絵本専門店「クレヨンハウス」店員さんがすすめる「美しい絵本」5選
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クレヨンハウスのスタッフが選ぶ工芸に触れる絵本
子どもたちに「もっともっと、いろんな絵本に触れてほしい。絵本をきっかけに工芸やものづくりの魅力を知ってもらいたい」。
そんな思いからご紹介した『絵本で読む「ものづくり」。クレヨンハウスのスタッフが選ぶ工芸の本5選』。
前回は、手作りの生活雑貨、伝統工芸品がモチーフとして描かれているなど、その内容が「ものづくり・工芸」に関連している絵本を紹介しました。
今回は、絵本自体が美しく、工芸品としてひとつの作品といえるもの、また、装丁や使われている素材からものづくりの技術に触れることができる絵本をご紹介します。
選んでくれたのは、前回同様、東京・青山にある、子どもの本の専門店「クレヨンハウス」、子どもの本売り場の馬場里菜(ばば りな)さんです。
またまたどんな絵本が登場するのか楽しみです。
インド発、ハンドメイド絵本の傑作「水の生きもの」
「最初にご紹介したいのは、インドの絵本『水の生きもの』です」
インド東部ビハール州に伝わる民族絵画の一種、ミティラー画の絵本。水の生きものたちが色鮮やかに描かれた美しい絵本です。
「手漉きの紙を使って、1枚、1枚、シルクスクリーンで印刷しています。製本も含めて、全て手作りの絵本です」
作っているのはインドの出版社「タラブックス」。ハンドメイド本も手がける会社として世界的にも有名です。
「最初に注目されたのはインドではなくヨーロッパでした。印刷・製本技術の高さはもちろんですが、オリエンタルな雰囲気が工芸としての本の魅力と相まって、世界に広がっていったのかなと思います」
本を開いて最初に感じられるのは匂い。
「インクの匂いも魅力ですね。読むだけではなく、紙に触れた感じや匂い、五感で楽しめる絵本だと思います」
インドのインクの匂い‥‥そんな想像をするのも楽しいです。
紙はコットン古布を使った手漉きの紙を使っています。
「版を重ねる度に紙を漉くところからはじめるので、完成までに時間もかかります」
一度品切れになると、本が届くのに半年、1年かかることもあるそう。
「製本も主に手作業でおこなわれていますが、以前、ページが上下逆さまに閉じられていた本が届いたことがありました」
職人さんが手作りしているからこその体験ですが、以来、店頭に並べる前に1冊、1冊チェックしているんだとか。
「タラブックスは、伝統的な製本技術を使いながら、新しい作家やアーティストと一緒に本を作っています」
なかには、日本人の作家さんが手がけた本も。
ひとつひとつ、心を込めて作られる絵本に、世界中のアーティストが魅了されるのもわかるような気がします。
「絵本」という芸術に触れられる、子どもだけでなく、大人へのプレゼントにもおすすめの一冊です。
紙で表現する四季の移ろい「Little Tree」
「次にご紹介するのは『Little Tree』です」
本を開くと1本の木が現れ、ページをめくるごとに、季節が変わり、木も大きくなっていきます。
「造本作家の駒形克己さんの作品です。ページごとに紙を変えていて、木も1本、1本、手作業でつけられています。
あかりによって影の形が変わったり、紙の色や質感、模様などで四季を感じることができると思います」
駒形さんはいくつも絵本を出していますが、それぞれ造形が違うそう。
「ページによって微妙に形を変えているものは、職人さんが1冊、1冊、ルーペで重なり具合を確認しながら製本しているそうです。
どの本もとても手が込んでいて、開く度に『次は何が出てくるのだろう』とワクワク感があります」
紙だけで、これだけいろんなことが表現できるんですね。
「ここまで紙にこだわっている絵本は少ないです。もちろん、どの絵本も作家さんが紙の質感など確認していると思いますが、コストの問題もあるので、選ぶ紙の選択肢は限られてくると思います」
紙の可能性が感じられる、美しい絵本。手元に置いておきたくなる1冊です。
作家と編集者の思いが詰まった絵本「しろねこくろねこ」
コストとの兼ね合いで、大量生産の絵本が主流の中、手製ではないものの、ひとつの作品としての価値を高めるため、あえてコストのかかった製本をしているのが『しろねこくろねこ』です。
いつも一緒のしろねことくろねこ。
しろねこはくろのねこの毛の色が、くろねこもしろねこの毛の色が好き。でも、しろねこは草むらや泥んこ遊びで色を変えるのに、くろねこはくろのまま…。
