母の日の贈りもの、一生ものの日傘
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こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
たとえば1月の成人の日、5月の母の日、9月の敬老の日‥‥日本には誰かが主役になれるお祝いの日が毎月のようにあります。せっかくのお祝いに手渡すなら、きちんと気持ちの伝わるものを贈りたい。この連載では毎月ひとつの贈りものを選んで、紹介していきます。
第5回目のテーマは「母の日に贈るもの」。今年は5/14です。ご準備はお済みでしょうか。定番は何と言ってもカーネーションですが、ものを贈るとなると、あれこれ迷ったりもします。今年は奮発していいものを贈ろう、という人に、おすすめしたいものがあります。それはこれからの季節に活躍する日傘。それも、一生付き合える日傘です。
傘と言うとちょっとした衝撃で骨が曲がってしまったりして、気に入ったものでも数年と使い続けるのは難しい印象ですが、東京・台東区にある洋傘店、前原光榮商店さんの傘は一度買ったらずっと付き合える一生ものの傘として人気です。
皇室御用達の洋傘
前原光榮商店さんの歴史は1948年、初代・前原光榮さんが東京にて高級洋傘の企画・製造・販売を開始したところから始まります。1961年には株式会社化し、1963年、皇室からのご用命を受けるように。傘づくりの工程は、「生地」づくり、「骨」組み、生地を骨組みに貼り合わせていく「加工」、手に握る「手元」づくりの4つに大別されます。その全てを、前原さんでは人の手で行っています。
伝統的な機が織りなす生地づくり
かつて甲斐織物の産地だった山梨県の富士山麓の伝統的な機(はた)を使って、時間をかけてオリジナルの生地を織っています。一方、こうした生地を扱うノウハウを生かして、他社ブランドの生地とコラボした商品づくりも行われています。
一本の角材から始まる骨づくり
中棒(中心の棒部分)は元は一本の角材から削り出されたもの。自然のものだからこその木地のクセや曲がりを熱を加えながら整えて、少しずつ真っ直ぐに仕上げるそう。ここに生地を張り合わせる骨を組んでいきます。
手製の木型でこそ生み出せる傘のシルエット
傘の生地は、よく見ると三角形の生地を縫い合わせてあるのがわかります。大量生産傘の場合、生地を何枚も重ねてまとめて裁断をしますが、前原さんの場合は4枚重ねでの裁断。そうすることで効率は悪くとも、より精度高く生地を裁断できると言います。職人さんは自前の三角型の木型をそれぞれに持っていて、その形に合わせて生地を裁断しているそう。こうして生地の形を細やかに整えることで、変につっぱったりたわんだりしない、開いたときに美しいカーブを描く傘のシルエットが生まれます。
天然素材を生かした手元
前原さんの傘の手元はそのほとんどが天然素材。寒竹、楓、エゴの木、ぶどうの木と、素材によって傘の印象もまたガラリと変わるそうです。面白いのはその加工方法。本来真っ直ぐ生えている木材にカーブを描かせなくてはならないため、火で熱を加えたり、熱湯につけて柔らかくしたり。特性に合わせて素材と向き合います。
一生付き合える理由
こうした丹精込めた傘づくりの工程を追うだけでも、特別な贈りものにふさわしいように思えますが、中でも前原さんの傘を贈りものにおすすめしたい理由は、その修理サービスにあります。前原さんでは、傘がどんなに大きく損傷してしまってもパーツをなくしてしまっても、替えの材料在庫がある限りは、自社で作った全ての傘の修理を引き受けています。全ての工程を人の手で行っているからこそ、壊れてしまったときも人の手で直すことができるのですね。
そして何より嬉しいのが、生地がくたびれてしまったら、新しい生地と張り替えができること。同じ生地でも、全く違う生地にも、相談次第で張り替えができるのです。悪いところをなおす、という消極的な修理ではなく、長く傘を愛用してもらうための、積極的な修理。一生ものの傘、の理由はここにあります。
日傘をさす立ち姿は、女性を一層上品に、女性らしく見せてくれるように思います。いいお母さんでいて欲しいというよりも、いつまでも美しく、素敵な女性でいて欲しいと願う母の日の贈りものに、ずっと美しく、持つ人を装う日傘を一本、贈るのはいかがでしょうか。
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<取材協力>
前原光榮商店
*修理は有料で、傘の状態によって金額が変わります。
文:尾島可奈子