山形県には「山から福がおりてくる」…手仕事伝えるブランドからの“暮らしの提案”
エリア
「どうぞ、ゆっくりしていってください」
そう言われて、手招きされた先はこたつでした。
これは合同展示会「大日本市」でのひとコマ。この一画だけ、まるでおばあちゃんの家のような雰囲気です。
ブース中央には「山から福がおりてくる」というポスターが張り出され、そのまわりには張子人形や織物のバッグ、黒豆茶やカップ納豆汁といった食べ物など、様々なものが並んでいます。
山からの恵みに育まれてきた暮らし
「『山から福がおりてくる』は、山形の手仕事を紹介するブランドです」
そう教えてくれたのは、山形出身・在住のクリエイティブディレクター、吉野敏充さん。
どうりで取り扱うアイテムが幅広いわけです。
もともと、山形の工芸品の新たな商品企画やリブランディングを手がけてきた吉野さん。個々に活動している手仕事の工房や職人たちをまとめて、「山から福がおりてくる」の名のもとに山形の手仕事を広く紹介しています。
「山形には、山や雪に囲まれた中で培ってきたものづくりがたくさんあります。それらを『福』ととらえて、ふだんの暮らしの中に取り入れていくことを提案していきたいんですよね」
山形のモノ、体験を届ける
山形には兼業農家が多く、農家の夜仕事や冬仕事をベースにしたものづくりが多いとのこと。
こうした地域の暮らしに根付くものづくりの文化を絶やさぬよう、受け継いでいくことも「山から福がおりてくる」の一つの使命だといいます。
こちらの珍しい形をした注連縄 (しめなわ) も、そんな山形ならではの手仕事の一つ。地域の藁職人に学び、作り方を継承しています。
ある時は、山形で様々なものづくりをしている人たちを引き合わせることで新たなプロダクトを生み出すことも。
また、ある時は、伝統的な山形のものづくりに現代的な発想やデザインを取り入れた新しい提案もしています。
さらに、「売っておしまい」ではなく、山形のものづくりを未来につなげていく取り組みとして、「モノ」だけでなく「体験」も提供していこうとしています。
「いまはモノがあふれる時代。これから先、ずっとモノだけを売り続けるのは難しいと思うので、山形に足を運んでもらい、体験を通して山形やモノのよさを伝えられたらと考えています」
こうして様々な形でたくさんの人たちと協力する中で、改めて見えてきたことがあると吉野さんは言います。
「つくる人が皆やさしい。マイペースだから作業は決して早くはないんですけど、僕らが提案することを嫌がらずにやってくれるんです」
地域の人たちが惜しみなく共有してくれる、“山から届いた福”の数々。
そんなやさしさあふれる福のおすそ分けにあずかったら、なんだかいいことがありそうな気がします。
芽吹きの季節、山からの福をたっぷり享受してみたくなりました。
<取材協力>
山から福がおりてくる
http://yamakarafuku.jp/
文:岩本恵美
写真:志鎌康平 (トップ写真) 、中里楓