シンプル、だけど無個性じゃないもの ──ガラスブランド「TOUMEI」が目指すものづくり
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ぽってりと丸い輪郭を帯びながら凜とした佇まいをしていたり、ちょこんとしたサイズなのに物言わせぬ存在感を放っていたり。
飾り気がなく、潔い。それでいて何だかユニークで、可愛らしさも秘めている──ガラスウエアブランド「TOUMEI」の花器やグラスには独特な雰囲気が漂う。
つくり手は2人のガラス作家
「TOUMEI」を立ち上げたのは福岡県宗像市在住の2人のアーティストだ。
ガラス作家の髙橋漠さんと和田朋子さん。東京にある美術大学を卒業後、髙橋さんは長野で、和田さんは東京においてそれぞれ作品づくりを行ってきたが、
「今後、どこで活動するのかを考えたときに東京や長野っていうのは想像できたんです。こういう感じでやるんだろうな、っていうイメージがついちゃって。なんか嫌だったんですよね。
で。僕の地元の福岡はどうだろう、って考えたときに、まったくイメージがつかなくて。そっちのほうが面白そうだなと思って。
それに‥‥なんていうか‥‥生物として‥‥。たとえば鮭って生まれた場所に戻るじゃないですか(笑)。そんなふうに自分が生まれ育った場所に戻りたいっていうことも漠然と思ったりして‥‥」と髙橋さん。
東京生まれの和田さんにとっては見ず知らずの土地である。髙橋さんから福岡移住について相談されたとき、「意外にも迷うことなく」その提案を受け入れたとか。
こうして2015年。髙橋さんの故郷にガラス工房を立ち上げ、2人の作品づくりが始まることになる。
「TOUMEI」について話をする前に、少しだけアーティストとしての活動を紹介したい。
ガラス作家である髙橋漠さん。主に宙吹きという技法(型を使わず、吹き竿に息を吹き込みながら成型する技術)を用いて制作。
あるときは驀進的に作業を進め、またあるときは理論的にゆっくりと見定める。
そんなふうにして生まれるさまざまな色や形のガラスたち。それらを組み合わせてつくり出す造形物は、個性的で不可思議。でも、なぜだか少し懐かしさを感じる。そんな髙橋さんの作品は国内外から高い評価を受けている。
一方、和田朋子さんは主にステンドグラスの制作に用いられる技法を得意とするガラス作家だ。
多様な色や形のガラスを用いることはもちろん、ほかにも道端に落ちていた石や木の枝、葉っぱ、ときにはほかの人にとってはゴミのようなものなど、和田さんの琴線に触れた美しいもの、面白いもの、発見した何かを素材にして、自分の感覚や感性を道標にしながら、繊細で立体的な作品を生み出している。
そんな2人が、ガラスウエアブランド「TOUMEI」を立ち上げたのは2016年のこと。そこにはある理由があった。
どうしてブランド服は買うのに、手づくりの器は買わないのか?
「いつも疑問に思っていたんです。若い人ってデザイナーがつくるブランドの洋服は普通に買うのに、どうして手づくりの器は買わないのかな、って。
興味はあるけど、買ってみる勇気がないというか。手づくりの器となるとハードルが高くなる‥‥そういう若者って結構いると思うんですよね」と髙橋さん。
大手百貨店で個展をしたときも。ある程度、歳を重ねた大人の来場者は多いのに、同世代の若い人が少ないことも気になった。つまんないと思った。
「僕としてはブランドの服も、手づくりの器も同じロジックで買えると思うんです。でも現実的にそれができていないのは、こちら側の、つくり手のプレゼンテーションの問題だなと」
同世代の若い人にも手づくりの器を届けたい。気兼ねなく、同じ目線で楽しんでもらいたい。和田さんは言う。
「好きな洋服を着るとテンションが上がるじゃないですか。手づくりの器もそれと同じで。
好きな花器に花を活けてみると気分がパッと明るくなるし、いつもの食事もお気に入りの食器を使うだけで気持ちが上がるから」
「TOUMEIを通してそういうことを若い人にもきちんと伝えられたらな、と。伝えることさえできればきっと分かってくれると思うので。
無抵抗にというか、自然に、フラットな気持ちで作家の器を手にとってもらえるようにしたいなと思ったんです」(髙橋さん)
正解なんてない。ただ、どんどん良くしていけばいい
そもそも「TOUMEI」という名前の由来は?