互いの違いを認め合い、自分自身を好きになる。物語はシンプルながら、迫力のある筆使いと鮮やかな色彩で目と心を奪われます。
「絵本作家きくちちきさんのデビュー作です。もともと、きくちさんが自費出版していた手製本があって、その世界観を失わないように改めて作った絵本です」
一見、普通の絵本と変わらないように見えます。
「そうですね。でも、函(はこ)入りで布製本というのは珍しいですし、紙も厚めで、普通のものとはだいぶ違います」
有名な作家のものではなく、デビュー作というのが驚きました。
「一般流通させるために妥協した部分もあるかもしれませんが、出版社としても挑戦だったのではないかと思います」
絵本としての素晴らしさが認められ、2013年、世界的に有名なブラティスラヴァ世界絵本原画展で「金のりんご賞」を受賞しました。
「作家はもちろんですが、作品に対する編集者さんの強い想いも感じられます。これだけこだわり抜いた絵本はなかなか出てこないと思います」
好きなところから塗るか、最初から全部塗るか「ぬりえほん①ねこ」
次にご紹介するのは『ぬりえほん①ねこ』。
「塗り絵をしながら物語をつないでいくという絵本です」
1枚、1枚、違う紙に描かれた100匹のねこ。頁数222ページと、なかなか塗りごたえのある絵本です。
「大人は、この本をどんなふうに使ったらいいんだろうと考えてしまいそうですが、子どもは自由に楽しめる絵本だと思います」
好きなところから塗るか、最初から全部塗るか、性格も出そうですね。
「質感や色の違う10種類の紙を使っているので、紙によって画材を変えるのも楽しそうです」
「ところどころにある物語を読みながら、その中で感じたことを膨らませて色をつけていく楽しみもあります」
最後には自分だけのオリジナル絵本ができあがる。
ページを簡単に切り離すことができるので、描いたものを飾ることができるというのも嬉しい絵本です。
伝統技術と新しい技術で進化する絵本の世界「360BOOK 地球と月」
「最後に紹介するのもちょっと変わった絵本『360BOOK 地球と月』です」
本を開くと、立体に世界が広がります。
「一級建築士でもある大野友資(おおの ゆうすけ)さんが手がけた絵本で、シリーズになっています」
建築士さんが作るだけあって、構造がきれいです。いつまででも眺めていられそう。
「製本工程の後に、手作業で各ページを糸で繋いでいます」
「小さな宇宙が手のひらに乗っているみたいな楽しさがあります。インテリアにもおすすめですね」
それにしても、いろんな絵本がありますね。
「“本”とは何だろうって思います(笑)」
デザイナーさんや、建築士さんなど、いろんな分野の方が手がけているのも面白いです。
「自分たちでこだわって本を出している版元さんも増えている印象があります」
『ぬりえほん①ねこ』を出版するNEUTRAL COLORSさんは、企画、編集、製作、印刷、製本、営業までほぼ一人で行なっているんだそう。
「種類の違う紙をこんなにたくさん使って1冊作るというのは、なかなかできないことです。お一人だからできることもあるだろうと思います」
「新しいことに挑戦する面白い出版社が増えることで、本の幅も広がっているように感じます」という馬場さん。
それは絵本だからできることでもあるのでしょうか。
「そうですね。絵本は読むだけでなく、触れたり、視覚的に楽しめたりできるので、作家の表現したいことによって、いろんな方法を用いることができると思います」
「材質にこだわったものや独特の製本技術を使った本など、紙の絵本には電子書籍では味わえない魅力がたくさんあります。そんなことを感じながら、本への興味を深めていただけるとうれしいです」
職人さんの伝統技術が施されたものから、新しい製本技術が使われているものまで、技術の進歩で絵本の世界も進化している。
これから先、どんな絵本が出てくるのか楽しみです。
「新しい表現方法に挑戦してくれる絵本作家さんも出てくるとうれしいなと思います」
読むものに五感で刺激を与えてくれる美しい絵本たち。
みなさんも手に取ってみてはいかがですか。
<紹介した絵本>
『水の生きもの』
『Little Tree』
『しろねこくろねこ』
『360°BOOK 地球と月』
『ぬりえほん①ねこ』
<取材協力>
クレヨンハウス東京店
東京都港区北青山3-8-15
03-3406-6308(代表)
03-3406-6492(子どもの本売場直通)
営業時間:平日11:00~19:00 土・日・祝日10:30~19:00
定休日:年中無休 (年末年始を除く)
文 : 坂田未希子
写真 : カワベミサキ
*こちらは、2019年11月26日の記事を再編集して公開いたしました。