メーカーの悩みを全力サポート。中川政七商店もうひとつの顔「産地支援」の仕事とは?

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中川政七商店にはいくつかの顔があります。

まず暮らしの道具を「つくる」こと。
つくったものをお店などを通して世の中に「伝える」こと。

そしてもう一つが、全国の工芸メーカーの経営や流通をサポートし「支える」ことです。

せっかくつくった品物でも、必要としている人に届かなければ意味がありません。

そこで中川政七商店が行っているのが、「大日本市」という合同展示会。自社だけでなく全国のつくり手が集い、「日本の“いいもの”と、“いい伝え手”を繋ぐ」場を提供しています。

「でも一体、なぜ他メーカーのサポートを?」

今日はあまり知られていない、全国のメーカーのサポーターとしての中川政七商店の顔を、その理由とともにご紹介します。

出展したいと思える展示会、ないならつくる。

「ついに注文とれました!」そんな声が飛び交うのは、中川政七商店が主催する合同展示会「大日本市」会場。

中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げていますが、つくり手が元気になるためには、「欲しい」と思う人にしっかり届く、流通の出口が大切です。かつて中川政七商店が販路を開拓しようと考えたとき、出展したいと思える展示会になかなか出会えませんでした。

ないなら、自らつくる。本当の意味で全国の工芸メーカーが自立し、事業を継続していくために、つくり手それぞれが意思をもって売り手や使い手と向き合う場をつくりたい。そんな思いから合同展示会「大日本市(だいにっぽんいち)」をはじめたのは、2011年のことです。

大日本市ってどんな展示会?

大日本市の特徴は、大きく2つあります。

ひとつは地域のものづくりに特化していること。テーマがはっきりしているので、選んで足を運んでくれるバイヤーさんとの商談も弾みます。

自社で初めてブランドを立ち上げたというメーカーの出展も多く、一回一回のバイヤーさんとの会話が真剣勝負。毎朝、前日の売上と来場者による人気投票結果が発表される朝礼では、出展者同士がお互いの結果に一喜一憂し、励まし合う姿が恒例です。

この大日本市がきっかけで大きな飛躍を遂げたのが、中川政七商店が工芸再生支援し、第一回大日本市に出展した長崎県の波佐見焼メーカー、マルヒロでした。

当時倒産寸前まで追い込まれていたマルヒロが大日本市でデビューさせた自社初のオリジナルブランド「HASAMI」は、会場で大手セレクトショップやメディアの目に留まり、そこから徐々に売り上げを伸ばし、今では波佐見焼の名を世に知らしめる存在となっています。

大日本市の特徴、もうひとつは「学びの場」という意識です。

「どう生産管理をしたら良いか?」
「お客さんとのコミュニケーションの取り方は」

扱う品物は違っても、メーカーが抱える悩みには共通のものも多くあります。そこで大日本市では、参加する企業むけに勉強会を企画し、展示会での商品のPRの仕方などを学べる機会を提供しています。

接客勉強会で、バイヤー役とメーカーに分かれてシミュレーションする様子
勉強会での学びを活かし、つくり手が積極的にバイヤーに商品の魅力をプレゼンする姿が会場のそこかしこで見られる

最近では、大日本市に継続して出展するメーカーが先輩として新規デビュー企業に接客のコツを伝授するなど、横のつながりや交流が、大日本市の文化として育ちつつあります。

初めは3社から始まった小さな合同展示会は、回を重ねるごとに接客や展示ディスプレイの内容をアップデート。少しずつ規模を拡げ、昨年からはオンライン展示会もスタートさせました。進化し続ける展示会に、今では日本各地のメーカー約60社が集結し、全国から約3000名のバイヤーが訪れるようになっています。

つくり手のサポートだけでなく、バイヤー向けのトークイベント等も実施

目指すのは、未来の問屋

しかし、メーカー共通の悩みは、まだまだつきません。

「顧客管理が大変でなかなか新商品の開発に手が回らない」
「発送に資材も人も時間もとられて大変」

実はこうした部分は、かつては産地のプロデューサー的存在である、各「産地問屋」が担っていた仕事でした。

市場のニーズをいち早く掴み、つくり手の特徴を熟知して、新商品を企画したり、流通を引き受けたり。つくり手と使い手をつなぐ欠かせない存在であったはずの産地問屋ですが、工芸の衰退にともない少しずつ減っているのが現状です。

問屋不在の中、いちメーカーが商品企画からバイヤーへの商談、在庫管理に発送まで全てを自社で担うのは簡単ではありません。結果として新商品開発に手が回らない、つくっても売り先がない…といった悪循環を、かつては私たちも経験してきました。

この、工芸をめぐる長年の問題を、なんとか解決したい。つくり手と伝え手、どちらの経験も積んできた中川政七商店だからこそできることがあるはず。そんな思いから今、中川政七商店が新たに取り組んでいるのが、全国のメーカーの流通を継続的にサポートする「問屋」事業です。

自らもメーカーとしてつくり手に寄り添いながら、全国約60の直営店と、これまでに築いた全国の小売店とのつながり、そして大日本市という場を生かして、ものづくりの魅力をきちんと世の中に伝えていく問屋を目指します。

大日本市が消滅するとき?

合同展示会の主催に、継続的にメーカーの流通をサポートする問屋事業。

一見、「なぜわざわざ他の企業のサポートを?」と思えることも、中川政七商店にとっては大切な意味があります。

ひとつには、ともにものづくりをする仲間が増えること。

中川政七商店は自社工場を持ちません。協業する全国のつくり手が元気にものづくりを続けてくれていればこそ、私たちは自社のものづくりを行うことができます。

展示会にも出展する堀田カーペットと一緒につくった「ウールカーペットのスリッパ」の開発風景

もうひとつは、展示会や問屋事業を通して全国のいいものが集まれば、流通手段である中川政七商店の直営店の品揃えが充実する、ということ。お店に並ぶものが多様化すれば、日本のものづくりの魅力を知ってもらうきっかけが増えることにつながります。

そうして一つひとつ、一人ひとり、つくり手と使い手がつながってゆけば、きっとその先に「日本の工芸を元気にする!」が達成された未来があるはず。

もし大日本市が幕を閉じる時が来るとしたら、それは日本の工芸が元気になった時。そんなことをスタッフ同士で話しながら、今日も中川政七商店は全国の工芸メーカーのサポーターであり続けます。

「大日本市」の取り組みに興味をもってくださった展示会出展希望のメーカー様、商品お取り扱い希望の小売店様は、下記専用サイトよりお問い合わせください。

現在、中川政七商店公式オンラインショップでも、「大日本市」出展商品を期間限定でご紹介しています。

文:尾島可奈子

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