しめ飾りの種類をいくつ知っていますか?「べにや民芸店」で見るユニークな正月飾り
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この時期になるとスーパーの店頭などで売られているのをよく目にするしめ飾り(注連飾り)。
神聖な場所を示すしめ縄に、稲穂や裏白(うらじろ)、だいだい、御幣(ごへい)などの縁起物を付けてつくられており、お正月に年神様を迎える準備のひとつとして飾ります。
このしめ飾り、地域や作り手さんによって特徴が異なるのをご存知でしょうか。
縁起を担いで年神様をお迎えする目的は同じでも、その土地に伝承する物語が由来になっていたり、暮らしに馴染みの深い道具がモチーフになっていたり、形状は様々。
全国各地でバラエティ豊かなしめ飾りが今もつくられ続けています。
そんなしめ飾りを一堂に集めた展示販売会「日本各地のしめ飾り展」を毎年開催しているのが、東京・駒場にある「べにや民芸店」さん。
展示会開催中の同店にお伺いして、魅力溢れるしめ飾りの数々を見せていただきました。
各地に残るしめ飾り
まずこちらは三重県伊勢地方の「笑門(しょうもん)」飾り。
昔、須佐之男命(スサノオノミコト)を助けたとされる「蘇民将来」の逸話に由来する飾りで、年神様をお迎えするほかに無病息災の意味も含まれているので、伊勢地方では一年中飾っておくそうです。
ユズリハ、裏白、柊、馬酔木など縁起の良い葉っぱがついています。
続いては、愛媛県西予市でつくられる「宝結び」のしめ飾り。長寿・多幸などを願う吉祥文様「宝結び」を輪のなかに配したデザインは、つくり手である上甲清(じょうこう きよし)さんが着想したオリジナル。
黒米バージョンと白米バージョンの2種類がつくられています。
ちなみに、このしめ飾りのように輪っかの中に文様をしっかり編むには高い技術が必要とのこと。
参考にと見せていただいたこちらは「鶴寿」と呼ばれるお飾りで、30年以上前に山口県の下関でつくられたのだそう。
文字通り、鶴と寿を表していますが、難易度が非常に高く、当時つくっていた職人さん以外には真似ができず、現代に至ってはつくれる人がいなくなってしまったといいます。
秋田の「宝珠型」のしめ飾り。藁(わら)ではなくスゲという植物が使用されており、近くで見るとまた違った風合いを感じるお飾りです。
こちらは、鶴と亀がついていかにもおめでたい島根県・出雲地方のしめ飾り。このように長寿を意味するモチーフが使われることは非常に多くなります。
鳩・ハサミ・お椀。一風変わったモチーフのしめ飾りも
地方によって、横長だったり、縦長だったりと特徴があるしめ飾り。中には暮らしの道具などをモチーフにしたユニークなものも存在します。
なにやら鳥のように見えるこちらは、「鳩」をかたどったしめ飾り。京都でつくられています。
べにや民芸店 店主の奥村良太さんいわく、「鶴はよく見ますが、鳩は珍しい」とのこと。よくよく見ると、胴体の部分の輪っかが二重になっていて、鳩の特徴を表しているそうです。
二つのしめ縄がクロスしているように見える、静岡県 御殿場の「ハサミ」型しめ飾り。
御殿場には、ハサミを奉納する珍しい神社があり、それに由来しているのではと言われています。厄を断ち切る、邪心を摘み取るといった意味が込められているお飾りです。
お椀のかたちをした「おやす」と呼ばれるしめ飾り。長野県 上田のもの。
かつては、中におせち料理などを入れてお供えしていたそう。現在は橙(だいだい)などを入れることもあるようです。
奇跡的に続いてきたしめ飾りの伝統
前回の東京オリンピックの年に創業して55年になる「べにや民芸店」では、30年以上も前からしめ飾りを扱ってきたそう。
「やはり、地方によって形が違う面白さがありました。なるべくなら地域に根付いたものがよいと考えていて、ここにあるのは伝統的なものが多いと思います」
と、奥村さん。
しめ飾りは、作り手さん自身もはっきりとした由来を知らないままに受け継いでいるケースが多いのだとか。
「それでもこれだけたくさんの種類が今日まで残っているのが不思議ですよね。
『鳩』の飾りを作っている方に『なんで鳩なんですか?』と聞いた時も、『ずっと作ってるから』としか答えてくれませんでした(笑)」
中央に見えるのは、三重県 伊賀の「えびす馬」飾り。作り手さんは80台半ば。一昨年に一度引退されたものの、今年再び作ってくれたのだそうです。
奥村さんの知る限り、その方以外に作っている人はいないとのこと。
「えびす馬」に限らず作り手さんの高齢化が進み、伝統的な飾りを伝え続けていくのは難しい状況になっています。
一方、そのデザイン性の高さ・面白さが徐々に広まって、最近は若い方も来店するようになったとのこと。
「輪飾りと呼ばれる小ぶりなものであれば、水周りや勝手口など家の中で気軽に飾ることができたりして人気です」
玄関だけでなく、家の中の各部屋で飾るタイプであれば、気軽に導入できるかもしれません。そのほか、門柱や門松につけるもの、車のナンバープレートにつけるものも存在します。
ここまで、日本各地に残るしめ飾りをいくつか紹介してきました。
紹介できたのはほんの一部ですが、気になるものはあったでしょうか。好みのデザインを探したり、部屋のどこに置こうか考えてみたりすると、正月飾りが身近に感じるようになってきます。
また、自分の地元にはどんなタイプの飾りが残っているのか、改めて調べてみても面白いのではないかと思います。
職人がひとつひとつ手作りしているしめ飾り。同じ種類でも、実際に見比べてみると少しずつサイズや形状が異なっていて、選ぶのも楽しいはず。
べにや民芸店さんは、年末30日まで営業中。すでに売り切れてしまっているものもありますが、しめ飾りの多様性に触れられるよい機会です。是非一度、足を運んでみてください。
<取材協力>
べにや民芸店
http://beniyamingeiten.com/index.html
文:白石雄太
写真:カワベミサキ