漆器屋と紙メーカーが作る「ポチ袋」?異色コラボの理由は“北陸”にあり
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冬は雪深く、一年を通して湿潤な地域が広がる北陸では、独自の風土がさまざまな工芸技術を育んできました。
そんな北陸の地で2020年1月誕生したのが、ものづくりの総合ブランド「RIN&CO.」(りんあんどこー)。
漆器や和紙、木工、焼き物、繊維など、さまざまな技術を生かしたプロダクトが動き出しています。
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今回は「RIN&CO.」を立ち上げた漆琳堂の内田徹さんとともに、プロダクトの製作現場を訪れ、北陸のものづくりの魅力に迫っていきます。
*ブランドデビューの経緯を伺った記事はこちら:「漆器の老舗がはじめた北陸のものづくりブランド「RIN&CO.」が生まれるまで」
紙漉きから加工まですべて行う会社
今回ご紹介するのは、越前和紙でつくられたポチ袋。
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ポチ袋はお子さんにはもちろん、大人同士でもちょっとしたお礼やお心づけに使える便利なアイテムの一つです。
和紙ならではの少しざらざらした手触りにやわらかい色合い、そしてワンポイントのイラストが目を引きます。
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この商品を手がけているのは、福井県越前市のTAKIPAPER(瀧株式会社)。
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1500年以上続く越前和紙の産地で、紙漉きから印刷、加工まで一貫生産を行う会社です。
越前和紙をメインに封筒や名刺、貼り箱、ちぎり和紙のラベルなど、多種多様な紙製品を受注生産。


TAKIPAPERの創業は、美術や工芸に使われる「揉み紙」の生産からスタート。
揉み紙には手作業で揉んだ和紙に裏紙を張り合わせる工程があり、機械を導入しながら試行錯誤していきました。
「意外かもしれませんが、当社で紙漉きをはじめたのは創業からしばらく経ってのことなんです。糊を張り合わせる機械から次は印刷の機械も入れようか、紙も自社で漉こうか、と設備を整えているなかで、すべての工程を自社で行うようになりました」
と語るのは、TAKIPAPER3代目の滝道生(たき・みちお)さん。
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TAKIPAPERのように、製紙から印刷、加工まで手がけている会社は和紙の産地のなかでも珍しく、全国各地から寄せられる幅広いニーズに応えています。
圧倒的な和紙のノウハウ
越前和紙のポチ袋はどのように誕生したのでしょうか。「RIN& CO.」を立ち上げた内田さんに聞いてみました。
「私は越前市の隣、鯖江市で漆器をつくっていますが、TAKIPAPERさんの技術の高さは、ものづくりのジャンルは違えど噂に聞いていました。まずは越前和紙でどんなものをつくることができるのか。そこから滝さんに相談したんです」

内田さんが訪れた時のことを滝さんも振り返ります。
「北陸のさまざまな工芸がコラボレーションしていく、というブランドのコンセプトを聞いてワクワクしましたね。さまざまな和紙の製品を手がけていますが、普段、うちの名前が表に出ることはほとんどありません。そういう意味でも、産地が活気づく取り組みだなと感じています」

とはいえ、越前当初はほとんど和紙について知らなかったという内田さん。滝さんとの商品づくりのなかで技術やその背景を教わり、次第に越前和紙の奥深さを感じていったそう。
「このあたりは山々に囲まれている雪深い土地。だからこそ、豊富な雪解け水があり、越前和紙の産業が栄えていったことを知りました。北陸の風土がものづくりを支えてきた背景は、和紙も漆器もも同じだなと感じましたね」
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TAKIPAPERの膨大なサンプルを見せてもらいながら、打ち合わせを重ねること数回。次第に内田さんのなかで少しずつあるコンセプトが見えてきました。
「越前和紙は1500年もの長い歴史のなかでも、『奉書紙(ほうしょがみ)』という身分の高い人に送られる公文書として使われてきました。大切な人に伝える・贈るコミュニケーションツールとして、和紙の価値を今の時代にも伝えたい。そんな思いもあり、ポチ袋をつくってみることになりました」
ポチ袋といっても、和紙の種類や加工、印刷方法など選択肢は無限大。
滝さんのこれまでのノウハウから、越前和紙の良さを引き出せる紙質や印刷方法などを吟味していきました。
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「漉目のある凹凸の和紙に美しく印刷するのは簡単ではありません。協力会社と連携を取りながら、その都度最適な印刷方法を選択しています」と、滝さん。



TAKIPAPERでは機械の加工だけでなく、最後の仕上げは人の手によって行われます。
「どんなに機械やコンピュータが発達しても、人の手に勝る価値はない」と語る滝さん。
和紙の切り取りや貼り合わせなど、多くの人によるきめ細やかな作業が商品の品質につながっているのです。

越前和紙の良さとは
滝さんが考える越前和紙の魅力とは何なのでしょうか。
「和紙の良さは、“佇まい”だと思っています。同じポチ袋をつくるのも、和紙と上質紙やコート紙ではまったく仕上がりは異なります。商品を通じて和紙ならではの質感や風合いを感じてもらいたい。そのためにも、私たちは品質の確かなものをつくり続けるだけです」
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長年培われてきた技術と人の手により誕生した越前和紙のポチ袋。
親しい人の喜ぶ姿を思い浮かべながら、あなたならポチ袋にどんな思いを込めますか。
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文:石原藍
写真:荻野勤、中川政七商店
<掲載商品>
RIN&CO.「越前和紙 ポチ袋」
https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/g/g4547639669827/
<取材協力>
TAKIPAPER(瀧株式会社)
福井県越前市岩本町2-26
http://www.takipaper.com