銭湯でアート鑑賞?強くて美しいタイルの世界

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タイルづくりの現場へ

タイルの今を知るには、実際にタイルを作っている現場も知りたい、との思いで、ミュージアム近くのタイルメーカー「オザワモザイクワークス」さんに伺いました。

「じゃあ、ゆっくり見ていってください」

ここで社長さんと交代で、奥様で企画ご担当の小澤枝里子さん、営業の久田さんが迎えてくださいます。タイルの特性や最近の事情を伺いながら、製造の現場を案内いただきました。

「タイルは水に強いだけでなく、経年劣化がほぼないんです。長崎に軍艦島という島があるでしょう。あそこは建物はもうボロボロですが、そこに使われているタイルだけは昔のまま残っているんです。そう言った丈夫さや耐水性から、昔からお風呂や手洗い場など水周りの建材として使われていました」

その丈夫さは、焼くことで初めて生まれます。素材を型で抜き、釉薬を施した焼く前のタイルは、久田さんの手でもろりと割れました。

型抜きの瞬間。
型抜きの瞬間。
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「このあと1250°Cの窯で16時間、連続して焼きます。中は24時間火がつきっぱなしです。休みも交代で出て、誰かしらは居るようにしています。年のうち窯の火が消えるのは、お盆とお正月とゴールデンウィークぐらいでしょうか」

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さやという、タイルを敷き詰めたトレイが何十にも重なり、台車に載せられてトンネル状の窯の中へと運ばれていきます。台車はもっとも火元に近い高温のところから、ゆっくりと火元を離れていきます。トンネルを抜けた先には大きな扇風機が1台、出てきた台車を迎えるように風を送っていました。

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「アナログでしょう。こうしてゆっくり冷却することでしか出ない色があるんです。1時間ごとに1台出入りして、冷めきらない場合はああして何台も使って冷ましたりもします。

3方向からゆっくりと扇風機で熱をとります。
3方向からゆっくりと扇風機で熱をとります。

焼かれたタイルはひと回り小さくなっていました。このあと検品に出され、合格したタイルだけがミュージアムで見た紙貼り、ネット貼りの工程に進みます。

左が焼く前、右が焼いた後です。
左が焼く前、右が焼いた後です。

「こういうタイルの色味は、小さい窯でしか出せないんですよ」

久田さんがいくつか特徴のあるタイルを見せてくれました。つやっとしたタイルの表面の下で、複雑に色味が変化しています。

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「お茶の世界でも、釉薬が思いもかけない変化をする窯変(ようへん)のお茶碗が好まれたりしますが、窯変は小さい窯の方が出しやすいんですね。ですからうちでも、1度にたくさんは焼けませんが、細かな色味を出すために小さな釜を使っています」

釉薬は常時、300種類はあるとのこと。その成分はどれも、石、土、水、それとほんのわずかな顔料でできています。

「ですからその日の温度・湿度のほんの少しの差によって、仕上がりが変わります。生産日が変われば、仕上がりも変わってくるんです」

焼く前の、釉薬をかけた段階。日付ごとにサンプルを取ってありますが、すでにこれだけ色が違います。
焼く前の、釉薬をかけた段階。日付ごとにサンプルを取ってありますが、すでにこれだけ色が違います。

「同じものがない、というのはお茶碗と同じなんですが、こちらはいかんせん建材だから、
同じようにして、と言われちゃうのがつらいところですかね」

枝里子さん、久田さんともほぼ同時に眉を下げて笑いました。

これからのタイル

丈夫で、水に強く、様々な色かたちを持つタイル。かつてはその優れた機能性から家庭などの水回りにも使われてきましたが、今はその冷たい感触や目地のカビなどの問題点をクリアする建材が出てきたことで、身の回りで見かけることも少なくなりました。その一方、元銭湯のカフェやタイル専門のミュージアムが人気を集めるなど、タイルのある空間を楽しむ気配が、特に若い世代を中心に感じられるようにも思います。

「最近は、機能面よりも意匠としてタイルが取り入れられるようになってきています。スターバックスやドトールのキッチンバック(スタッフが飲み物などを作るキッチンカウンターの壁面)にも、モザイクタイルが使われているんですよ」

それは気づきませんでした。なんとドトールでは、オザワさんのタイルが使われているそうです。

「冬のお風呂場のタイルの冷たさなど、タイルにまつわる悪い思い出を持たない若い人にとっては、タイルの色どりや質感が新鮮なんでしょうね。特にモザイクタイルは小さくてカラフルですから」

先ほどタイルの詰め放題に夢中になっていた自分を思い出しました。

「私たちも、これまでモザイクタイルはもっぱら建材で、商社さんやハウスメーカーさんから受注を受けて納品するので、直接そこで暮らしている方や働いている方の声を聞くことはなかったんです。ミュージアムが町にできて嬉しかったのは、そうした一般の方の反応を間近で見られるようになったことですね。最近はリフォームにうちのタイルを使いたいと、直接一般の方が相談にこられたりもします」

駅まで送っていただいた車の中で、「ミュージアムが出来て、町にも少しずつ変化が起きてきている。まだまだこれから、頑張らないと」
と枝里子さんが語られました。

強くて美しいタイルの世界。今ちょうど現代での活かされ方が見直されてきているところなのかもしれません。銭湯から、ずいぶん遠くまでやってきました。私はまず、この持ち帰ったタイルを何に使おうか、考えてみようと思います。

<取材協力>
さらさ西陣
京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
075-432-5075
http://cafe-sarasa.com/shop_nishijin/

多治見市モザイクタイルミュージアム
岐阜県多治見市笠原町2082-5
0572-43-5101
http://www.mosaictile-museum.jp

株式会社オザワモザイクワークス
岐阜県多治見市笠原町986
0572-43-2090
http://omw.co.jp/

文・写真:尾島可奈子

笠原町には最近、タイル製のゴミステーションが増えているそうです。こちらはオザワさんのタイルを使ったもの。
笠原町には最近、タイル製のゴミステーションが増えているそうです。こちらはオザワさんのタイルを使ったもの。
可愛らしい赤ずきんちゃんのゴミステーション。
可愛らしい赤ずきんちゃんのゴミステーション。
ご近所のスーパーの立体駐車場には、近くの小学校の生徒が作ったタイル絵が。店内も柱からお手洗いの壁までタイルでした。
ご近所のスーパーの立体駐車場には、近くの小学校の生徒が作ったタイル絵が。店内も柱からお手洗いの壁までタイルでした。

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