いま、木工作家が吉野に移住している理由──「MoonRounds」渡邉崇さんが心奪われた“生きた木”のものづくり
エリア
「生きた木」がある吉野エリア
「生きた木がある」と移住する木工作家が増えているエリアがあります。
豊かな自然、心地よい静寂に囲まれる奈良県吉野。木目の美しさと見事な材質で知られる吉野杉や檜の産地です。
奈良県吉野郡川上村に住む「MoonRounds(ムーンラウンズ)」の渡邉崇さんは、2017年に大阪から家族で移住してきた木工家具職人。
木の個性を生かした器たち
「木が持つ個性を大切にした器や家具を届けていきたい」と日々木と向き合う渡邉さん。
その言葉通り、作品はどれも表情が豊かです。
中でも目を奪われたのは、珍しい黒柿の木でつくられた器。
黒柿は、木自身が生み出した木目の黒い模様が特徴で、150年以上経った古木しかその模様は現れないと言われています。
人が意図的に作ることもできません。
市場ではめったに出回らないその黒柿の木を丸々1本買い取り、木目にあわせて作品を考えるそうです。
どんな作品にするかは、素材ありき。だから、一つひとつ器の模様が違います。
大阪にいた頃は、伐採・製材された木を購入して、家具をつくっていた渡邉さん。
生きた木、つまり山の中に立っている木を間近で見ることができる川上村の環境に創作意欲を掻き立てられ、移住を決意しました。
製材された木ではなく、あえてゴツゴツした、いわゆる個性の強い木を見ると「ワクワクする」と言います。
渡邉さん曰く「川上村(吉野地域)には、丁寧に育てられた吉野杉や吉野ひのきもたくさんあります。そして、希少な黒柿や桑の木、自然が凝縮した楓の木など、自然から生まれる樹々もあります。素材それぞれの中に個性や美しさを見出して作品にしていきたいです」
何を作るか、からのものづくりではなく、木の形や色から何をつくるのかを想像するものづくり。
木と向き合い、木の特性を生かした渡邉さんの作品は、一つひとつ独特な表情を持ちながら、手触りがよく、手にしっくりと馴染みます。
木の個性を空間演出に。家具づくりにも挑戦。
渡邉さんは、器だけでなく、テーブルやスツールなど木の家具も手掛けています。
取材時は、企画展に向けてスツールを試作中でした。
「器だけでなく、空間がやわらかくあたたかになるような家具も作っていきたいです」
引き出した木の個性を、いかにその人の暮らしになじむ形にするか。素材と向き合い、使う人のことを想いながら、ものづくりの挑戦は続きます。
木の個性を生かした渡邉さんの器や家具は、暮らしに心地いい森林の風を運んでくれそうです。
<取材協力>
MoonRounds
奈良県吉野郡川上村川上東川179
080-2657-4526
https://www.instagram.com/moonrounds/
<企画展のお知らせ>
川上村「MoonRounds」をはじめ、東吉野村「エーヨン」「中峰渉」、下北山村「スカイウッド」の木の道具が集う企画展が開催されます。
企画展「吉野の木の道具」
日時:3月18日(水)〜4月14日(火)
開催場所:「大和路 暮らしの間」 (中川政七商店 近鉄百貨店奈良店内)
https://www.d-kintetsu.co.jp/store/nara/yamatoji/shop/index02.html
*企画展の開催場所「大和路 暮らしの間」について
中川政七商店 近鉄百貨店奈良店内にある「大和路 暮らしの間」では、奈良らしい商品を取り揃え、月替わりの企画展で注目のアイテムを紹介しています。
伝統を守り伝えながら、作り手が積み重ねる時代時代の「新しい挑戦」。
ものづくりの背景を知ると、作り手の想いや、ハッとする気づきに出会う瞬間があります。
「大和路 暮らしの間」では、長い歴史と豊かな自然が共存する奈良で、そんな伝統と挑戦の間に生まれた暮らしに寄り添う品々を、作り手の想いとともにお届けします。
この連載では、企画展に合わせて毎月ひとつ、奈良生まれの暮らしのアイテムをお届け。
次回は、「もんぺや」の記事をお届けします。
文:川口尚子、徳永祐巳子
写真:北尾篤司
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吉野杉のトレイ
9,350円(税込)