「ガラスの魅力っていろいろあると思うんですけど、私たちが一番大事にしているのが“透明”であること。そこからきています。
光を通すことによって独特の質感や色が映し出されたり、水を入れると鮮明になるシルエットや存在感‥‥TOUMEIを通じてガラスという素材の普遍的な美しさや豊かな表情といった魅力を感じてもらえたら」と和田さんは言う。
TOUMEIといえば、何といっても独特な形だろう。
まず髙橋さんがスケッチをする。いくつも、いくつも。1時間ほどかけて思いつくままに、手が動くままに一気に描き続けるという。
「このとき、いいやつを描く気は全然ないんです。ああしよう、こうしようとかまったく考えないですね。だって、
正解なんてないじゃないですか。
こうしなきゃといけないと思うと手が動かなくなったり、どうしようって考えちゃうと思うんですけど、それって正解を出そうとしているからですよね。正解を出さなくていいから100個考えてくださいって言われたらできない人はいないでしょう。
なので、僕の場合は何も考えずになるべくいっぱい描きます。
まあ、ほぼボツになりますけど(笑)。それを翌日とかに見直して、これいいじゃん、面白いかなみたいなのを選んでいきます。
その上で、こうしたらもっと良くなるかな、格好良くなるかなってことをつくる過程で考えて、どんどん良くしていけばいいのかなって。
選ぶのは‥‥シンプルだけど、飽きが来ないっていうか。個性的でやぼったくないものというか‥‥」と髙橋さんの言葉を継いで、和田さん曰く、
「そうね。シンプルだけど‥‥無個性じゃないもの」
そう。
シンプルだけど無個性じゃないもの──それが「TOUMEI」の目指す形である。
「あとはやっぱりガラスのきれいさが出ることを大事にしています。たとえば、花瓶なら水を入れたときに輪郭がきれいに見えるようにとか、光を通したときに美しく反射するようにとか」(髙橋さん)
ちなみにTOUMEIの花器は一つ一つすべてが宙吹き。つまり型は使っていないハンドメイドというから、そこには確かな技術があることが分かる。
自分たちで調合して好きな色のガラスをつくる
きれいな色合いもまたTOUMEIに魅せられる所以の一つだろうと、思う。
ガラスの色づけには2つの方法があるという。
一つは窯中に透明のガラスだけを溶かし、巻き上げたガラスに色の粉をかけるなどして後から色をつけるというやり方。応用が利きやすく、現代的な方法とか。
そしてもう一つは色のついたガラスを溶かすという方法。ガラスの原料に銅や鉄といった鉱物を調合することで発色させるやり方であり、こちらは原始的で非合理的な方法である。
手間暇や再現性を考えたら前者のほうが圧倒的に有益だが、TOUMEIでは後者を選択。髙橋さんは言う。
「前者の色のつけ方のほうがポピュラーで効率的なんですけど、その分、人と似たものになりやすいという短所があって、それは避けたいなと。
もっと未知なことに挑戦したい、そう思っていたとき、近所に工房をかまえる後藤哲二郎さんというガラスの作家さんと出会ったんです」
後藤さんは福岡特殊硝子株式会社という歴史あるガラス工房の流れを汲む職人で、色ガラスに関する知識や発色の方法、調合の技術などをもっていた。
「その方はもうご高齢で。『俺が辞めたらこれまで培ってきた色ガラスの技術や知識が途絶えてしまう』とおっしゃられて。それなら僕らがやります!と引き継がせていただいたんです」
色ガラスは面白かった。
あとから色をつける方法とはガラスの発色の仕方がまったく異なり、なおかつ自分の好きな色を自由につくることができるからだ。
とはいえ、簡単なことではないという。
「色ガラスの調合って難しいんです。とくにピンクや赤といった暖色系に発色させることがなかなかうまくいかない。でも、いつかTOUMEIにピンクや紫っぽい色を出したいと思って、いまは開発中です」(和田さん)
現在はブルーグリーンやアンバー、グレー、ブルー、オリーブ、クリアの6色を展開。
花器にはチムニー(煙突)やコフン(古墳)、クラウド(雲)、ヒル(丘)といった6型があり、ほかにもテーブルウエアや照明なども制作している。
さてと。花器を前に。
どれにしようか‥‥本気で迷いながらも頭の中には、どんな花を活けようか、どこに置いたら素敵だろう、違う形のものをいくつか置いてみるのもいいな‥‥そんなふうに楽しい空想が広がっていた。
<取材協力>
TOUMEI
福岡県宗像市池浦504-2
0940-72-6169
https://www.toumei-glass.com
文:葛山あかね
写真:藤本幸一郎、TOUMEI提供