデニング業に携わってきた新家さん。伝統とは一線を画す、独自の目立ての方法やおろし金の形は、全く別の畑から来た新家さんだからこそ実現できたのかもしれません。

おろし金にも個性あり

現在、目立ての入れ方や大きさによって25種類ほどある紀州新家の純銅おろし金。食材の繊維が少し残ったようなザクザクとした食感に仕上がるものから、口の中でふわっと雪のように溶けるものまで、食材や料理に合わせて楽しむことができます。

紀州新家
紀州新家
中には、すりおろしたものを刷毛でササっと器に移せるおろし金も!

「京都『祇園さゝ木』や東京『くろぎ』など、ミシュラン店の料理人の方々にも使っていただいています。目標は、海外のミシュラン三つ星シェフに紀州新家のおろし金を届けること。

すりおろす文化は日本特有なんですが、フレンチのジュレやスープなどにも応用できると思うんですよね。フードプロセッサーや包丁で刻むのとは違う味わいを求めているシェフにぜひ使ってもらいたいです」

おろし金ひとつで食感や味わいが変わってくるもの。

たかがおろし金、されどおろし金なのです。

料理や食材に合わせておろし金を使い分ける。

プロの腕前ほどとはいかなくとも、そんな「おろしの道」を極めてみたくなる一品です。

 

<取材協力>

紀州新家

和歌山県橋本市向副1039

0736-33-2877

https://www.kisyushinke.com/

文:岩本恵美

写真:中里楓

*こちらは、2019年9月20日の記事を再編集して公開いたしました。

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