手を洗う時間に、佇まいのよい道具を。「美濃焼の詰め替えボトル」

2020年、出かける回数と真逆に圧倒的に増えたのが手洗いの回数でした。ポンプ式のハンドソープやアルコール消毒を使う人も多いかと思います。

「でも市販のボトルはメーカーごとにデザインもまちまちで、洗面台においた時にそこだけ浮いてしまうのが気になっていました」

そう語るのは、今年新たに登場する「美濃焼の詰め替えボトル」を手掛けたデザイナーの岩井美奈さん。

アイテム名の通り、ボトル本体はポンプをハメるくぼみ部分も含めて、全て焼きものでできています。大切にしたのは「佇まいのよさ」だったそうです。

「毎日頻度高く使うものだから、少しでも心穏やかに過ごせるよう、インテリアとしても楽しめるものをつくりたいと思いました」

今日はそんな思いを形にした「美濃焼の詰め替えボトル」のものづくりを探訪します。

うつわのように表情を楽しめるボトルに

岩井さんが「佇まいのよい詰め替えボトル」をつくるにあたって世の中のアイテムを調べてみると、その多くはプラスチック製で、容量もさまざま。デザインも情報を伝えることが優先のものが多く、インテリアとして置きやすいものは少ないことがわかりました。

「私自身、洗剤やハンドソープは詰め替え用を買うことが多いです。ただ見た目や質感まで気に入る容器にはなかなか出会えませんでした。

そこで思いついたのが、焼きもののボトルです」

「これまで私は食器などの企画を手掛けてきて、産地ごとに異なる焼きものの魅力にたくさん出会ってきました。うつわが食卓を引き立てるように、こういう容器もシンプルでいてちょっと揺らぎのある、うつわのような表情のボトルにできないかなと思ったんです。

また、焼きものは重さがある分、中身が減っても安定して使いやすい利点もあります」

こちらはアルコール消毒液・次亜塩素酸水等を入れて使える「美濃焼の詰め替えボトル シャワー用」

焼きもので詰め替えボトルを作る。

言葉にすれば簡単ですが、試作するほど、「世の中にあまりない」理由がわかってきたそうです。

機能と質感の両立を目指して

焼きものは通常、釉薬をかけて焼くことで水分が素地に染み込むのを防ぎ、汁物などを内側に溜めることができます。

その色合いはもちろん、質感もマットなもの、さらり、ツルリ、様々。つくり手はイメージするうつわの機能や表情を目指して、数種類を配合して焼き上げます。

今回岩井さんが選んだのは、均一なきれいさよりも、焼いた表面にわずかな揺らぎを感じさせる釉薬。

「洗面台のように真っ白でツルリと冷たい印象のものよりは、少しアイボリーに近い、温かみや表情のある質感にしたいなと思いました。手を洗う間に、少しでもホッとしてもらえたらいいなと。ただ、そういう釉薬は粘り気があって、溜まるんですよね」

溜まる、とは?

「かけた釉薬が均一に流れずに、例えばポンプをハメる部分の凹凸に溜まってしまうんです。そうすると焼いた後に、ポンプと噛み合わなくなってしまいます」

右側は釉薬が溜まってしまい、ポンプと噛み合わなくなってしまったもの

目指すのは、インテリアとして置きたくなる、佇まいのよいボトル。機能を果たしながら、質感も大切にしたい。

岩井さんが、この難しいチャレンジを共にするパートナーに選んだのが、美濃焼の産地でした。生産量日本一を誇るどんぶりやモザイクタイルをはじめ、多種多様な製品を手掛ける、日本有数の焼きもの産地です。

日本有数の焼きもの産地・美濃焼でつくったうつわ「産地のうつわ きほんの一式」シリーズ

「一番の難関はやはりポンプとのかみ合わせの部分。ここは高度な技術がないとつくれません。幅広いうつわづくりの実績を持つ美濃焼のメーカーさんなら、きっと実現できるんじゃないかと思いました」

美濃焼は、他の多くの焼きもの産地と同じく分業制のものづくりが浸透しています。うつわの型を作る型屋さん、釉薬を配合するメーカーさん、実際に焼き上げる窯元さん、それぞれと共同で試行錯誤が繰り返されました。

「釉薬でいい質感が出ても、ポンプが噛み合わなければ型を微修正。今度はうまくいった、と思っても、ちょっとした釉薬の調合や窯の中での焼き加減で仕上がりにムラが出てしまったり。新しいチャレンジなので、そんな簡単にうまくいくわけもないんですよね」

一進一退の開発の先にようやく、世の中にありそうでなかった焼きものの詰め替えボトルが完成を迎えました。

左から、手洗い石鹼を入れて使える「液体用」「ポンプ用」、アルコール消毒液を入れて使える「シャワー用」。色は「白」「グレー」の2色

ここを褒めて欲しい、というポイントはありますか?と岩井さんに尋ねると、「私はいいです、つくり手のみなさんの技を褒めて欲しい!」と即答。

「今回はコロナの影響で、ほぼ電話だけのやりとりでものづくりをせざるを得ませんでした。それでも、思わしくない焼き上がりになるたび、『もう一回チャレンジしていいですか?』って電話をかけてきてくれるんです」

いつもと勝手の違うものづくりを強いられながら、繰り返し繰り返し、微調整をしてたどりついた「佇まいのよい」詰め替えボトル。

見た目に楽しめるだけでなく、そこには「手を洗う時間が、少しでも心穏やかなものになるように」との願いがたっぷり詰まっています。

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